腎機能低下時のメトホルミンの使用法について [医療のトピック]
こんにちは。
六号通り診療所の石原です。
今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談に廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
昨年のJAMA誌のレビューですが、
メトホルミンという2型糖尿病の第一選択の飲み薬の、
腎機能低下における使用の安全性を検証したもので、
臨床的に直結した非常に役立つ文献です。
メトホルミンは糖尿病治療の基礎薬としての意義が、
世界的に確立した薬剤です。
そのメカニズムは長く不明でしたが、
近年になり、肝臓における糖新生という、
ブドウ糖産生経路を抑える働きが主であることが、
ほぼ確認されています。
この薬はインスリンそのものの分泌を刺激するような性質はないので、
インスリンの分泌が高度に減少したような病態では、
それほどの効果が期待出来ません。
一方でインスリンの効きが悪くなる、
所謂インスリン抵抗性のある場合には、
その効果は充分に発揮されます。
欧米特にアメリカでは、
2型糖尿病はほぼ「肥満病」なので、
病態は主にインスリン抵抗性にあり、
メトホルミンが第一選択薬なのですが、
日本の2型糖尿病は少なからぬ部分が、
インスリンの分泌が少ないことによる、
肥満のないタイプの糖尿病なので、
欧米と同じように、
全ての事例でメトホルミンを第一選択とするのは誤りだと思いますが、
専門外のネットなどで幅を利かせている先生が、
「日本の糖尿病治療はこれだけデタラメだ!」
というような理解の薄いゴミのような見解を、
あちこちで撒き散らしているのは、
読んでいて切ない気分になる景色です。
ただ、これまで日本の糖尿病診療において、
メトホルミンが必要以上に低く扱われ、
使用が控えられて来たことは事実です。
これは、その副作用である乳酸アシドーシスの発症が、
問題視されたことと共に、
当時次々と発売されたSU剤というタイプの薬剤が、
その使用し易さと効果の確実さから、
日本人にはより優先されるべきではないか、
というような考えられた経緯がありました。
ただ、その後SU剤には、
その効果に限界があり、
低血糖の合併症の多さが、
患者さんの予後に悪影響を与える可能性が示唆されるようになると、
日本でもメトホルミンの再評価の機運が高まるようになったのです。
さて、日本のみならず海外においても、
メトホルミンの副作用で問題となるのは乳酸アシドーシスです。
筋肉の疲労物質である乳酸は、
肝臓で糖新生によりブドウ糖になるのですが、
それをメトホルミンは妨害するので、
結果として乳酸は蓄積し易くなり、
特に糖尿病のコントロールが悪くて、
ケトン体が溜まり易い状態にあったり、
お酒を飲んでいて肝臓に負担が掛かっていると、
より乳酸の蓄積が起こり易くなり、
乳酸を身体で利用する力が弱いと、
血液が酸性になって、
下痢や嘔吐などの症状が出現し、
重症化すると意識が混濁して命にも関わることがあります。
これがメトホルミンに誘発される乳酸アシドーシスです。
メトホルミンによる乳酸アシドーシスは、
その先行薬と比較すると、
それほど頻度の高いものではない、
というのが現状の認識です。
ただ、乳酸アシドーシスの起こり易さには、
多分に体質的なものが関与していて、
日本人は欧米人と比較して、
乳酸アシドーシスは起こり易いのでは、
という意見もあります。
欧米ではメトホルミンは有害事象の少ない薬と、
基本的には考えられていますが、
この薬は腎臓で代謝され排泄されるため、
腎機能の低下している患者さんと、
腎機能の低下が想定される高齢者では、
その使用はより慎重に行なうことが求められています。
現行のアメリカFDAの処方ガイドラインでは、
メトホルミンの使用は、
腎機能低下では適応外とされ、
その目安は血液のクレアチニン濃度が、
男性で1.5mg/dL以上、
女性で1.4mg/dL以上となっています。
また、年齢が80歳以上においては、
腎機能が確認されない場合には、
原則使用しないように求められています。
しかし、このガイドラインには明確な根拠はなく、
腎機能の確認のないまま、
メトホルミンが使用されているケースは、
国内外を問わず多いことが想定されます。
実際に、腎機能低下の程度によって、
どの程度の乳酸アシドーシスのリスクが、
存在するものなのでしょうか?
