川村毅「生きると生きないのあいだ」 [演劇]
こんにちは。
六号通り診療所の石原です。
今日は日曜日で診療所は休診です。
朝からいつものように、
駒沢公園まで走りに行って、
それから今PCに向かっています。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
元第三エロチカの川村毅さんが作・演出を務め、
柄本明さんが主役を務めた新作の舞台が、
昨日から吉祥寺シアターで上演中です。
これはそれほど期待をしていなかったのですが、
悪くない芝居でした。
題名は黒澤明の「生きる」がモチーフの1つで、
何となく「そんな感じか…」と思ってしまうのですが、
実際の作品は村上春樹さんの「海辺のカフカ」と、
テーマ的には同じ話で、
そのスタイルも文体も、
村上さんの影響を受けているように感じました。
誤解されると困るのですが、
僕は黒澤明の「生きる」は、
お通夜の場面のくどさがちょっとな、とは思いますが、
比較的好きな映画です。
銀座の「並木座」で観た時には、
いつもは寝ていて画面を見ていないようなおじさんが、
食い入るように観ていたのを良く覚えています。
ただ、今時あの映画をモチーフにする、
という時点で、勘弁してよ、というように思うのです。
ただ、実際の舞台には、
確かに「生きる」のモチーフは登場しますが、
作品のスタイルは完全に別個のものでした。
川村毅さんの作品は、
第三エロチカ時代に何作が観ました。
映像的でロマネスク的な世界が特徴で、
深浦加奈子さんや有薗芳樹さんを代表として、
魅力的で骨太な役者さんが揃っているのが魅力でした。
ただ、勢い優先で舌足らずな感じはありました。
その後色々な活動をされていましたが、
何となく足が向きませんでした。
2012年の「4 Four」という芝居は観て、
観客をバラバラの場所に座らせ、
4つの役のどれかに割り振る、
という趣向は面白かったのですが、
肝心の作品は翻訳調で、
リアリティに乏しいものでした。
若い頃に過激な芝居をしていた人達が、
年を取って欧米の前衛劇みたいなものに傾斜して、
税金で運営する施設の芸術監督になったりして生活しているのは、
僕にはいつも納得が行かなくて、
税金や年金など死んでももらうものか、
というポリシーの方々だと思っていたので、
税金をもらって芝居をする、
ということ自体が信じられなくて、
外野の勝手な意見ですが、
もっと破天荒な存在で、
有り続けて欲しかったのです。
ただ、勿論そうした人達も、
僕らと同じ貧相な人間であったに過ぎない、
ということだと思うので、
批判するようなつもりは毛頭ありません。
ちょっぴり落胆をするだけです。
川村さんもそうした世界にいらっしゃるのかな、
と思っていたのですが、
今回の芝居はなかなか歯応えのあるもので、
矢張り借りて来た猫のような、
スタイリッシュな前衛劇的意匠が気に掛かり、
もっと泥臭くやって欲しいのに、とは思うのですが、
テーマは骨太で心に刺さりましたし、
演出も演技も紛れもないプロの矜持を感じました。
多分、僕の観た川村さんの作品の中では、
一番良かったと思います。
演劇初心者向きではありませんが、
最近は昔のように芝居を観ていないけれど、
ちょっとまた観てみるかな、
という向きにはお勧めしたいと思います。
以下ネタばれを含む感想です。
主人公の柄本明は「便利屋ハリー」と名乗っていて、
ゴミの片付けやペットの散歩のような、
如何にも便利屋という仕事もしているのですが、
生を続けようか、それとも死んでしまおうかと、
宙ぶらりんの状態にある人間の魂を、
支えるような仕事もしています。
そこに川口覚演じるジョニーという若者が訪れ、
助手になりたいと志願します。
実はハリーは昔ジョニーの父親の知り合いで、
ジョニーの父親に娘を殺され、
その父親を監禁して暴行。
その後ジョニー父親は死に、
直接殺した訳ではないのですが、
ジョニーはハリーのことを、
父親殺しとして付け狙っていたのです。
便利屋ハリーは生と死の境のような場所にいて、
死に足を踏み入れつつある生者と、
成仏出来ない死者とがそこを訪れます。
ハリー自身も成仏出来ない死者のような存在であったのです。
成仏出来ない死者としてジョニーの父親が現れ、
罪と復讐の連鎖は解き難く思われるのですが、
自殺志願の女を、
ジョニーの父とハリーが2人で救い、
同時に列車の下敷きになることで、
2人は成仏して死の世界に入り、
ジョニーはハリーの後を継いで便利屋になります。
父の犯した取り返しの付かない罪に、
息子がどう対峙し、
それをどう乗り越えるべきなのか、
というテーマは「海辺のカフカ」と同じです。
作品は「生きる」以外にも、
幾つかの映画のモチーフを組み合わせて構成されていますが、
トータルなイメージは村上春樹作品に近く、
得体の知れない登場人物の、
妙にバタくさい造形もそうですし、
生硬い感じの台詞の感触や、
舞台の抽象性もそうだと思います。
今回はそうしたスタイルが、
作品の内容とマッチしていて、
スタイリッシュで洗練された演出も成功していましたし、
役者も皆好演でした。
上演時間も1時間40分と、
緊密さを保てるものに切り詰められていて、
その軽快なテンポも心地良く感じました。
びっくりするようなものではありませんが、
繊細で質の高い仕事で、
演劇本来の楽しみに、
束の間心を遊ばせることが出来ました。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
下記書籍引き続き発売中です。
よろしくお願いします。
六号通り診療所の石原です。
今日は日曜日で診療所は休診です。
