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グレープフルーツと薬との併用リスクを考える [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
グレープフルーツと薬物のレビュー.jpg
2013年のCanadian Medical Association Journal誌に掲載された、
グレープフルーツと薬との相互作用のレビューです。

血圧の薬や睡眠薬、
コレステロールの降下剤などを飲む時に、
グレープフルーツを一緒に食べてはいけない、
というのは必ず言われる話です。

ただ、薬剤師さんや医者によっても、
詳しく聞いて見るとそのニュアンスが違うことが、
しばしばあります。

たとえば血圧の薬などのケースでは、
薬を飲んでから数時間経っていれば、
グレープフルーツを食べても問題はない、
という意見もあり、
いやいや数日は影響が残るので、
絶対に食べてはいけない、
という意見もあります。

皮の成分が良くないので、
生のグレープフルーツの果肉だけなら食べても良い、
と言われる方がいる一方で、
いやいや果肉にもそうした作用はあるので、
一切食べては駄目だ、と言われる方もいます。

グレープフルーツだけが駄目だ、
という意見がある一方で、
いやいやはっさくなど他の柑橘類でも同じ様な問題がある、
という意見もあります。

最も厳しい意見に立てば、
影響のある薬を飲んでいる以上、
グレープフルーツのみならず、
皮の厚いような柑橘類の殆どは、
レモンやバレンシア・オレンジ、温州ミカンは例外として、
殆ど全て一生食べてはいけない、
という感じになりますし、
甘い意見の中には、
まあ大抵の薬なら、
ちょっと時間を離して、
少し食べるくらいなら気にしなくても良いよ、
というようなことになります。

一体このうちのどの意見が、
最も正確と言えるのでしょうか?

これはどちらも誤りとは言えないのです。

この問題は最初は1980年代に、
フェロジピン(商品名スプレンジールなど)という、
カルシウム拮抗薬というタイプの降圧剤で、
グレープフルーツジュースとの同時服用により、
血圧の急激な低下を来す事例が、
報告されたことに始まります。

よりポピュラーな降圧剤である、
ニフェジピン(商品名アダラートなど)でも、
同様の現象の起こることが明らかとなり、
グレープフルーツと薬との相互作用は、
俄然注目を集めることとなりました。

研究は進められ、
やがて次のようなことが分かりました。

多くの薬は身体の代謝酵素で分解されますが、
現行使用されている薬剤のうち、
実にその半数余りはCYP3A4という酵素による代謝を受けます。

このCYP3A4は、
主に小腸の細胞と肝臓の細胞に分布しています。
最初に問題となった降圧剤のフェロジピンは、
まず小腸から吸収される際に、
その7割が小腸の細胞にあるCYP3A4により分解されます。
つまり、門脈という血管に入った時には、
既にその活性は口から飲んだ時の3割になっているのです。
更に肝臓へと運ばれると、
そのうちの半分はまた分解されます。
つまり、小腸から吸収されて肝臓を一回通過するだけで、
薬の活性は最初の15%になってしまっている、
ということになる訳です。

ここでグレープフルーツの成分のフラボノイドの一部には、
このCYP3A4を高度に阻害する成分が含まれています。
グレープフルーツを食べたり、
そのジュースを飲むと、
それが主に小腸の細胞に分布して、
その部分のCYP3A4の効果を減弱させます。

仮に小腸のCYP3A4の活性が半分になったとすると、
グレープフルーツの効果により、
同じフェロジピンの活性が、
倍になってもおかしくはない、ということになります。

理論的には上記文献で記載されている時点で、
85種類以上の薬が、
こうした影響をグレープフルーツにより受けると考えられています。

薬物動態のデータと、
それが小腸のCYP3A4により、
どれだけ影響を受けるのかによって、
理論的に影響を算定することは可能です。

影響を受ける可能性のある薬剤は、
抗癌剤やエリスロマイシンなどの抗生物質、
シンバスタチンなどのコレステロール降下剤、
アミオダロンなどの抗不整脈剤や、
フェロジピンなどの降圧剤、
トリアゾラムなどの睡眠剤や安定剤、
サイクロスポリンなどの免疫抑制剤など、
極めて広範で多岐に渡ります。

