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薬剤による衝動制御障害のリスクについて [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
薬剤性衝動制御障害.jpg
今月のJAMA Intern Med誌にウェブ掲載された、
パーキンソン病やむずむず足症候群で使用される薬による、
衝動制御障害という副作用の発症リスクについての文献です。

これはまだ確定的なものではなく、
これまでに報告されたアメリカのFDAの有害事象の事例を、
解析してリスクを推測したものに過ぎないものなので、
その点は慎重に判断する必要があります。

ただ、特に最近頻繁に、
専門医以外にも処方されることの多い薬剤で、
こうした事例の起こる可能性がある、ということは、
頭の片隅には留めておくべき情報ではないかと思います。

パーキンソン病は、
脳の変性疾患で、
特にドーパミンと呼ばれる神経伝達物質の働きが低下することにより、
手の震えや歩行障害を始めとする、
多彩な神経症状を呈する病気です。

このためその治療には、
主にドーパミンを補充したり、
その作用を強めたりするような薬が使用されます。

薬の使用は目的に適っており、
有用性の高い治療ではあるのですが、
その反面副作用も多いことは知られています。

特にドーパミンが過剰になると、
幻覚や妄想などの精神疾患様の症状が出現することがあります。

この中で特に若年者に生じ易いとされているのが、
衝動制御障害(impulse control disorders)と呼ばれる、
一連の症状です。

これは要するに衝動的な行為や感情の、
コントロールが困難となる症状で、
ギャンブル依存症や買い物依存症、
性行動亢進や過食、
爆発的攻撃行動(キレること)などに分類されています。

お分かりのように、
こうした症状は薬剤の影響以外でも、
当然起こることがあり、
そうした症状のある人は、
通常の社会生活を送ることが困難となるばかりでなく、
周囲の人にも多くの悪い影響を及ぼしますし、
犯罪や事件の原因となることも稀ではありません。

しかし、こうした症状が、
実は薬剤によっても起こることがあるのだとすれば、
それが患者さん本人においても、
主治医においても、
また社会全体においても、
周知されることは非常に重要なことではないかと思います。

ドーパミンの作用を強める薬剤のうち、
その受容体を刺激するタイプの薬剤、
これをドーパミン受容体アゴニストと呼びますが、
このタイプの薬剤は、
近年その処方が急増しています。

これは主にはパーキンソン病以外に、
夜足がむずむずして眠りが妨げられる、
所謂「むずむず足症候群」の治療において、
この薬の有効性が確認され、
専門医以外でも処方される機会が増えたことが、
その主な原因と考えられます。

それでは、そうした目的のための使用においても、
衝動制御障害が生じるリスクはあるのでしょうか?

今回の研究では、
FDAにプールされたトータル1580例の、
薬剤と関連が否定出来ない衝動制御障害の有害事象を、
報告頻度において統計的に解析し、
リスクの増加が認められるかどうかを検証しています。

使用されているのは、
PRR(proportional reporting ratio)と言う指標で、
要するに他の薬剤による報告の頻度と比較して、
明らかにリスクが高いかどうかを、
報告事例の薬剤毎の集計から、
統計的に解析する、というものです。

その結果…

最も衝動制御障害との関連が高かった薬剤は、
ドーパミンD3受容体アゴニストの、
プラミペキソール(商品名ビ・シフロール)で、
報告事例は410例、PRRは455.9で有意に関連性が高い、
という結果になっています。
次に関連性の高かったのは、
同系統の薬剤であるロピニロール(商品名レキップ)で、
これは報告事例188例、PRRは152.5で有意の関連性が認められました。
ドーパミンの非選択的アゴニストは、
それと比較すると関連性は薄かったのですが、
部分的作用薬で非定型抗精神病薬である、
アリピプラゾール(商品名エビリファイ)にも、
弱いながら同様の関連性が認められました。

ビ・シフロールとレキップは、
むずむず足症候群にも多く処方が行なわれていて、
エビリファイは広く精神疾患にも使用されている薬剤ですから、
この結果はまだ確定的なものではありませんが、
決して軽視するべきものでもなく、
こうした薬剤を使用する場合には、
ギャンブル依存や買い物依存などの症候についても、
可能な範囲でその聞き取りを行なうことが、
臨床医には求められるいるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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北御門

こんばんは、お疲れ様です。私は若者ではありませんが、レストレッグスと診断されランドセン1mgを一錠1日1回服用初めて2年経ちます。症状改善は早くあっと言う間にあのなんとも云えない状態は無くなりましたが、最近、ずっとこれからもこの薬を飲み続けるのか……と一抹の不安がよぎります。
by 北御門 (2014-11-05 22:56) 

斜めに読みます

ビシフロールは機序からすると納得です。
エビリファイは抗躁効果もあるので、どっちに転ぶかわからないといった感じなのでしょうか。


むずむず脚症候群は放置して不眠が続いた時の心血管リスクについても指摘されているので、薬物治療のメリットデメリットをよく勘案する必要がありそうですね。
悩ましいです。
by 斜めに読みます (2014-11-21 17:38) 

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