それを検証する目的で、
今回の文献においては、
これまでのメドラインやコクラン・データベースの、
臨床試験や疫学データなどを解析することにより、
実際に腎機能が判明している2型糖尿病の患者さんに対して、
メトホルミンを使用した場合の、
乳酸アシドーシスの発症リスクを解析しています。
その結果…
血液のクレアチニン濃度から推計される、
腎機能の指標である腎糸球体濾過量が、
30から60mL/min per 1.73㎡である場合には、
メトホルミンを通常通りに使用しても、
その血液濃度は安全域に収まり、
問題はない可能性が高いとされています。
メトホルミン使用患者の乳酸アシドーシスの発症率は、
年間10万人当たり3人から10人の幅に分布していて、
これは糖尿病の患者全体の発症率と違いはない、
と言う結果になっています。
こうしたデータを踏まえて、
次のようなメトホルミン使用の指針が作成されています。
こちらです。
アメリカでのメトホルミンの、
通常の使用量は1日2550ミリグラムまでですが、
この指針では腎糸球体濾過量が60以上であれば、
用量はそのままで問題ないとされています。
そして、45から60未満では上限を2000ミリグラム、
30から45未満では1000ミリグラムに減量し、
30未満では使用禁忌となっています。
この指針が、
そのままで日本でも使用可能とは、
言い切れませんが、
概ねこの基準を元に、
もう少し安全域を広く取るのが、
妥当な線ではないかと思います。
個人的には推計の腎糸球体濾過量が60以上であれば、
1500ミリグラムを上限にメトホルミンを使用し、
それを下回るケースでは、
原則として新規の使用は控えるようにしています。
80歳以上ではメトホルミンの新規の使用は、
これも原則として行なっていません。
ただ、以前から使用している患者さんが、
80歳を超えたり、
糸球体濾過量が60を切るケースでは、
今回のデータを元に、
減量で対応するのが妥当ではないかと考えています。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
下記書籍引き続き発売中です。
よろしくお願いします。
六号通り診療所の石原です。
今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談に廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
昨年のJAMA誌のレビューですが、
メトホルミンという2型糖尿病の第一選択の飲み薬の、
腎機能低下における使用の安全性を検証したもので、
臨床的に直結した非常に役立つ文献です。
メトホルミンは糖尿病治療の基礎薬としての意義が、
世界的に確立した薬剤です。
そのメカニズムは長く不明でしたが、
近年になり、肝臓における糖新生という、
ブドウ糖産生経路を抑える働きが主であることが、
ほぼ確認されています。
この薬はインスリンそのものの分泌を刺激するような性質はないので、
インスリンの分泌が高度に減少したような病態では、
それほどの効果が期待出来ません。
一方でインスリンの効きが悪くなる、
所謂インスリン抵抗性のある場合には、
その効果は充分に発揮されます。
欧米特にアメリカでは、
2型糖尿病はほぼ「肥満病」なので、
病態は主にインスリン抵抗性にあり、
メトホルミンが第一選択薬なのですが、
日本の2型糖尿病は少なからぬ部分が、
インスリンの分泌が少ないことによる、
肥満のないタイプの糖尿病なので、
欧米と同じように、
全ての事例でメトホルミンを第一選択とするのは誤りだと思いますが、
専門外のネットなどで幅を利かせている先生が、
「日本の糖尿病治療はこれだけデタラメだ!」
というような理解の薄いゴミのような見解を、
あちこちで撒き散らしているのは、
読んでいて切ない気分になる景色です。
ただ、これまで日本の糖尿病診療において、
メトホルミンが必要以上に低く扱われ、
使用が控えられて来たことは事実です。
これは、その副作用である乳酸アシドーシスの発症が、
問題視されたことと共に、
当時次々と発売されたSU剤というタイプの薬剤が、
その使用し易さと効果の確実さから、
日本人にはより優先されるべきではないか、
というような考えられた経緯がありました。
ただ、その後SU剤には、
その効果に限界があり、
低血糖の合併症の多さが、
患者さんの予後に悪影響を与える可能性が示唆されるようになると、
