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デング熱ワクチンの有効性について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
デング熱ワクチンの効果.jpg
今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
デング熱のワクチンの臨床試験結果についての文献です。

昨年の夏に診療所のある渋谷区を震源地として、
大きな問題になったデング熱ですが、
一旦は終息したものの、
今年の夏には、
再びその発生が懸念されます。

デング熱は、
蚊が媒介する熱帯から亜熱帯の出血熱の一種ですが、
日本脳炎などと比較すればその病状は軽く、
重症化も比較的稀な感染症です。

特別な治療はなく、
一旦流行するとその媒介する蚊の根絶は、
現実的には困難であるので、
その予防と感染のコントロールのためには、
ワクチンの開発が通常想定される方法になります。

しかし、
デング熱のワクチンは、
これまで実用化がされませんでした。

その大きな理由は、
デング熱の特性にあり、
この病気には4種類の異なる血清型が存在するのですが、
そのうちの1種類に感染した患者さんが、
その後に別の種類の血清型のデング熱に感染すると、
初回より重症化してデング出血熱という、
重症型になり易いのです。

そのメカニズムは、
完全には解明されていませんが、
1種類の血清型に感染すると、
不十分な免疫が他の3種類に対しても産生され、
それが別個の感染時に、
過剰な免疫反応を誘発する、
という機序が想定されています。

これを抗体依存性感染増強現象と呼んでいます。

従って、この病気のワクチンは、
4種類の血清型の全てに対して、
均等に免疫を付与するような性質のものでないと、
ワクチン接種で不充分な免疫が誘導されることにより、
却って重症化を誘発するようなリスクがあるのです。

このハードルの高さから、
デング熱のワクチンはなかなか実用化がされませんでした。

今回の論文では、
初めて第3相の臨床試験に至り、
一定の有効性の確認された
サノフィ・パスツール社のワクチンの臨床研結果が報告されています。

これは4種類の血清型の抗原を全て含む、
4価の弱毒生ワクチンで、
それを半年の間隔を空けて3回接種します。

この文献以前に最初に報告されたデータは、
タイで行われた第2相の臨床試験で、
4歳から11歳の小児に接種が行われましたが、
偽ワクチン施行群と比較して、
接種後のデング熱の感染予防の有効率は、
30.2%(per-protocol efficacy)という低率で、
4型に対しては100%の有効率であったのに対して、
2型の感染に対しては9.2%の有効率しかないなど、
遺伝子型毎の効果のばらつきの大きなものでした。

次に第3相の臨床試験がアジアの5カ国で行われ、
その結果は昨年のLancet誌に発表されていますが、
2歳から14歳の小児に同様の接種を行ない、
感染予防の有効率は、
トータルでは56.5%(per-protocol efficacy)と、
改善は認められましたが、
2型に対する有効率は、
35.0%という低率でした。
この点については、
以前にブログ記事にしています。
http://blog.so-net.ne.jp/rokushin/2014-09-08

今回のデータは、
ラテンアメリカの5カ国において、
9歳から16歳の小児に接種を行なったもので、
ワクチン接種群が12000人余、偽ワクチン群が6000人余という、
大規模なものです。

特徴としてはワクチン接種前の段階で、
79.4%の対象者は、
既に少なくとも1種類の血清型のデング熱ウイルスによる、
自然感染の既往があり、
その抗体価の上昇が認められています。

その結果は、
トータルの有効率は60.8%で、
1型が50.3%、2型が42.3%、3型が74.0%、4型が77.7%、
というものでした。

ワクチン接種後25か月の観察期間中において、
デング熱の感染による入院は80.3%、
重症のデング熱の発症は95.5%予防された、
という結果になっています。
具体的には重症のデング熱感染の事例が、
12例報告されていて、
そのうちの11例が偽ワクチン群であった、
という結果です。

つまり、このワクチンは、
デング熱の流行地域において、
1種類以上の感染に既に罹っているお子さんに接種すると、
その後の再感染時の重症化や感染症状の発症を、
かなり高率に予防することが出来るワクチンです。

今回の臨床試験の結果が、
以前のものより改善されているのは、
対象者の年齢がより高く、
既感染者の比率が高いためと思われます。

しかし、全くデング熱に感染したことのない人に、
このワクチンを接種しても、
4種類全ての血清型に対する、
防御免疫が充分に産生される確率は低く、
その効果は充分ではありません。

更にはワクチンの効果は25か月しか検証されていないので、
より時間が経過して、
ワクチンで産生された抗体が低下した時に、
再感染により重症化が起こるという可能性が、
否定されたものではない点にも、
注意が必要だと考えられます。

従って、
今回臨床応用に近付いたデング熱ワクチンは、
感染症流行地域における、
一定の有効性はありますが、
日本のような環境での接種には、
まだその有効性は未知数で、
かつ流行地域においても、
より長期的な安全性と有効性とは、
今後更に検証が必要なように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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