「ポリグラフ 嘘発見器」(吹越満演出 2014年再演版) [演劇]
こんにちは。
六号通り診療所の石原です。
今日は日曜日で診療所は休診です。
体調が悪いので駒沢公園には行かず、
外出もしていたので、
夕方の更新になりました。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
カナダの異才ロベール・ルパージュの戯曲を、
吹越満がスタイリッシュに演出し、
2012年に上演されて話題を集めた舞台が、
今池袋で再演版として上演中です。
僕は初演は観ていないので、
今回が初見です。
これは吹越満さん自身と、
ダンサーの森山開次さん、俳優の太田緑ロランスさんの、
3人のみが出演する、
1時間半程度のノンストップの1幕劇です。
ともかく吹越さんの才気が迸るという感じの作品で、
映像やトリッキーな仕掛けを駆使して、
物凄い密度で1時間半を疾走します。
その点は文句なく凄いのですが、
作品が必ずしも日本で今上演する意義が、
それほど高いようには思えず、
如何にも欧米人のセンスの物語なので、
演劇としての面白みには、
繋がっていないように感じたのがやや残念でした。
ただ、内容に興味を持たれた方もいると思いますし、
それは僕の個人的な嗜好の問題かも知れません。
演出家としての吹越さんの実力は、
充分に感じられる舞台になっていて、
トータルに舞台作品としての質は高いので、
観て損はない作品だと思います。
以下ネタばれを含む感想です。
舞台はカナダで、
吹越満が演じる犯罪心理学者は、
東ドイツから東西統一前に亡命した過去を持ち、
カナダの警察に協力して、
嘘発見器(ポリグラフ)を犯罪の被疑者に行なう実験をしています。
ある若い女性が殺され、
第一発見者の友人の男性が疑われ、
犯罪心理学者によるポリグラフに掛けられます。
結果は彼の無罪を示すものだったのですが、
その結果は本人には告げられず、
犯人は捕まらずに事件は迷宮入りとなります。
事件から数年後に、
犯罪心理学者は東ベルリンで別れた、
かつての恋人に似た女性に出逢い、
彼女と交際するようになります。
その女性は女優の卵で、
ある映画のオーディションで合格するのですが、
その映画はかつての迷宮入り殺人事件をモチーフにしたもので、
彼女は殺される女性を演じ、
映画の物語は当初は発見者の男友達が疑われるものの、
最終的には警察の関係者が犯人である、
というサプライズエンディングになるようです。
その女性のアパートの隣に住んでいるのが、
かつて現実の事件で疑われ、
ポリグラフを掛けられた青年で、
彼は近所のレストランのウェイターをしているのですが、
ゲイで女性とは友達であり、
ポリグラフを掛けられて犯人に疑われたことがトラウマとなり、
麻薬中毒になって精神を病んでいます。
青年は町を去って事故で死に、
女性は犯罪心理学者の元を離れます。
ストーリーはなかなか面白いのですが、
設定はあってもあまり展開らしいものはなく、
謎はあっても解決はされず、
人間関係が明瞭に示されるのは、
既に舞台の終わり近く、という感じの構成なので、
ミステリータッチのスリリングな物語を楽しむ、
という感じの作品にはなっていません。
その代わりに舞台には常に謎めいた記号がばら撒かれ、
映像や音楽、照明による陰の効果などの、
トリッキーな演出がふんだんに用意され、
観客を翻弄します。
吹越さんはソロアクトライブという企画を、
以前から続けていますが、
その蓄積が活かされていると感じる場面も随所にあります。
特にオープニング近くで、
女優さんが服を脱ぎ捨ててヌードになった瞬間に、
そこに映像が照射されて、
人体模型のように肉体が切り開かれ、
骨と化して行く場面などは、
極めて斬新でエロティックかつグロテスクで感心しました。
映像を多用した演出は、
どうしても人間味が希薄になるのですが、
その辺りは照明で加工したヌードシーンを多用したり、
疑われて精神の崩壊に至る若者を、
ダンサーの肉体で演じさせて、
苦悩を生の肉体で表現したりもするので、
ライブとしてのパフォーマーの肉体の感触が、
決して人工的な演出で犠牲になっていない、
という点も極めて巧みに出来ています。
吹越さんはその舞台演出家としての技量を、
この作品で存分に示したと思います。
部分的には野田秀樹などの影響も感じられますが、
たとえば人間の内部に対する偏愛などは、
彼独自のセンスだと思います。
そう言えば、ソロアクトライブにも、
人間の皮を脱ぎ捨てる男、のような、
人体解剖的なイメージが随所に登場していました。
ただ、それではこの作品が、
舞台作品として面白かったかと言うと、
それはちょっと微妙なところです。
イメージは豊饒でも、
ストーリーとしての盛り上がりや、
謎が深まったり、収束したり、といった起伏に乏しいので、
切れ切れの美しい断片だけを見せられている、という印象で、
全編の中で、これぞ、というような、印象に残る場面がないのです。
主人公は基本的には吹越さん自身が演じる、
犯罪心理学者だと思いますが、
故郷においた恋人に罪の意識を持ちながら、
無実の若者が、自分の行なった実験のせいで、
精神を崩壊させてゆくのを、
平然と観察して動じないような心の闇が、
あまり十全に描かれていたように思えません。
この辺りは作品自体にも問題があり、
また吹越さんの芝居が、
常に傍観者的で主役という重みに乏しい、
と言う点にも問題があったように思います。
いずれにしても、
吹越さんのこの才気は、
この作品だけで発揮されるのは勿体ないので、
もっと多くの作品を演出して欲しいと思いますし、
そこから真の代表作が生まれることを期待したいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
もう夕方ですが皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
六号通り診療所の石原です。