日本でもメトホルミンの再評価の機運が高まるようになったのです。
さて、日本のみならず海外においても、
メトホルミンの副作用で問題となるのは乳酸アシドーシスです。
筋肉の疲労物質である乳酸は、
肝臓で糖新生によりブドウ糖になるのですが、
それをメトホルミンは妨害するので、
結果として乳酸は蓄積し易くなり、
特に糖尿病のコントロールが悪くて、
ケトン体が溜まり易い状態にあったり、
お酒を飲んでいて肝臓に負担が掛かっていると、
より乳酸の蓄積が起こり易くなり、
乳酸を身体で利用する力が弱いと、
血液が酸性になって、
下痢や嘔吐などの症状が出現し、
重症化すると意識が混濁して命にも関わることがあります。
これがメトホルミンに誘発される乳酸アシドーシスです。
メトホルミンによる乳酸アシドーシスは、
その先行薬と比較すると、
それほど頻度の高いものではない、
というのが現状の認識です。
ただ、乳酸アシドーシスの起こり易さには、
多分に体質的なものが関与していて、
日本人は欧米人と比較して、
乳酸アシドーシスは起こり易いのでは、
という意見もあります。
欧米ではメトホルミンは有害事象の少ない薬と、
基本的には考えられていますが、
この薬は腎臓で代謝され排泄されるため、
腎機能の低下している患者さんと、
腎機能の低下が想定される高齢者では、
その使用はより慎重に行なうことが求められています。
現行のアメリカFDAの処方ガイドラインでは、
メトホルミンの使用は、
腎機能低下では適応外とされ、
その目安は血液のクレアチニン濃度が、
男性で1.5mg/dL以上、
女性で1.4mg/dL以上となっています。
また、年齢が80歳以上においては、
腎機能が確認されない場合には、
原則使用しないように求められています。
しかし、このガイドラインには明確な根拠はなく、
腎機能の確認のないまま、
メトホルミンが使用されているケースは、
国内外を問わず多いことが想定されます。
実際に、腎機能低下の程度によって、
どの程度の乳酸アシドーシスのリスクが、
存在するものなのでしょうか?
それを検証する目的で、
今回の文献においては、
これまでのメドラインやコクラン・データベースの、
臨床試験や疫学データなどを解析することにより、
実際に腎機能が判明している2型糖尿病の患者さんに対して、
メトホルミンを使用した場合の、
乳酸アシドーシスの発症リスクを解析しています。
その結果…
血液のクレアチニン濃度から推計される、
腎機能の指標である腎糸球体濾過量が、
30から60mL/min per 1.73㎡である場合には、
メトホルミンを通常通りに使用しても、
その血液濃度は安全域に収まり、
問題はない可能性が高いとされています。
メトホルミン使用患者の乳酸アシドーシスの発症率は、
年間10万人当たり3人から10人の幅に分布していて、
これは糖尿病の患者全体の発症率と違いはない、
と言う結果になっています。
こうしたデータを踏まえて、
次のようなメトホルミン使用の指針が作成されています。
こちらです。
アメリカでのメトホルミンの、
通常の使用量は1日2550ミリグラムまでですが、
この指針では腎糸球体濾過量が60以上であれば、
用量はそのままで問題ないとされています。
そして、45から60未満では上限を2000ミリグラム、
30から45未満では1000ミリグラムに減量し、
30未満では使用禁忌となっています。
この指針が、
そのままで日本でも使用可能とは、
言い切れませんが、
概ねこの基準を元に、
もう少し安全域を広く取るのが、
妥当な線ではないかと思います。
個人的には推計の腎糸球体濾過量が60以上であれば、
1500ミリグラムを上限にメトホルミンを使用し、
それを下回るケースでは、
原則として新規の使用は控えるようにしています。
80歳以上ではメトホルミンの新規の使用は、
これも原則として行なっていません。
ただ、以前から使用している患者さんが、
80歳を超えたり、
糸球体濾過量が60を切るケースでは、
今回のデータを元に、
減量で対応するのが妥当ではないかと考えています。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
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2015-01-14 08:30
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