朝からいつものように、
駒沢公園まで走りに行って、
それから今PCに向かっています。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
元第三エロチカの川村毅さんが作・演出を務め、
柄本明さんが主役を務めた新作の舞台が、
昨日から吉祥寺シアターで上演中です。
これはそれほど期待をしていなかったのですが、
悪くない芝居でした。
題名は黒澤明の「生きる」がモチーフの1つで、
何となく「そんな感じか…」と思ってしまうのですが、
実際の作品は村上春樹さんの「海辺のカフカ」と、
テーマ的には同じ話で、
そのスタイルも文体も、
村上さんの影響を受けているように感じました。
誤解されると困るのですが、
僕は黒澤明の「生きる」は、
お通夜の場面のくどさがちょっとな、とは思いますが、
比較的好きな映画です。
銀座の「並木座」で観た時には、
いつもは寝ていて画面を見ていないようなおじさんが、
食い入るように観ていたのを良く覚えています。
ただ、今時あの映画をモチーフにする、
という時点で、勘弁してよ、というように思うのです。
ただ、実際の舞台には、
確かに「生きる」のモチーフは登場しますが、
作品のスタイルは完全に別個のものでした。
川村毅さんの作品は、
第三エロチカ時代に何作が観ました。
映像的でロマネスク的な世界が特徴で、
深浦加奈子さんや有薗芳樹さんを代表として、
魅力的で骨太な役者さんが揃っているのが魅力でした。
ただ、勢い優先で舌足らずな感じはありました。
その後色々な活動をされていましたが、
何となく足が向きませんでした。
2012年の「4 Four」という芝居は観て、
観客をバラバラの場所に座らせ、
4つの役のどれかに割り振る、
という趣向は面白かったのですが、
肝心の作品は翻訳調で、
リアリティに乏しいものでした。
若い頃に過激な芝居をしていた人達が、
年を取って欧米の前衛劇みたいなものに傾斜して、
税金で運営する施設の芸術監督になったりして生活しているのは、
僕にはいつも納得が行かなくて、
税金や年金など死んでももらうものか、
というポリシーの方々だと思っていたので、
税金をもらって芝居をする、
ということ自体が信じられなくて、
外野の勝手な意見ですが、
もっと破天荒な存在で、
有り続けて欲しかったのです。
ただ、勿論そうした人達も、
僕らと同じ貧相な人間であったに過ぎない、
ということだと思うので、
批判するようなつもりは毛頭ありません。
ちょっぴり落胆をするだけです。
川村さんもそうした世界にいらっしゃるのかな、
と思っていたのですが、
今回の芝居はなかなか歯応えのあるもので、
矢張り借りて来た猫のような、
スタイリッシュな前衛劇的意匠が気に掛かり、
もっと泥臭くやって欲しいのに、とは思うのですが、
テーマは骨太で心に刺さりましたし、
演出も演技も紛れもないプロの矜持を感じました。
多分、僕の観た川村さんの作品の中では、
一番良かったと思います。
演劇初心者向きではありませんが、
最近は昔のように芝居を観ていないけれど、
ちょっとまた観てみるかな、
という向きにはお勧めしたいと思います。
以下ネタばれを含む感想です。
主人公の柄本明は「便利屋ハリー」と名乗っていて、
ゴミの片付けやペットの散歩のような、
如何にも便利屋という仕事もしているのですが、
生を続けようか、それとも死んでしまおうかと、
宙ぶらりんの状態にある人間の魂を、
支えるような仕事もしています。
そこに川口覚演じるジョニーという若者が訪れ、
助手になりたいと志願します。
実はハリーは昔ジョニーの父親の知り合いで、
ジョニーの父親に娘を殺され、
その父親を監禁して暴行。
その後ジョニー父親は死に、
直接殺した訳ではないのですが、
ジョニーはハリーのことを、
父親殺しとして付け狙っていたのです。
便利屋ハリーは生と死の境のような場所にいて、
死に足を踏み入れつつある生者と、
成仏出来ない死者とがそこを訪れます。
ハリー自身も成仏出来ない死者のような存在であったのです。
成仏出来ない死者としてジョニーの父親が現れ、
罪と復讐の連鎖は解き難く思われるのですが、
自殺志願の女を、
ジョニーの父とハリーが2人で救い、
同時に列車の下敷きになることで、
2人は成仏して死の世界に入り、
ジョニーはハリーの後を継いで便利屋になります。
父の犯した取り返しの付かない罪に、
息子がどう対峙し、
それをどう乗り越えるべきなのか、
というテーマは「海辺のカフカ」と同じです。
作品は「生きる」以外にも、
幾つかの映画のモチーフを組み合わせて構成されていますが、
トータルなイメージは村上春樹作品に近く、
得体の知れない登場人物の、
妙にバタくさい造形もそうですし、
生硬い感じの台詞の感触や、
舞台の抽象性もそうだと思います。
今回はそうしたスタイルが、
作品の内容とマッチしていて、
スタイリッシュで洗練された演出も成功していましたし、
役者も皆好演でした。
上演時間も1時間40分と、
緊密さを保てるものに切り詰められていて、
その軽快なテンポも心地良く感じました。
びっくりするようなものではありませんが、
繊細で質の高い仕事で、
演劇本来の楽しみに、
束の間心を遊ばせることが出来ました。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
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2014-09-28 09:05
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