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デキストロメトルファン(メジコン)の多様な作用について [科学検証]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談に廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
メジコンの気管支拡張作用.jpg
今年のPLOS ONE誌に掲載された、
本邦では咳止めとして使用されている、
デキストロメトルファンという古い薬の、
新しい気管支拡張作用のメカニズムについての論文です。

デキストロメトルファン(商品名メジコンなど)は、
咳中枢に作用するタイプの咳止めで、
風邪に伴う咳症状に対して、
一般の臨床で頻用される薬です。

1958年には既にアメリカで承認されていますから、
非常に古い薬です。

一方で、このデキストロメトルファンは、
CYP2D6という酵素により代謝され、
デキストロルファンになるのですが、
この代謝産物が、
NMDAと呼ばれるアスパラギン酸の受容体の拮抗薬として作用する、
ということが比較的最近明らかになりました。
この作用のため、
デキストロメトルファンを使用することにより、
神経伝達物質のグルタミン酸の遊離が促進されます。

NMDA受容体の拮抗薬には、
他に麻酔薬の一種のケタミンや、
インフルエンザとパーキンソン病に使用されるアマンタジン、
認知症の治療薬のメマンチン(メマリー)などがあります。

これらの薬剤には、
いずれも通常のオピオイドとは異なるメカニズムによる、
中枢性の鎮静鎮痛作用があり、
更には脳の伝達物質の作用を、
部分的に増強するような働きもあります。

ケタミンのケースでは、
これが幾つかのシナプス内の物質を短時間で活性化させ、
そのことにより、
シナプスはその機能を回復させ、
うつ病の症状を短期間で改善した、
というデータも存在しています。

現状このデキストロメトルファンの脳機能改善作用が、
臨床に応用されているのは、
神経疾患や脳損傷などによる神経障害の一種である、
仮性球情動(Pseudobulbar affect)の治療で、
日本では保険適応はありませんが、
アメリカでは2010年にそのための製剤が認可されています。

仮性球情動というのは、
笑いや泣き叫びなどの感情表出が、
コントロール出来ずに生じる、という状態で、
これまで有効な治療が存在しなかったのですが、
デキストロメトルファンの有効性が確認され、
認可に至ったのです。

ただ、アメリカで認可された製剤は、
デキストロメトルファン単独ではなく、
この薬剤20ミリグラムとキニジン10ミリグラムの合剤です。
キニジンが添加されているのは、
代謝酵素CYP2D6がキニジンにより阻害されるので、
デキストロメトルファンの作用が、
より持続することを期待したためです。

この薬は日本では発売はされていません。

別箇にその有用性が報告されているものとしては、
神経障害性疼痛(帯状疱疹後の神経痛など)の、
痛みの緩和であったり、
バルプロ酸との併用で、
双極性障害の症状の安定化であったり、
モルヒネの耐性に拮抗する作用があることから、
その離脱症状の緩和などが報告されています。
使用は単独で行なわれることもあり、
前述のようにキニジンとの合剤もあり、
また同様のメカニズムを持つメマンチンとの併用なども、
試みられています。

どちらかと言えば、
単独での使用よりも、
付加的に使用して、
相乗効果を期待した報告が多いようです。

上記の文献は以上とはまた別箇の作用によるものです。

実はデキストロメトルファンには、
舌の苦味の受容体を刺激するような作用があり、
苦味受容体と相同の受容体が、
気管支平滑筋に存在していて、
刺激によりその拡張に働きます。
更には抗酸化作用も持っています。

この苦味受容体に結合する薬物を複数試験したところ、
最もその刺激作用が強いのが、
デキストロメトルファンであることが、
動物及び人間の培養細胞を用いた実験で、
確認をされたと記載されています。

つまり、慢性気管支炎や喘息において、
咳症状の緩和のために、
デキストロメトルファンが使用されることがあり、
通常はこれはあまり病態にとって、
良い処方ではないとされていますが、
意外に病態を改善するような効果も、
期待出来る可能性があるのです。

ここまでは良いこと尽くめのようなデキストロメトルファンですが、
勿論注意すべき点もあります。

その第一はこの薬がCYP2D6で代謝され、
パロキセチン(パキシル)のように、
抗うつ剤の系統には、
この酵素の阻害作用のあるものが多いので、
併用によりセロトニンが急上昇し、
セロトニン症候群のような症状を呈する可能性があることです。
実際にそうした事例も複数報告されています。

前述のキニジンとの併用のように、
わざわざそれを期待したような使用もあるのですが、
基本的に抗うつ剤などの併用には、
充分な注意が必要です。

また、鎮静作用のあることから、
この薬への依存も、
市販薬などでの報告があり、
漫然とした長期使用には注意が必要です。

いずれにしても、
大変興味深い作用の薬であることは間違いがなく、
今後も研究の蓄積と、
有用な活用の指針の作成を、
期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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