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遺伝子リスク毎に見たスタチン治療の意義について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
スタチン使用の遺伝的背景のメタ解析.jpg
今月のLancet誌にウェブ掲載された、
心筋梗塞や脳卒中のリスクと遺伝子素因との関連を検討した論文です。

遺伝子解析の検査が、
医療機関ではない企業で、
商品として販売され、
日本でも複数の企業が参入して、
一種の健康ビジネスとして宣伝がされています。

それは概ね唾液を取って、
その中の遺伝子を解析し、
SNP(スニップ)と呼ばれる、
遺伝子の配列の1つの塩基の違いを、
パターン化して解析したものです。

あるSNPの変異のあるなしで、
病気の発症リスクが変化するので、
それを遺伝子診断と称している訳です。

ただ、現状同じ病気に対しても、
どのような文献や研究を参照するかによって、
対応するSNPが遺伝子診断のメーカーによっても異なり、
結果も異なる、というのが実状です。

口の悪い人は、
「あれはただの占いに過ぎない」
というように言うこともあります。

実際のところはどうなのでしょうか?

検査自体はそう間違いのないものなのですが、
その解釈と、
それをどのように医療の臨床に結び付けてゆくのか、
というような点については、
まだあまり明確な方針が出ていないように思います。

心筋梗塞や脳卒中などの、
所謂虚血性心疾患の予防と治療というのは、
臨床医学において大きな部分を占めています。

ご存知のようにこうした病気は、
遺伝的な要素と生活習慣などの環境要因によって、
その発症が左右され、
概ね30から60%が遺伝的な素因に左右される、
と考えられています。

心血管疾患の予防のガイドラインにおいては、
これはご家族にこうした病気の方がいるかどうか、
というような項目でしか、
反映はされていません。

せっかく、SNPによる遺伝子解析が普及しつつあるのであれば、
それをうまく活用して、
より精度の高い予防に結び付けることは出来ないでしょうか?

心血管疾患、特に心筋梗塞の予防においては、
スタチンと呼ばれるコレステロールの降下剤が、
コレステロールの低下作用のみならず、
抗動脈硬化作用を持っていることが分かっていて、
その使用により心筋梗塞が予防されることも証明されています。

ただ、コレステロールが異常高値でなくても、
スタチンは有効な場合があり、
たとえば遺伝子解析で心血管疾患のリスクが高いSNPの変異があれば、
スタチンの良い適応と、
想定されるケースもありそうです。

今回の研究では、
スウェーデンにおける生活習慣病の疫学データ及び、
これまでの4種類のスタチンの効果を見た大規模臨床試験のデータを、
まとめて解析して、
そこに含まれているSNPの解析データと、
虚血性心疾患のリスクとの関連、
及びスタチンの予防効果との関連を検証しています。

今回検証されているSNPの一覧がこちらです。
心血管疾患の遺伝リスク.jpg
これが全て心筋梗塞や狭心症のリスクとして想定されているものです。

これらをトータルに重み付けして、
このうちのどれを持っているかによって、
その方の遺伝性のリスクを計算します。

そして、それを5等分し、
1が低リスク、
2から4が中等度リスク、
そして5が高リスク群に分類します。

すると…

低リスク群と比較して、
中等度リスク群は1.34倍(1.22から1.47)、
高リスク群は1.72倍(1.55から1.92)、
それぞれ有意に虚血性心疾患のリスクは増加しました。

そして、
スタチンの臨床試験からの解析では、
低リスク群でのスタチンの有効性は、
相対リスクで虚血性心疾患を13%低下させたのに対して、
中等度リスク群では29%低下させ、
高リスク群では48%の低下を示しました。

つまり、
SNPによる遺伝性のリスクが高いほど、
虚血性心疾患のリスクも高まり、
スタチンによる予防の効果もより高まる、
という結果になっています。

現状活用されている遺伝子解析のデータが、
そのままこのように活用出来る、
というものではありませんが、
1つの活用法としては、
遺伝性のリスクが高い方では、
より積極的にスタチンによる一次予防を検討することが、
一定の蓋然性を持つようには思います。

今後臨床の学会においても、
遺伝子解析の商品についての知見を深め、
それが活用可能であれば、
一定の重み付けをした上で、
スタチンなどによる予防の適否の選択に、
使用することが望ましいのではないでしょうか?

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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