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新規骨粗鬆症治療薬「デノスマブ」の効果について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
新規骨粗鬆症治療薬の臨床試験.jpg
先月のJ Clin Endocrinol Metab誌に掲載された、
新規骨粗鬆症の治療薬の効果と安全性についての、
日本での臨床試験の結果をまとめた論文です。

取り上げられているデノスマブ(Denosumab)は、
2012年には骨転移などの骨病変の治療薬として、
ランマークという名称で発売され、
2013年の6月には、
用量設定を変えてプラリアという名称で、
骨粗鬆症の治療薬として日本でも発売されています。

この時の第3相の臨床試験(日本のみで施行された分)が、
遅ればせながら今回、
このような形で論文化されたのです。

第一著者は国立国際医療研究センター現病院長の、
中村利孝先生です。

骨粗鬆症の治療薬は、
数年毎にメカニズムの異なる新薬が開発され、
その度に医療費が跳ね上がることを除けば、
患者さんに対する恩恵も大きな、
医療における「成長分野」です。

現状ビスフォスフォネートと呼ばれる、
骨を壊す細胞の働きを抑える薬が、
最も有効性の確立した薬剤として、
広く使用されています。

しかし、ビスフォスフォネートは、
5年を越える継続使用のメリットと安全性が、
必ずしも確立されていない、という問題があることと、
病的骨折や顎骨壊死など、
薬剤との因果関係が否定出来ない、
有害事象の存在が指摘されています。

最近使用が開始された副甲状腺ホルモンの注射薬は、
強力に骨形成を促進することにより、
より強力に骨塩量を増加させる効果が確認されています。
副甲状腺ホルモンは、
持続的に作用すれば骨を壊す方向に働くのですが、
間歇的に使用すると骨を増やす方向に働くのです。
これは現在最も強力な骨形成促進剤ですが、
細胞の増殖を促す作用から、
発癌のリスク増加を、完全には否定出来ません。
そのため最大でも2年程度の使用で、
経過を観察する方針が取られています。

今回ご紹介するデノスマブは、
また別箇のメカニズムの治療薬です。

デノスマブは抗RANKLモノクローナル抗体です。

RANKLというのは、
NF-κB活性化受容体リガンドの略称で、
これは一種の炎症性のサイトカインで、
その主な働きは骨の破骨細胞の元になる細胞の、
表面にある受容体にくっつき、
骨を壊す細胞である、
破骨細胞の分化を阻害することになります。

そもそも骨を壊す細胞である破骨細胞は、
白血球の一種である単球系の細胞が、
何段階かの刺激により分化して成熟したもので、
それが骨の表面に取り付いて骨を壊します。

RANKというのはこの白血球にある受容体で、
そこにくっつくのがRANKLというリガンドです。
RANKLとRNAKが結合することにより、
破骨細胞は分化するのですが、
デノスマブはRANKLに特異的に結合して、
RANKとRANKLの結合を阻害し、
それにより破骨細胞の分化を抑制するのです。

ややこしいのですが、
お分かり頂けたでしょうか?

抗RANKLモノクローナル抗体であるデノスマブは、
皮下注射で使用することにより、
血液中に移行し、
破骨細胞の分化を抑制し、
結果として破骨細胞を減らして、
骨塩量の低下を防ぎます。

白血球が体内で入れ替わるまで、
その効果は持続しますから、
半年に一度の注射で有効性は維持されるのです。

これは完全なヒト型抗体なので、
体内で安定して存在し、
身体の免疫の攻撃を受け難いと考えられます。

この薬はまず、
多発性骨髄腫や癌の骨転移における、
骨病変の治療目的で適応が取得されました。
これはランマーク皮下注と言う名称で発売され、
半年に1回120ミリグラムという用量です。
ところが、この用量では重症の低カルシウム血症の発症が多いので、
骨粗鬆症に対しては、
その半分の60ミリグラムの用量の注射薬が、
今度はプラリア皮下注という名称で、
昨年発売されたのです。

世界規模の臨床試験においては、
ビスフォスフォネートに匹敵する、
骨量の増加と骨折予防効果が確認されましたが、
アジア人種のみでのサブ解析では、
症例数が少ないので有効性が確認されませんでした。

そこで今回の文献にある診療試験では、
日本人のみを対象に、
偽薬とデノスマブの比較及び、
アレンドロネートという、
世界的に最もデータの豊富なビスフォスフォネートとの、
効果及び安全性の比較が行なわれています。

事例は背骨の圧迫骨折の既往のある、
50歳以上の骨粗鬆症の男女で、
デノスマブ群が475名、偽注射群が481名、
アレンドロネート群が242名です。
低カルシウム血症の予防のため、
全ての患者さんには1日600ミリグラム以上のカルシウムと、
400IU以上の非活性型のビタミンDが併用されます。

アレンドロネートは経口ですから、
患者さんにも使用の有無は分かっていますが、
デノスマブと偽注射の比較では、
患者さんにも主治医にも、
どちらが使用されたのかは知らされません。

経過は2年間観察されます。

これが字義通りに完全に施行されたのだとすれば、
世界水準の厳密なデザインの臨床試験だと思います。

その結果…

デノスマブは偽注射と比較して、
2年間の観察期間中に、
背骨の骨折を有意に65.7%低下させました。
(偽薬で10.3%が骨折したのに対して、
デノスマブ群の骨折率は3.6%)
骨量の増加は、
アレンドロネートをやや上回っています。

有害事象は重篤なものが殆ど認められず、
群間の差も認められていません。

この結果をどのように考えるべきでしょうか?

