メトホルミンの作用メカニズム [医療のトピック]
こんにちは。
六号通り診療所の石原です。
今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
今年の6月のNature誌にレターとして掲載された、
糖尿病治療薬のメカニズムについての文献です。
これは以前チラと触れたことがあると思うのですが、
何となくしっかり紹介しないままに、
来てしまいました。
今月のNew England…に解説記事が載ったのを機会に、
ご紹介させて頂きます。
メトホルミン(商品名メトグルコなど)は、
欧米では2型糖尿病の治療薬の、
第一選択としての地位の揺るがない薬です。
日本においては、
その使用にはやや温度差があり、
日本人にはもっと合った薬があるのではないか、
という見解も根強くあるのですが、
その使用は最近では欧米に近付きつつあります。
この薬は欧米では最も有効性があり、かつ安全な、
飲み薬の糖尿病治療薬として評価されています。
しかし、この薬の問題点の1つは、
これまで明確な作用メカニズムが分からない点にありました。
メトホルミンはインスリン抵抗性を改善する薬、
ということが知られています。
しかし、その作用は筋肉や脂肪細胞では、
発揮されていないこともはっきりしていて、
その作用は主に肝臓らしい、
というところまではかなり前から分かっていたのですが、
その詳細は長く不明で、
論文ではグルカゴンの分泌の抑制や、
GLP-1の誘導、ブドウ糖の腸からの吸収の抑制など、
色々なことが言われていました。
近年主流となった仮説の1つは、
インスリンの感受性に関わりの深い、
AMP活性化プロテインキナーゼを増加させることにより、
肝臓における糖新生と言われる、
ブドウ糖の合成系を阻害するのではないか、
というメカニズムでした。
AMP活性化プロテインキナーゼは、
筋肉や脂肪細胞における、
インスリン抵抗性にも大きく関わっていて、
その面からは、この仮説は説得力がありました。
確かに肝臓の細胞において、
メトホルミンの刺激により、
AMP活性化プロテインキナーゼの遺伝子発現が増えることは、
ほぼ間違いがありません。
しかし、このメカニズムで糖新生が抑制されているとすると、
遺伝子レベルで糖新生のシグナルの、
低下が認められることになります。
その一方でメトホルミンを急速静注すると、
即座に糖新生は抑制されて、
その結果として乳酸の産生が増え、
糖新生に関わる遺伝子発現には変化が認められないので、
これは理屈に合わない、という側面があったのです。
今回のデータはネズミにおいて、
メトホルミンを急速静注することによる、
肝臓の細胞における変化を、
詳細に検証し、
これまでとはまた別個の結論を導き出しています。
その結論はどのようなものだったのでしょうか?
こちらをご覧下さい。
これは上記論文を解説した、
今月のNew England…の解説記事にある図です。
上記文献の記載によれば、
肝臓の細胞のミトコンドリアにある、
m-GPDという糖新生の開始に関わる酵素を阻害することが、
メトホルミンの少なくとも急性効果の主体で、
これが連鎖的な反応を生んで、
糖新生を抑制させ、
代わりに乳酸を増加させます。
AMP活性化プロテインキナーゼの増加は、
あくまでこうした反応の結果の1つであって、
その原因ではない、というのが、
上記の文献の結論です。
さすがNatureという感じで、
レターの扱いながら、
極めて多数の実験を、積み重ねて、
説得力のある結論に至っています。
勿論これはネズミの実験で、
人間でも同じことが言えるかどうかは断定的には言えません。
ただ、これまでのメトホルミンのメカニズムの仮説と比較すると、
極めてシンプルで説得力があります。
今後このメカニズムが人間においても成り立つかの検証と共に、
メトホルミンのより適切な使用法の進歩を期待したいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
下記書籍引き続き発売中です。
よろしくお願いします。
六号通り診療所の石原です。
今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
今年の6月のNature誌にレターとして掲載された、
糖尿病治療薬のメカニズムについての文献です。
