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85歳以上の年齢における血圧と認知症との関連について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
高齢者の血圧とBNPと予後.jpg
今月のNeurology誌に掲載された、
高齢者の血圧と心不全、そして認知症との関連についての文献です。

中年層において高血圧が、
将来の認知症のリスクとなることは、
はぼ確立された事実です。

従って、中年層の血圧を適正にコントロールすることは、
心筋梗塞や脳卒中の予防になるばかりではなく、
認知症の予防にも一定の効果が期待出来るのです。

しかし、その一方で高齢者、
特に85歳以上というような年齢層においては、
血圧が低いことが、
認知症進行のリスクとなることが、
複数の疫学データから指摘されています。

この現象をどのように考えれば良いのでしょうか?

1つの可能性は、
85歳以上の高齢者の場合、
心機能が少なからず低下していることが想定され、
その心機能の低下によって、
血圧が低下に転じ、
それが認知症の進行にも悪影響を与えるのではないか、
という考え方が出来ます。

しかし、これまでに85歳以上のような高齢者において、
心機能の指標と血圧の数値とを、
同時に比較した信頼のおけるような疫学データは、
あまり存在していませんでした。

そこで今回の文献においては、
オランダにおける、
85歳以上の高齢者の疫学研究のデータを活用して、
血圧値と血液の心不全の指標であるNT-proBNPという数値の、
認知症の進行に与える影響を検証しています。

対象となっているのは登録時に85歳の男女560名で、
85歳の時点で血圧とNT-proBNPの数値、
そして認知機能の指標であるMMSEの数値を計測し、
5年後の90歳時に再検査を行なって、
MMSEの低下の大きさと、
登録時の血圧やNT-proBNPの数値との関連性を比較分析しています。

85歳以上の年齢層の疫学データとしては、
かなり大規模なものです。

MMSEは日本でも長谷川式と並んで、
認知機能の簡便な指標として広く使用されている試験です。

NT-proBNPは心臓の筋肉がストレスに曝されることによって、
分泌される物質であるBNPが、
産生される時に切り離される断片を測定するもので、
数値が高いほど心筋へのストレスが大きいことを示し、
心不全の簡便な指標の1つとして使用されているものです。

解析としては、
血圧の数値もNT-proBNPの数値も、
その高低により3群に分けて比較を行なっています。

血圧については収縮期血圧が110.0から146.5mmHgが低い群で、
147.0から161.5mmHgが中間群、
そして162.0から215.0mmHgが高い群となっています。
これは勿論降圧剤などの治療の行なわれている患者さんも、
未治療の方も一緒に含まれています。

NT-proBNPは、
125pg/mLを越えると軽度の心負荷が疑われ、
400を越えると心不全の可能性が高いというのが、
概ね今の日本の基準です。

それを今回の研究では、
低い群が20.8から200.9pg/mL、
中間群が202.7から549.3pg/mL、
高い群が552.9から28362.7pg/mLと区分しています。
この中にも心不全の治療がされている患者さんも含まれています。

その結果…

85歳時で既にMMSEの数値は、
収縮期血圧が低い群でより低い傾向があり、
収縮期血圧が低い群が、
最も90歳時までの認知症の進行が顕著に見られています。

NT-proBNPとMMSEの低下との関連は、
血圧ほど明確ではありませんが、
高値群でよりその低下は顕著に見られています。

この2つの指標を組み合わせると、
血圧が低く、NT-proBNPの高い群は、
85歳時のMMSEの数値が平均で3.7点有意に低く、
その後もMMSEの低下が、
他の群と比較して大きいことが確認されました。

要するに85歳以上の年齢層においては、
収縮期血圧は147を越えていた方が認知症の進行は緩やかで、
血圧が146.5以下でNT-proBNPが552.9以上であると、
認知症の進行がより急峻となる可能性が高い、
という結論になります。

ただし、これはデータが治療中の方もそうでない方も一緒になっていて、
どのような因子を考慮するかによっても、
有意差は出たり出なかったりしています。

BNPの高度に上昇している人は、
入退院なども繰り返していることが想定され、
そのことと認知機能の低下が、
よりリンクしているという可能性もあります。

血圧も未治療での数値と、
治療している状態での数値では、
その意味合いはかなり変わりますし、
どのような病気の予防のために、
治療を行なっているかによっても、
その意味合いは異なります。

従って、このデータのみで、
血圧は高い方が認知症にはいいのだ、
というような結論にはならないのですが、
予防すべき病気を認知症に限って考える場合には、
85歳の時点での血圧は、
150を切らないくらいを目安に考えるのが、
他の同種のデータも併せて考えると、
妥当な結論のように思います。

勿論この問題は簡単には割りきれません。

高齢者では血圧の変動幅は大きく、
そのことの影響も考えなければいけませんし、
85歳の時点で降圧剤の治療を継続している場合と、
その時点で未治療の場合とでは、
同じに考えることは出来ません。

ただ、その時点での降圧剤治療をどう考えるかという点においては、
認知機能の指標とNT-proBNP、
糖尿病などの合併症の有無は一体のものとして、
総合的に判断する見識が、
最も必要になるのかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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