グレープフルーツのどの成分に、
CYP3A4の阻害作用があるのかについても、
研究が進められました。

当初は果皮の成分である苦みのあるフラボノイドが、
その主因であると考えられましたが、
その後果肉自体にも同様の効果がある、
とする報告が寄せられ、
更には同じ系統の柑橘類にも、
幅広く同様の効果のあることも指摘されました。
その摂取による影響には個人差が大きく、
数時間で効果がなくなることもある一方、
数日間に渡り効果が持続する、というような報告もあります。

ここまで大きな影響があるのであれば、
重篤な副作用の事例も、
当然多く報告されているのではないかと思います。

しかし、実際には必ずしもそうではありません。

こちらをご覧下さい。
グレープフルーツ併用重症事例.jpg
これは上記文献の中にある図で、
これまでに報告された、
グレープフルーツと薬剤との併用で、
重篤な影響のもたらされた事例を集めたものです。

この現象が判明してから20年以上で、
重篤な事例の報告は10例程度に留まっています。

意外に少ない、ということがお分かり頂けるかと思います。

これは何故かと言えば、
小腸におけるCYP3A4の活性レベルは個人差が大きく、
薬物動態の個人差も大きい上に、
多くの薬剤では血液濃度の安全域を大きく取っているので、
理屈の上では問題のある併用であっても、
実際には軽微な変化に留まることが大多数であるからだと、
推測されます。

最も深刻な心停止の事例は、
抗不整脈剤のアミオダロンとキニジンで報告されています。
完全房室ブロックはベラパミルで報告されています。
スタチンの副作用として有名な横紋筋融解症は、
アトルバスタチンとシンバスタチンで報告があります。
重度の腎障害は免疫抑制剤のタクロリムスで、
骨髄抑制はコルヒチンで、
静脈血栓症は女性ホルモン剤での報告があります。

アミオダロンやキニジン、タクロリムスは、
そもそも厳密な血液濃度で、
管理をしないとリスクのある薬剤です。
つまり、こうした薬剤はちょっとした変動によっても、
臨床的な影響に直結するので、
リスクが高いのです。

コルヒチンの事例は、
毎日1リットルのジュースを2ヶ月飲み続けているので、
ちょっと極端な事例です。

スタチンについては、
アトルバスタチン(リピトール)、ロバスタチン、シンバスタチン(リポバス)、
が相互作用のリスクが高く、
プラバスタチン(メバロチン)、ロスバスタチン(クレストール)、
フルバスタチン(ローコール)には、
ほぼ問題のないことが分かっているので、
グレープフルーツのお好きな方への処方では、
その点の配慮が必要と思われます。

ただ、多くの抗生物質や降圧剤では、
その安全域はかなり広く設定されているので、
グレープフルーツの影響は、
その「想定内」に納まる可能性が高くなる訳です。

リスクと言う点で考えると、
抗癌剤や免疫抑制剤、抗不整脈剤に関しては、
原則グレープフルーツや類似の柑橘類の摂取を完全に禁じるのが、
妥当な判断ではないかと思います。
心停止のような重篤な影響の出る可能性が、
少ないとは言え報告もあり、
理屈からも皆無とは言えないからです。

ただ、それ以外の薬剤に関しては、
その効きが強くなることを念頭に置きながら、
少量のグレープフルーツを、
数時間を置いて食するようなことまで、
禁じる必要性は臨床的には薄いのではないかと思います。

微妙なものはスタチンで、
横紋筋融解症がグレープフルーツの影響のみで、
生じるということは考え難いのですが、
少し慎重にその適応と薬剤の選択は、
注意を払った方が良さそうに思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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