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乳製品は前立腺癌を増やすのか? [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
牛乳と前立腺がんリスクについて.jpg
2011年のAmerican Journal of Epidemiology誌に掲載された、
牛乳や乳製品の摂取量と、
進行した前立腺癌のリスクとの、
関連性を検証した論文です。

発表当時かなりの衝撃を持って受け止められた報告です。
その真偽は現時点で確定したものではありませんが、
完全に否定するような報告もその後はなく、
一定の信頼性を持って受け止められています。

牛乳と乳製品を健康上どう捉えるのか、
というのは非常に難しい問題です。

日本人も長く乳製品を摂らなかったように、
乳製品と牛乳と言う食品は、
その摂取にはかなりの地域差があり、
非常に多く摂る地域から、
殆ど摂らない地域まで様々です。

つまり、人間の食生活に必須の食品とは言えません。

牛乳は一時期健康の源のように言われ、
欧米では一種の薬として、
牛乳を勧めるような時代もありました。

しかし、その一方で牛由来の蛋白質が、
自己免疫の病気をふやすのでは、というような報告もあり、
また最近その評価の高い健康食である地中海ダイエットは、
乳製品を原則摂らない、という食事です。

そして、癌との関連で言うと、
牛乳や乳製品の摂取と、
前立腺癌発症リスクとの関連が、
多くの疫学データで上記文献以前にも指摘をされています。

たとえば、日本の多目的コホート研究(JPHC研究)においても、
2008年に発表された論文において、
牛乳、乳製品、ヨーグルトのいずれにおいても、
摂取量の多いグループは、
少ないグループと比較して、
概ね1.5から1.6倍前立腺癌の発症リスクが増加しています。

しかし、概ねこのリスクの増加は、
早期癌や健診で発見されたような症状のない癌ではなく、
生命予後に影響を与えるような進行癌に限って認められる、
という報告が多いのです。

この現象の原因の1つの仮説として、
乳製品は癌の増殖を促すような作用ではなく、
前立腺が成熟する時期に、
将来的な発癌に結び付くような、
影響を与えるのではないか、
という考え方があります。

今日ご紹介する文献では、
アイスランドにおいて、
1907年から1935年に出生した8894名の男性の疫学調査のデータと、
2002年から2006年にそのうちの2268名において、
牛乳や乳製品の摂取量の聞き取り調査
(14から19歳時の習慣と、40歳から50歳時の習慣)、
そしてその後の前立腺癌の発症率とを比較検討しています。

平均で24.3年の経過観察期間中に、
1123名の前立腺癌が発症し、
そのうちの371例は進行した病変でした。
進行病変の定義は、
ステージ3以上の病変もしくは癌による死亡事例の合計です。

その結果…

牛乳と乳製品を思春期に毎日1回以上摂取した男性は、
1回未満の摂取と比較して、
トータルで3.2倍前立腺癌の進行病変のリスクが高い、
という結果になりました。
一方で40から50歳での摂取については、
そうしたリスクの増加は認められませんでした。

つまり、
10代の時期に牛乳と乳製品を毎日摂っていると、
将来的な進行した前立腺癌に罹患するリスクが、
3倍以上増加する、というインパクトの強い結果です。

背を伸ばし、健康な肉体を作るために、
小中学生は毎日牛乳を飲みましょう、というのは、
僕が学生の頃には、
非常にポピュラーな意見で、
何の疑問もなく皆がそれを受け入れていましたから、
そのことを考えると、
かなりこれはショッキングな結果なのです。

一方で前立腺癌になった患者さんが、
牛乳や乳製品を多く摂っても摂らなくても、
その経過には特に違いはなかった、
とする結果は複数報告されていて、
少なくとも前立腺癌になる前の乳製品の摂取量が、
ある程度の進行前立腺癌のリスクになり得る、
ということは
一定の蓋然性のあるデータとして認められています。

ただ、お分かりのように、
思春期の乳製品の摂取量が、
高齢者の癌である前立腺癌に与える影響を検証するには、
非常に長期間の経過観察が必要ですから、
そう簡単に追試の出来るような試験ではなく、
端的に言えばほぼ上記の文献以外には、
根拠となるものはないのですから、
あおれがアイスランドの何らかの地域的要因による、
という可能性も現時点では否定は出来ないのです。

それでは、現状思春期の牛乳の摂取量を、
どう考えれば良いのでしょうか?

現時点で深刻に考え過ぎる必要はないと思います。

ただ、多く摂れば摂るほど良い、
という以前の考え方は見直した方が良いことは確かで、
個人的な見解としては、
1日240ミリリットル程度までは問題はなく、
それを超えるようであれば、
毎日の摂取にはしないのが、
妥当な考えではないかと思います。
低脂肪でカルシウムを強化したような乳製品を選択することも、
1つの考え方であると思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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