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禁煙補助剤バレニクリン(チャンピックス)の精神作用について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
チャンピックスの精神疾患リスク.jpg
今年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
禁煙補助剤バレニクリン(商品名チャンピックス)の、
精神系の副作用や有害事象についてのメタ解析の論文です。

バレニクリンは現在使用されている、
禁煙補助剤の中では、
最も有用性が高いことは世界的に認められ、
使用がされている薬剤です。

この薬は脳においてニコチン様の作用を示すことが、
その主な作用となっているので、
発売の当初から脳への刺激が、
精神系の副作用に繋がるのではないか、
という危惧がありました。

バレニクリンの使用により、
うつ状態や自殺企図、自自殺リスクの増加などが、
生じるのではないか、という報告も一部にあり、
それが問題視されたこともありました。

ただ、少数の事例の報告はあっても、
ある程度まとまった集団のデータで、
そうしたリスクの増加が示唆されたことはなく、
薬には意地悪なことで有名なコクラン・レビューが、
2012年にまとめた報告でも、
不眠や悪夢のリスクの増加は指摘されていますが、
それ以外の精神系の有害事象は触れられていません。

バレニクリンを用いた禁煙治療で1つ問題になるのは、
精神疾患をお持ちの方に対する、
この薬の使用をどう考えるか、ということです。

診療所でも禁煙治療を行なっていますが、
精神疾患で他の医療機関で治療をされていて、
当院での禁煙治療を希望される方が時々いらっしゃいます。

そうした場合には、
必ず主治医の許可が得られているかどうかを尋ねるのですが、
対応は意外にまちまちで、
抗精神薬を服用されているような場合には、
チャンピックスの使用は不可と言われる先生もいますし、
問題ないので使用して下さい、
と言われる先生もいます。

ただ、僕は個人的には、
チャンピックスで精神状態が一時的に不安定になることは、
理屈から言ってもないとは言い切れず、
また禁煙する、ということ自体が、
かなりのストレスになることでもあるので、
主治医の先生のご同意があることに加えて、
その時の患者さんの状態をお聞きして、
もし精神的な状態が不安定なのであれば、
安定するまで禁煙治療はせず、
なるべく本数を減らす、くらいに考えて頂いた方が良い、
という考えでご説明をしています。

精神疾患の患者さんへのバレニクリンの使用については、
藤田保健衛生大学精神科の、岸太郎先生が、
2014年のEur Arch Psychiatry Clin Neurosci.誌に書かれた文献があり、
上記論文にも引用されています。
これはこれまでの臨床研究から、
統合失調症の患者さんに対しての、
バレニクリンの使用事例を偽薬と比較してメタ解析したものですが、
結論的にはうつ状態や希死念慮などに、
バレニクリンによる影響はなかった、
というデータになっています。
ただ、偽薬と比較して、
トータルに禁煙達成効果は認められておらず、
この問題の難しさを示唆するものだと思います。

さて、今回の研究は、
これまでの39の介入試験と呼ばれる、
厳密な方法によるバレニクリンの効果を検証した臨床試験のデータを、
まとめて解析した、
これまでで最も規模の大きなメタ解析で、
バレニクリンの使用による、
うつや自殺企図などの、
精神系の有害事象のリスクをそのターゲットにしています。

この中には精神疾患の患者さんも、
一部は含まれていますが、
トータルにはそうでない対象者が大部分です。
対象者は10761名に上っています。

その結果、
自殺や自殺企図、うつの発症、イライラや衝動性、
といった項目では、
統計的に有意なリスクの増加は認められませんでした。

一方で睡眠障害のリスクは1.63倍(1.29から2.07)、
悪夢のリスクは2.38倍(2.05から2.77)、
倦怠感のリスクは1.28倍(1.06から1.55)と、
それぞれ有意に増加が認められました。
不安感は逆に25%有意にリスクの低下を認めていました。

これはコクランレビューともほぼ一致している結果で、
現状では事実に近いと考えて良いように思います。

つまり、
バレニクリンの使用により、
不眠や悪夢は比較的多い有害事象ですが、
それ以外の精神疾患の発症や悪化、
自殺や自殺企図のリスクの増加などは、
明確な増加としては認められない、
と考えて良さそうです。

従って、精神疾患の患者さんでも、
病態が安定していれば、
必ずしもバレニクリンを禁忌と考える必要はないのですが、
禁煙自体が精神状態を不安定にする行為ではあり、
かつ不眠や悪夢が生じれば、
それが精神疾患に、
悪影響を与える可能性は残りますから、
その辺りを慎重に勘案の上で、
その適応は決める必要があると思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

下記書籍引き続き発売中です。
よろしくお願いします。

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コメント 2

みなみ

初めましてこんにちは。突然のコメントすみません。石原先生にお尋ねしたいことがありコメントさせていただきました。
私は20歳女なのですが、中学生の頃から無気力が続きガス欠するように寝たきりになり廃人のような日々を送っています。

