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重症患者の栄養管理をどう考えるか? [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝からレセプト作業をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
ICUでの栄養法の比較.jpg
先月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
ICUに入った重症の成人患者さんにおいて、
鼻からのチューブのような栄養注入の方法と、
点滴による栄養補給の方法と、
どたらが優れているのかを検討した論文です。

自力では食事を摂ることが困難な、
重症の身体疾患の患者さんにおいて、
どのような栄養補給法が最適なのか、
という問題は、古くて新しいもので、
実際には明確な結論が出ていません。

胃かもしくは腸まで細いチューブを挿入し、
そこから栄養剤を注入するのが腸管栄養です。

その一方で絶食として中心静脈という太い静脈に点滴チューブを入れ、
そこから直接血管に栄養を注入するのが、
中心静脈栄養です。

通常意識のないような重症の患者さんにおいては、
まずは点滴による治療を行ない、
少し状態が安定してから腸管栄養を含めた、
経口に近い栄養法に切り替えることが一般的です。

これは栄養を確実に補充するには、
血管を使用した方が確実ではないか、
という考えが1つにはあり、
胃腸から注入した栄養液が、
逆流して嘔吐は誤嚥による肺炎を惹起するような、
腸管栄養のリスクを想定しているからです。

一方で胃腸から栄養を摂取することは、
身体にとっては非常に大きな意義を持つもので、
腸管栄養により免疫力が維持され強化されることは、
良く知られた事実です。
また、人工的に血管に管を挿入することにより、
敗血症などの感染のリスクは高まり、
それが重症の患者さんの予後に直結する可能性もあります。

このように点滴にも腸管栄養にも一長一短があり、
簡単にどちらが良いと断じることは出来ません。

今回の研究はイギリスの33の施設の集中治療室に、
入室した成人患者さんのうち、
入室の時点の評価において、
腸管栄養と中心静脈栄養のいずれも禁忌ではない、
トータル2400例を登録し、
くじ引きでどちらかに割り付けると、
入室後36時間以内にどちらかの栄養管理を開始し、
最長5日間継続した上で、
入室後30日間の生命予後を比較しています。

こうした臨床研究としては、
これまでで最も大規模なものだと思います。

その結果…
中心静脈栄養の患者さんでの30日以内の死亡率は、
33.1%であったのに対して、
腸管栄養の患者さんでの死亡率は34.2%で、
死亡率に栄養管理による差は認められませんでした。

それ以外の指標については、
低血糖の発症が、
腸管栄養で6.2%に対して中心静脈栄養で3.7%、
嘔吐の発症が、
腸管栄養で16.2%に対して中心静脈栄養で8.4%と、
腸管栄養で有意に高い結果となりました。
これは静脈栄養は持続的に糖質を入れるので低血糖にはなり難く、
胃腸を使用しないので嘔吐が少ないので、
ある意味当然の結果です。

しかし、それ以外の指標に関しては、
より長期の90日間の生命予後についても、
感染症の合併についても、
両群での差は認められませんでした。

目標とされたカロリーは、
体重当たり25キロカロリーでしたが、
殆どの事例ではその目標には達しなかったと記載されています。

重症の患者さんへの充分な栄養補給というのは、
どのような方法を用いても、
矢張り現実には困難なもののようです。

今回の結果では、
集中治療室へ入室されたような重症の患者さんにおける、
初期治療時の栄養管理法は、
腸管栄養を選択しても、中心静脈栄養を選択しても、
適切な管理が行なわれれば、
患者さんの生命予後には差はない、
ということになり、
嘔吐による肺炎のリスクや、
消化管の状態、
またカテーテル由来の敗血症のリスクなどを、
個々の事例で勘案しつつ、
予断を持たずに選択されることが望ましい、
ということになるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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