これは以前チラと触れたことがあると思うのですが、
何となくしっかり紹介しないままに、
来てしまいました。
今月のNew England…に解説記事が載ったのを機会に、
ご紹介させて頂きます。
メトホルミン(商品名メトグルコなど)は、
欧米では2型糖尿病の治療薬の、
第一選択としての地位の揺るがない薬です。
日本においては、
その使用にはやや温度差があり、
日本人にはもっと合った薬があるのではないか、
という見解も根強くあるのですが、
その使用は最近では欧米に近付きつつあります。
この薬は欧米では最も有効性があり、かつ安全な、
飲み薬の糖尿病治療薬として評価されています。
しかし、この薬の問題点の1つは、
これまで明確な作用メカニズムが分からない点にありました。
メトホルミンはインスリン抵抗性を改善する薬、
ということが知られています。
しかし、その作用は筋肉や脂肪細胞では、
発揮されていないこともはっきりしていて、
その作用は主に肝臓らしい、
というところまではかなり前から分かっていたのですが、
その詳細は長く不明で、
論文ではグルカゴンの分泌の抑制や、
GLP-1の誘導、ブドウ糖の腸からの吸収の抑制など、
色々なことが言われていました。
近年主流となった仮説の1つは、
インスリンの感受性に関わりの深い、
AMP活性化プロテインキナーゼを増加させることにより、
肝臓における糖新生と言われる、
ブドウ糖の合成系を阻害するのではないか、
というメカニズムでした。
AMP活性化プロテインキナーゼは、
筋肉や脂肪細胞における、
インスリン抵抗性にも大きく関わっていて、
その面からは、この仮説は説得力がありました。
確かに肝臓の細胞において、
メトホルミンの刺激により、
AMP活性化プロテインキナーゼの遺伝子発現が増えることは、
ほぼ間違いがありません。
しかし、このメカニズムで糖新生が抑制されているとすると、
遺伝子レベルで糖新生のシグナルの、
低下が認められることになります。
その一方でメトホルミンを急速静注すると、
即座に糖新生は抑制されて、
その結果として乳酸の産生が増え、
糖新生に関わる遺伝子発現には変化が認められないので、
これは理屈に合わない、という側面があったのです。
今回のデータはネズミにおいて、
メトホルミンを急速静注することによる、
肝臓の細胞における変化を、
詳細に検証し、
これまでとはまた別個の結論を導き出しています。
その結論はどのようなものだったのでしょうか?
こちらをご覧下さい。
これは上記論文を解説した、
今月のNew England…の解説記事にある図です。
上記文献の記載によれば、
肝臓の細胞のミトコンドリアにある、
m-GPDという糖新生の開始に関わる酵素を阻害することが、
メトホルミンの少なくとも急性効果の主体で、
これが連鎖的な反応を生んで、
糖新生を抑制させ、
代わりに乳酸を増加させます。
AMP活性化プロテインキナーゼの増加は、
あくまでこうした反応の結果の1つであって、
その原因ではない、というのが、
上記の文献の結論です。
さすがNatureという感じで、
レターの扱いながら、
極めて多数の実験を、積み重ねて、
説得力のある結論に至っています。
勿論これはネズミの実験で、
人間でも同じことが言えるかどうかは断定的には言えません。
ただ、これまでのメトホルミンのメカニズムの仮説と比較すると、
極めてシンプルで説得力があります。
今後このメカニズムが人間においても成り立つかの検証と共に、
メトホルミンのより適切な使用法の進歩を期待したいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
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よろしくお願いします。
健康で100歳を迎えるには医療常識を信じるな! ここ10年で変わった長生きの秘訣
- 作者: 石原藤樹
- 出版社/メーカー: KADOKAWA/アスキー・メディアワークス
- 発売日: 2014/05/14
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2014-10-23 08:08
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