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甲状腺穿刺吸引細胞診による甲状腺結節の梗塞について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は別件の仕事で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
甲状腺穿刺吸引細胞診による腫瘍の梗塞.jpg
2013年11月のJAMA Otolaryngol Head Neck Surg.誌に掲載された、
甲状腺関連の小ネタですが、
甲状腺癌の診断のための検査により、
癌組織に梗塞の起こることがある、
という事例のまとめです。

甲状腺に超音波検査で悪性が否定出来ないしこりが見付かると、
通常甲状腺に細い針を刺して、
細胞を吸引して細胞の形を見る検査を行ないます。

これが甲状腺の穿刺吸引細胞診です。

使用する針は、
注射に使用する針の、
それも細いものですから、
通常は首に小さな血腫が出来るようなことを除けば、
概ね合併症は少ない、
安全な検査と考えられています。

しかし、
稀に起こることが知られているのが、
穿刺した甲状腺の結節に起こる梗塞です。

これは甲状腺好酸性細胞腺腫(Hurthle cell tumor)という、
良性と悪性の判断の難しい、
特殊な甲状腺腫瘍に専ら生じる現象である、
とかつては考えられていましたが、
最近は通常の甲状腺乳頭癌においても、
そうした現象の起こる事例が複数報告されています。

梗塞というのは、
血管の閉塞によって、
組織が壊死することですが、
それが何故問題になるかと言うと、
癌の手術を行なった後で、
その組織を検証する際に、
組織の壊死や出血などの所見が、
時間が経つと癌の周囲への浸潤や、
転移のように誤認されてしまう可能性がある、
という点にあります。

つまり、
癌の悪性度が実際より悪く判断され、
本来は必要のなかった、
放射性ヨードの治療や抗癌剤の使用、
再手術などが、
誤った判断から行われるというリスクがあるのです。

今回の研究では、
アメリカの救急医療機関において、
2006年から2012年に穿刺吸引細胞診で診断された、
甲状腺乳頭癌の事例620例の組織所見を検証し、
そのうちで1.9%に当たる12例において、
癌組織の梗塞を確認しています。

つまり、このくらいの頻度では、
穿刺吸引細胞診により、
甲状腺の部分的な梗塞が起こるもののようです。

甲状腺の穿刺吸引細胞診は、
基本的には安全で有用性の高い検査ですが、
その合併症として甲状腺結節の梗塞があり、
それが手術後の組織所見に影響の判断に影響を与える可能性がある、
という事実は、
念のため押さえておいた方が良さそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 3

dumbo

fujikiさま、こんにちは。
細胞診はジレンマですね。
通常の細胞でも、再生を促しますので、
なおさら、癌細胞ならば増殖を加速させかねません。
ましてや、瘢痕が誤認の原因を作るのでは、
考えさせられます。


by dumbo (2015-03-18 14:00) 

fujiki

dunboさんへ
コメントありがとうございます。
基本的に細胞診が予後に影響をあたえることは、
ほぼないと考えられますが、
術後の進行度診断に、
予備知識がないと影響を与える可能性がある、
ということのようです。
by fujiki (2015-03-19 06:24) 

dumbo

fujikiさま、こんにちは。
ご丁寧なご返答ありがとうございます。
こんな論文を見つけましたのでご覧下さい。
Cancer Cell. 2011 Nov 15;20(5):576-90.
これは私の感想ですが、少なくとも出血させるといけなさそうに感じます。
細胞診、難しいですね。
by dumbo (2015-03-19 09:49) 

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