今日は日曜日で診療所は休診です。
体調が悪いので駒沢公園には行かず、
外出もしていたので、
夕方の更新になりました。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
カナダの異才ロベール・ルパージュの戯曲を、
吹越満がスタイリッシュに演出し、
2012年に上演されて話題を集めた舞台が、
今池袋で再演版として上演中です。
僕は初演は観ていないので、
今回が初見です。
これは吹越満さん自身と、
ダンサーの森山開次さん、俳優の太田緑ロランスさんの、
3人のみが出演する、
1時間半程度のノンストップの1幕劇です。
ともかく吹越さんの才気が迸るという感じの作品で、
映像やトリッキーな仕掛けを駆使して、
物凄い密度で1時間半を疾走します。
その点は文句なく凄いのですが、
作品が必ずしも日本で今上演する意義が、
それほど高いようには思えず、
如何にも欧米人のセンスの物語なので、
演劇としての面白みには、
繋がっていないように感じたのがやや残念でした。
ただ、内容に興味を持たれた方もいると思いますし、
それは僕の個人的な嗜好の問題かも知れません。
演出家としての吹越さんの実力は、
充分に感じられる舞台になっていて、
トータルに舞台作品としての質は高いので、
観て損はない作品だと思います。
以下ネタばれを含む感想です。
舞台はカナダで、
吹越満が演じる犯罪心理学者は、
東ドイツから東西統一前に亡命した過去を持ち、
カナダの警察に協力して、
嘘発見器(ポリグラフ)を犯罪の被疑者に行なう実験をしています。
ある若い女性が殺され、
第一発見者の友人の男性が疑われ、
犯罪心理学者によるポリグラフに掛けられます。
結果は彼の無罪を示すものだったのですが、
その結果は本人には告げられず、
犯人は捕まらずに事件は迷宮入りとなります。
事件から数年後に、
犯罪心理学者は東ベルリンで別れた、
かつての恋人に似た女性に出逢い、
彼女と交際するようになります。
その女性は女優の卵で、
ある映画のオーディションで合格するのですが、
その映画はかつての迷宮入り殺人事件をモチーフにしたもので、
彼女は殺される女性を演じ、
映画の物語は当初は発見者の男友達が疑われるものの、
最終的には警察の関係者が犯人である、
というサプライズエンディングになるようです。
その女性のアパートの隣に住んでいるのが、
かつて現実の事件で疑われ、
ポリグラフを掛けられた青年で、
彼は近所のレストランのウェイターをしているのですが、
ゲイで女性とは友達であり、
ポリグラフを掛けられて犯人に疑われたことがトラウマとなり、
麻薬中毒になって精神を病んでいます。
青年は町を去って事故で死に、
女性は犯罪心理学者の元を離れます。
ストーリーはなかなか面白いのですが、
設定はあってもあまり展開らしいものはなく、
謎はあっても解決はされず、
人間関係が明瞭に示されるのは、
既に舞台の終わり近く、という感じの構成なので、
ミステリータッチのスリリングな物語を楽しむ、
という感じの作品にはなっていません。
その代わりに舞台には常に謎めいた記号がばら撒かれ、
映像や音楽、照明による陰の効果などの、
トリッキーな演出がふんだんに用意され、
観客を翻弄します。
吹越さんはソロアクトライブという企画を、
以前から続けていますが、
その蓄積が活かされていると感じる場面も随所にあります。
特にオープニング近くで、
女優さんが服を脱ぎ捨ててヌードになった瞬間に、
そこに映像が照射されて、
人体模型のように肉体が切り開かれ、
骨と化して行く場面などは、
極めて斬新でエロティックかつグロテスクで感心しました。
映像を多用した演出は、
どうしても人間味が希薄になるのですが、
その辺りは照明で加工したヌードシーンを多用したり、
疑われて精神の崩壊に至る若者を、
ダンサーの肉体で演じさせて、
苦悩を生の肉体で表現したりもするので、
ライブとしてのパフォーマーの肉体の感触が、
決して人工的な演出で犠牲になっていない、
という点も極めて巧みに出来ています。
吹越さんはその舞台演出家としての技量を、
この作品で存分に示したと思います。
部分的には野田秀樹などの影響も感じられますが、
たとえば人間の内部に対する偏愛などは、
彼独自のセンスだと思います。
そう言えば、ソロアクトライブにも、
人間の皮を脱ぎ捨てる男、のような、
人体解剖的なイメージが随所に登場していました。
ただ、それではこの作品が、
舞台作品として面白かったかと言うと、
それはちょっと微妙なところです。
イメージは豊饒でも、
ストーリーとしての盛り上がりや、
謎が深まったり、収束したり、といった起伏に乏しいので、
切れ切れの美しい断片だけを見せられている、という印象で、
全編の中で、これぞ、というような、印象に残る場面がないのです。
主人公は基本的には吹越さん自身が演じる、
犯罪心理学者だと思いますが、
故郷においた恋人に罪の意識を持ちながら、
無実の若者が、自分の行なった実験のせいで、
精神を崩壊させてゆくのを、
平然と観察して動じないような心の闇が、
あまり十全に描かれていたように思えません。
この辺りは作品自体にも問題があり、
また吹越さんの芝居が、
常に傍観者的で主役という重みに乏しい、
と言う点にも問題があったように思います。
いずれにしても、
吹越さんのこの才気は、
この作品だけで発揮されるのは勿体ないので、
もっと多くの作品を演出して欲しいと思いますし、
そこから真の代表作が生まれることを期待したいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
もう夕方ですが皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
2014-10-26 17:27
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