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エボラウイルス病の治療について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から書類など書いて、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
エボラ出血熱の解説.jpg
今月のthe New England Journal of Medicine誌の、
巻頭の解説記事として掲載されている、
西アフリカで実際にエボラウイルス病(EVD)の、
治療に携わった医師による、
この病気の治療についての見解です。

エボラウイルス病(エボラ出血熱)は、
今世界的に深刻な問題となっている感染症ですが、
グローバル化した世界ならではの問題であり、
日本も対岸の火事と済ましている場合ではありません。

先日記事にしましたように、
この病気の感染力はそれほど強いものではありません。
ただ、多くの人にとって、
矢張り恐怖感があるのが、
この病気が一旦感染すると、
有効な治療薬がなく、
ワクチンのような予防法もなく、
これまでの報告による致死率が、
少なくて4割、高ければ8割を越えるという、
高率であることです。

しかし、その一方で前回ご紹介したデータでは、
症状が出現してから早く入院した患者さんの方が、
時間が経過してから入院した患者さんよりも、
明らかに予後が良い、という結果が得られています。

この事実は、
早期の治療が一定の有効性のあることを、
示唆しているように思います。

それでは、その治療とは、
どのようなものなのでしょうか?

エボラウイルス病は平均で11日程度の、
潜伏期をおいて発症しますが、
その初期症状は発熱や身体のだるさや全身の痛みなど、
普通のウイルス性の感冒と、
見分けの全く付かないような症状です。

それがその後数日で、
多くの場合急速に悪化します。

エボラ出血熱というこれまでの呼称が、
誤解を招く部分があるのですが、
予期せぬ出血は2割程度と、
それほど頻度の高い症状ではなく、
多くの患者さんにおいては、
下痢と嘔吐と腹痛が頻度の多い急性の悪化時の症状で、
上記記事での実地の医師の経験によれば、
脱水と電解質異常が患者さんの予後悪化の主たる原因のようです。

つまり、ノロウイルスなどのウイルス性胃腸炎と、
それほど変わらない症状です。

西アフリカでの事例では、
医療設備が多くの場合不充分で、
中心静脈の使用を含めた、適切な補液と、
検査データに基いた、電解質の補正が、
予後を良くするために最も重要な要素ではないか、
という見解も記載がされています。

つまり、現状は多くの患者さんが、
高度の脱水によるショックや、
電解質異常によって亡くなっているのです。

従って、患者さんの予後を改善するためには、
その効果がまだ明らかではない、
抗ウイルス剤の使用よりも、
必要に応じて、
リアルタイムで電解質や血算などの、
簡単な検査が施行出来、
それに応じて適切な点滴治療が行なえる環境が、
まず何より必要な医療である、
ということになります。

早期の抑え込みに成功したナイジェリアでは、
二次感染者の多くは医療従事者でしたが、
そのトータルな死亡率は4割です。
それも初期の感染者はまだエボラと診断されるまでに時間が経ち、
適切な対応が取られるまでに時間が掛かっています。
つまり、最初から適切な処置が取られれば、
より治癒率は上がる可能性があります。

従って、
適切な治療が行なわれても、
3割や4割の死亡率であるとすれば、
勿論重篤な病気であることは間違いがありませんが、
別に特効薬などが存在しなくても、
標準レベルの急性期治療をしっかり行なうことにより、
多くの患者さんを救うことが可能であるということは、
この病気を「正しく怖がるために」、
重要なことのように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 5

お名前(必須)

いつもためになるお話ありがとうございます。

今日、子どもと耳鼻科へ行ったところ、発熱、咳、下痢の方がいました。

子どものちょうど前の診察で、内容が聞こえてきて、一瞬ええっ!?下痢!?とすごく不安になりました。

お医者さんは、海外渡航歴を質問し、ないとのことで、普通に治療を受けられて帰って行きましたが、

その次は子どもの診察。ネプライザー器具は消毒されているとはいえ、正直怖かったです。

もしこの人がエボラだったら・・と考えるとぞっとしました。

こんなふうにひょっこりと病院に現れる可能性だってあるんですよね。

診察を待つ間に待合室で嘔吐し、それが飛び散る可能性も・・・

居合わせた場合、どうやって身を守ればいいのだろう・・・

空気感染しないとはいえ、症状が出ている状態で同じ待合室で居合わせたら、やはりものすごく怖いです・・




by お名前(必須) (2014-10-27 17:57) 

心配ママ

いつもありがとうございます。ついに日本でもエボラ出血熱疑いで男性が検査を受けたというニュースを見ました。その男性が陰性であることを願うばかりです。どうしても最悪の事態を想像してしまい、とても不安です。
by 心配ママ (2014-10-28 00:57) 

fujiki

お名前…さんへ
コメントありがとうございます。
心配し過ぎる必要はないと思うのですが、
基本的に必要性の薄い受診は、
避けた方が良いかも知れません。
by fujiki (2014-10-28 07:51) 

fujiki

心配ママさんへ
一応問題はなかったようですが、
こうしたことが、
今後は続くことになりそうですね。
by fujiki (2014-10-28 07:52) 

三人の子持ち母

今回も参考になる情報ありがとうございました。ノロウイルスは毎年誰かしらもらうので空気感染しなくても、ノロウイルスと同じようなら嘔吐下痢で感染拡大する恐れもありますよね…ノロウイルスはもはや病院にも行かずに急性期は過ごせますが、エボラの嘔吐下痢は入院レベルですし。。
でもノロウイルスのように広まっていないように見えるのは、ウイルス量が多い急性期が入院レベルまで行くので逆にうつりにくいのかなとも。
先進国での死亡率が低かったとしても、罹患すると入院となると、子供はもっと重症化しやすいでしょうし、やはり怖い病気です。
早期診断ができる簡易キットでもあればいいのですが、早期治療が診断ができないというのもノロウイルスやロタウイルス、インフル風邪が流行るこれからの季節がかなり不安です。
しかも、自分のうちのせいにされたくない人が多く、何の病気にしても言わない人が多いので。。
エボラウイルスも冬の方が広がりやすいのか…わかりませんが、寒い時期は免疫力堕ちますからね。。
あと日本の企業でマスクでエボラウイルス99%殺菌できて洗って何度か使えるというものを海外に寄付しましたが、こういう時に使い回しするというのは聞いた事がないので、私はちょっと疑いますがテレビで流れたので購入者も多いかもしれませんね。

私が子供達にできるのは、手洗いうがいと野菜スープくらいで、、あちこち舐めて触って寝転んで病気してる子供達を見ていると不安ともどかしさでいっぱいです。
by 三人の子持ち母 (2014-10-30 12:17) 

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