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ドンペリドン(ナウゼリン)の心疾患リスクについて [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は別の仕事で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
ドンペリドンの心臓死リスクについて.jpg
2013年のCardiovasc. Pharmacol誌に掲載された、
ポピュラーな吐き気止めの胃薬の、
心臓死の副作用リスクについての文献です。

ドンペリドン(商品名ナウゼリンなど)は、
日本では一番ポピュラーに使用されている、
吐き気止めの薬です。

この薬は脳のドーパミンという神経伝達物質の阻害剤で、
このD2受容体という受容体が、
嘔吐中枢と密接な関係のあることが分かっています。

メトクロプラミド(商品名プリンペラン)が、
その基礎薬ですが、
この薬は副作用としてパーキンソン症状が出易いので、
それを改善して脳への働きを弱めたとされるのが、
このドンペリドンです。

さて、最近このドンペリドンの副作用として、
問題になっているのが、
QT延長と呼ばれる心電図変化を来し、
心臓の突然死のリスクを増加させるのではないか、
という危惧です。

2005年のEur Heart J.に掲載された疫学データにおいて、
このドンペリドンは心臓の突然死のリスクを、
未使用と比較して5.4倍高める、と報告されました。

特に海外で抗癌剤の副作用予防に、
注射として使用された際の、
心電図でのQT延長の作用や、
重篤な不整脈の発症の事例が、
複数報告され、
内服での疫学データと相俟って、
この薬が何らかのメカニズムによりQT延長を起こし易く、
それが急性の心臓死に繋がっていることが、
ほぼ明らかとなりました。

上記文献においては、
ウサギの心臓を用いて、
濃度を変えたドンペリドンで、心臓を還流し、
心筋に起こる変化を検証しています。

その結果、比較的低濃度のドンペリドンにおいても、
心筋の再分極の遅延が起こり、
それにより心室細動などの重篤な不整脈が、
誘発され易い状態となることが確認されました。

文献の後半は疫学データの解析に当てられていますが、
それによれば、
日本でも常用量となっている、
ドンペリドンの1日30ミリグラムの使用において、
その嘔気などの改善作用は偽薬と有意な差は認められず、
その一方で、
30ミリグラムを超える使用においては、
心臓の突然死のリスクは、
未使用の2.8倍に増加していました。

つまり、ドンペリドンの使用は、
百害あって一利ない、という結論になっています。

ただ、上記の文献はご覧の通り、
内容の割には単独の著者による執筆で、
雑誌自体もあまり聞きなれないものです。

薬剤の副作用の関連では、
概ねこうした傾向があり、
行政の対応は海外では早いので、
早期に相応の措置が取られるのですが、
その根拠となるデータは、
あまりまとまった形では文献化はされません。

ドンペリドンはアメリカでは発売がされておらず、
欧米においては、
まず注射薬が中止となり、
現行内服薬の処方もかなり制限される流れになっています。
おそらく、今後近いうちに、
ほぼ処方はされないような流れになりそうです。

急性の不整脈死や心臓死のリスクを来す薬剤については、
日本では欧米より規制が緩く、
あまり問題視されることが少ないのが実情だと思います。

このドンペリドンについても、
勿論添付文書にはそれなりの記載はあるのですが、
それで処方が制限されるような方向にはなっていません。
抗生物質のアジスロマイシンやクラリスロマイシンなどについても、
海外では多くのデータが発表されていますが、
日本ではそれほど注目をされていません。

心臓への影響に人種差のある可能性も、
ないとは言えないのですが、
それをしっかり検証した、
というような文献もあまりないようです。

患者さんの処方は見直して、
漫然と持続的に使用されているようなケースでは、
ドンペリドンは一旦は中止が望ましいと思いますし、
特に不整脈のリスクのあるような患者さんや、
心臓にご病気をお持ちの方では、
この薬の使用はより限定して考えた方が良さそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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よろしくお願いします。

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コメント 2

さすらいの、、、

薬害についてはDr.はあまり語られておられませんが、ナウゼリンは何回も処方されたことがあります。最近、家内が抜歯で受信した歯科医院でクラビットを処方され、以前にも泌尿器科での経験もあり250㎎を2錠服用したところ4時間後に血圧上昇、唇のただれ、口内炎症をきたしました。日赤に急患申請したところ枕を高くしていれば落ち着く、と受け入れを断られ朝一番で近くのクリニックに行きステロイド点滴(ソルーコーテル?)を受けて落ち着きました。平常時110が190にまでなると素人は驚きます。薬疹かとお尋ねしたところ「わからない」とのことでしたが、調べてみるとかなりの実績?がある薬らしいようです。
by さすらいの、、、 (2014-10-22 09:03) 

fujiki

さすらいの、、、さんへ
クラビットの副作用の可能性が高いと思います。
同系統の薬を含めて、
使用されない方が良いと思いますので、
医療機関を受診時には、
必ずそのことはお話しするようにして下さい。
by fujiki (2014-10-24 08:22) 

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