色んな精神科にかかりましたが、精神疾患ではないと複数の医師から言われています。病院の血液検査でも、異常なしと言われてきましたが、先日再び今の心療内科の主治医に言われ血液検査を行ったところ、担当して下さった医師は正常の範囲内で異常なしと仰っておられましたが、心療内科の主治医が、起立性調節障害ですと診断されました。主治医曰く、今まで検査を担当した医師が木を見て森を見ない、一つ一つの項目だけを見て判断してるから気がつかなかったんです、ということらしいですが、主治医は私の血圧を測っておりません。血液検査の結果の紙だけをみて判断しております。薬がコートリルやドプスがいいらしいそうですが、メンタルクリニックなので内科系は処方できないと言われ、血液検査をしていただいた病院に相談しに行ったところ、血圧を測ったわけでもないのにどういう根拠で起立性調節障害と診断されたのかがわからないと言われました。困ったのでネットで検索しこちらのブログに辿り着きご相談させていただきたく問い合わせをさせていただきました。以下長くなりますが宜しくお願い致します。お忙しい中申し訳ありません。

過去、中学生の頃に個人総合クリニックで起立性調節障害と言われたことはありましたが、その後大学病院でMRIや寝て起きて血圧を測る検査を受けましたが偏頭痛や低血圧だけど異常なし病気ではありませんでした。

長年身体の疲労感や無気力感、記憶障害(感覚なのですが脳に酸素が回っていない足りてない感じがかなりします。)激しい知力低下で、寝たきりです。通院の時は頑張って歩きます。全く何もできない日もあれば、歩ける時は2.3時間楽しんで歩き、周囲の人達に驚かれます。洗濯と掃除ができれば、私の中でかなり頑張れた方です。それ以上は頭も全くといっていい程回りませんし、身体が鉛のように重たいです。用事で出かけ道端を歩いていて、疲れ果て座り込んだり道路で吐いたり、バスや電車、病院など公共の場所でも疲れて息苦しくきちんと座れずだらんと座り込んでしまいます。頭が兎に角回らず頻繁に迷子になったりボーッとしたり、元気な頃に簡単に出来ていた勉強なども、今は全く、小学校低学年レベルもわかりません。本なども読めません。ですが鬱や精神疾患ではないと言われます。


血液検査の結果で看護師さんや心療内科の主治医が気になった項目が

フェリチン
結果値 28.3
上限値 157
下限値 5ng/ml

ACTH 前
結果値 7.4
上限値 55.7
下限値 7.4pg/ml

コルチゾール 前
結果値 8.9
上限値 21.1
下限値 4.5ug/d

フェリチン
結果値 28.3
上限値 157
下限値 5ng/ml

K
結果値 3.4L
上限値 5
下限値 3.5mEq/l

Fe
結果値 49L
上限値 170
下限値 5ug/d

CU
結果値 155H
上限値 130
下限値 66ug/d

CK(CPK)
結果値 23L
上限値 170
下限値 45U/l

CPR定量
結果値 0.91h
上限値 0.3
下限値 0mg/dl

です。心療内科の主治医曰く、上限値下限値は平均的な体格の人を基準にしてるから、君は相当低い、異常な程低いと言われました(170センチ56キロ程です)また、手に出てるそうで主治医だけではなく、他院の看護師さんにも指摘されました。

中学生からろくな食生活をしていません。過食や過食嘔吐ばかり何年も続いてきており、また不眠も中学生の初期から今まで続いております。まともな睡眠も取れていません。メンタル系のお薬は4年飲みましたが効果がなかったので断薬し現在は服薬しておりません。私は本当に起立性調節障害なのでしょうか。また、副腎疲労や慢性疲労、低血糖などはいかが思いますか?個人的にフェリチンとコルチゾールの結果値が気になります。

現在糖質制限を行い始めましたが、大丈夫でしょうか。サプリはあくまでも補助なので、DHCの亜鉛とヘム鉄だけで大丈夫と言われましたがなんだか足りるのかな?と不安です。検査時もこのサプリを飲んでいましたが私の体格でこの数値です。

石原先生は私の結果を見てどう思われますか。起立性調節障害という診断をどう思われますか。また薬はコートリルとドプスはどう思われますか。御意見をお聞かせ願えたらと思います。宜しくお願い致します。
拙い文章失礼致しました。
by みなみ (2015-03-16 14:21) 

fujiki

みなみさんへ
ACTHとコルチゾールの数値は、
測定が午前中であるとすると低めで、
心療内科の先生はこの点を気にされたのではないか、
というように思われます。
ただ、数値は微妙で、
明確に副腎皮質の機能低下があるとは、
この測定だけでは判断は出来ません。
フェリチンは特に問題はないように思います。
症状からは、
矢張り起立性調節障害の関与が、
想定されるように思います。
この用語は以前よりも広範囲に、
自律神経系のアンバランスに対して、
使用されていると思います。
もう一度、安静から起立時の血圧や脈拍などの測定は、
行なって見た方が良いのではないでしょうか。
その上で適応があれば、
ドプスやコートリルの使用も、
選択肢の1つであると思います。
by fujiki (2015-03-16 21:44) 

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