デノスマブとビスフォスフォネートは、
いずれも強力に破骨細胞の働きを抑える薬剤です。

ただ、ビスフォスフォネートが、
骨の表面を覆って、破骨細胞が働かないような状態を、
一時的に作るような薬剤であるのに対して、
デノスマブは破骨細胞の分化を阻害して、
破骨細胞自体の数を減らす、
という別個のメカニズムを有しています。

このためビスフォスフォネートは、
比較的頻回の使用が必要であるのに対して、
デノスマブは半年に1回の注射で効力が持続するので、
患者さん物理的な負担が少なくて済みます。
ただ、最近ではビスフォスフォネートにも、
1ヵ月に一度の飲み薬や注射剤がありますから、
それほどの負担の差はない、
というように考えることも可能です。

ビスフォスフォネートには、
顎骨壊死や非定形骨折という、
薬剤の使用との関連性の疑われる、
特徴的な骨の病気の合併が問題となっています。
これはビスフォスフォネートの人工的なコーティング作用に、
拠るものではないか、
という見方があり、
デノスマブの作用はより生理的なので、
こうした有害事象は起こり難いと考えられました。

しかし、
先行した高用量の骨転移用のデノスマブ製剤では、
重度の低カルシウム血症と共に、
顎骨壊死や非定形骨折も、
矢張り少なからず報告されています。

つまり、
顎骨壊死や非定形骨折は、
その方法はどうあれ、
破骨細胞の働きが、
高度の障害された場合に発症することが想定され、
その意味でデノスマブ製剤が、
ビスフォスフォネートより安全とは言い切れないのです。

今回の臨床試験では、
1例もそうした有害事象は報告されておらず、
その頻度と臨床試験の症例数からすれば、
当然とも言えるのですが、
何となくこのように安全性が完全無欠の臨床試験というのは、
話半分で聞いた方が良さそうだな、
という感想は持っています。

また、RANKは他のリンパ球などにも、
存在することが分かっていて、
そこにおける存在意義はまだ不明だ、
と言う点にも注意が必要です。
つまり、予期せぬ有害事象が、
今度現れる可能性もあるのです。

NHKの吐き気のするような番組でも、
絶賛されたデノスマブですが、
現時点でビスフォスフォネートより安全な薬であるとも、
確実に効果の強い薬であるとも、
まだ確認はされていないという点に、
現時点では注意を払う必要があるように思います。

シンプルに言えば、
現時点で最も強力に骨形成を促す薬が、
副甲状腺ホルモン製剤の間歇投与で、
最も強力に骨吸収を抑える薬が、
ビスフォスフォネートとデノスマブです。
しかし、骨の健康は骨形成と骨吸収との、
バランスで保たれているもので、
そのバランスを有効に調整するような薬剤は、
臨床的に明確な意味を持つレベルでは、
未だ1つも存在してはいないのです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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よろしくお願いします。

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zzz

石原先生、こんにちは(^^)毎日このボリューム、すばらしいですね。

デノスマブの副作用については先生の以前の記事のおかげでいろいろ勉強することができました。承認後は添付文書も確認しましたが、副作用は明白ですよね。この論文の結果はどういうことなんでしょう?今回の論文の試験は添付文書に記載されている国内第Ⅲ相臨床試験とはまた別のものなのでしょうか?あくまでビスとの比較を目的とした試験?一口に第3相といってもいろいろあるのですね?

また、それとは別にデノスマブはその作用上未分化の破骨細胞が増えてしまい、6ヶ月に1度を守らないとそれらが分化してリバウンド的な状態になると聞いた事があります。おっしゃるとおり、患者的に第一報は華々しかったのですが、今ではすっかり使う気無しです。

以前ご相談したPTHは無事に処方して頂けました。ご意見ありがとうございました。(ちなみに、49歳♀:T-スコアTotal:-3.1で開始)
でもPTHも終了後のケアは必要なんですよね。2年なんてあっという間の気がします。また新薬の情報があればお願いいたします。先生の記事は素人にもわかりやすく、かつ専門用語も出てきて検索して勉強するのにとっても役立っています。
ありがとうございました。m(__)m


by zzz (2014-08-08 11:30) 

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