小山田浩子「穴」その他 [小説]
こんにちは。
六号通り診療所の石原です。
今日は日曜日で診療所は休診です。
雨なので走りに行くのは止め、
今PCに向かっています。
休みの日は趣味の話題です。
今年芥川賞を取った小山田浩子さんの、
これまでの作品を振り返ってご紹介します。
これは凄く面白い、
というほどのことはないのですが、
まあまあ面白く、
凄く新しい、
ということもないのですが、
まあまあ目新しく、
凄い技巧ということもないのですが、
意外と凝っているのです。
これまでに2冊の単行本が発売され、
それぞれに3作の中短編が収められています。
以下その内容をご紹介します。
それほどのネタばれはありませんが、
先入観なくお読みになりたい方は、
作品を読了後に以下はお読みください。
①「工場」
これは最初の単行本で、
「工場」、「ディスカス忌」、「いこぼれのむし」という3編が収められています。
「工場」は処女作で、短めの長篇、くらいの分量です。
得体の知れない巨大な「工場」があって、
それは1つの街と化しているのですが、
工場の労働が3人の労働者の視点から、
交互に時には絡み合いながら描かれます。
不気味な黒い鳥や巨大なネズミが出て来たり、
歩いても歩いても渡れない巨大な橋があったり、
工場の光景はシュールなのですが、
描かれる労働のディテール自体はリアルな感じのものです。
最後にオチが付いているのですが、
全ての不可解さがそれで解決される訳ではなく、
こんなオチなら、ない方が良かった、
というような意見もあるのですが、
個人的にはこれで良いように思いました。
ただ、オチの表現はもっと直截的ではない方が、
良かったかも知れません。
ラテンアメリカ文学とか、カフカとか、
尾崎翠とか、安部公房とか、
色々な作品の影響が、
ないまぜになって入っていて、
何となくそれがまだ、
完全に一体感を持っていないのは、
処女作故のような気がします。
「ディスカス忌」は短編で、
「工場」より軽いタッチのものです。
第2作品集に収められた、
「いたちなく」と「ゆきの宿」とは連作になっています。
熱帯魚の飼育の話に、
男女の性的な関係性が重ね合わされた、
昔の「奇妙な味」のような作品で、
一種の「古めかしさ」が魅力です。
最後の「いこぼれのむし」は、
「工場」よりもっとリアルな会社で、
「工場」でも描かれた正規雇用と非正規との軋轢を、
多角的に描いたもので、
黒い鳥や巨大なネズミなどの代わりに、
今度は芋虫などの虫が、
不気味に作品を彩ります。
②「穴」
これは2冊目の作品集で、
短い長篇という分量の「穴」に、
「いたちなく」と「ゆきの宿」という短編2編が収められています。
2編の短編は連作で、
「ディスカス忌」の続きです。
「穴」は芥川賞を取りましたが、
確かにこれまでの小山田さんの作品の中では、
一番高い位置にあるものだと思います。
仕事を辞めて夫の田舎に引っ越した子供のいない主婦が、
姑の依頼でコンビニに送金に出掛けた途上から、
謎の黒い獣を追って「穴」に落ち、
這い上がると世界の様相は非現実的なものに変わっています。
今度のモチーフは「不思議の国のアリス」で、
その構成をかなり巧みに換骨奪胎しています。
女にとって仕事とは何か、というテーマは、
底流にはこれまでの作品と同じように流れていて、
姑に代わって自分が働き始めることにより、
いつの間にか穴から外に出ている、
というラストも、
「工場」と比べると洗練されています。
これまでの作品は、
ディテールは面白いのですが、
物語としての盛り上がりには欠けている面があり、
その点この「穴」は、
構成がきっかりと出来ていて、
その点でもより洗練されていると思います。
「いたちなく」と「ゆきの宿」の連作は、
「穴」が純文学的なのに対して、
娯楽小説的な軽いタッチを狙っているものだと思います。
僕は「いたちなく」が好みで、
連作ではなくこの作品だけを独立させた方が、
より深みが出るように感じました。
不妊治療に悩む夫婦が、
いたちの生態を友人と語る、
という組み合わせがユニークで、
完全に解決されない不穏な空気が、
全編に流れているのも魅力です。
総じて何処かで読んだような話が多く、
格別現代を感じさせる、ということもないのですが、
ちょっとしたお使いで、
道に迷って途方に暮れると世界が歪んで見えるところなど、
ディテールはなかなか面白くて、
動物や昆虫への偏執狂的な視点も良く、
リーダビリティはあるので、
読んで損をした、という気にはなりません。
そこそこのお薦めです。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
六号通り診療所の石原です。
今日は日曜日で診療所は休診です。
雨なので走りに行くのは止め、
今PCに向かっています。
休みの日は趣味の話題です。
今年芥川賞を取った小山田浩子さんの、
これまでの作品を振り返ってご紹介します。
これは凄く面白い、
というほどのことはないのですが、
まあまあ面白く、
凄く新しい、
ということもないのですが、
まあまあ目新しく、
凄い技巧ということもないのですが、
意外と凝っているのです。
これまでに2冊の単行本が発売され、
それぞれに3作の中短編が収められています。
以下その内容をご紹介します。
それほどのネタばれはありませんが、
先入観なくお読みになりたい方は、
作品を読了後に以下はお読みください。
①「工場」
これは最初の単行本で、
「工場」、「ディスカス忌」、「いこぼれのむし」という3編が収められています。
「工場」は処女作で、短めの長篇、くらいの分量です。
得体の知れない巨大な「工場」があって、
それは1つの街と化しているのですが、
工場の労働が3人の労働者の視点から、
交互に時には絡み合いながら描かれます。
不気味な黒い鳥や巨大なネズミが出て来たり、
歩いても歩いても渡れない巨大な橋があったり、
工場の光景はシュールなのですが、
描かれる労働のディテール自体はリアルな感じのものです。
最後にオチが付いているのですが、
全ての不可解さがそれで解決される訳ではなく、
こんなオチなら、ない方が良かった、
というような意見もあるのですが、
個人的にはこれで良いように思いました。
ただ、オチの表現はもっと直截的ではない方が、
良かったかも知れません。
ラテンアメリカ文学とか、カフカとか、
尾崎翠とか、安部公房とか、
色々な作品の影響が、
ないまぜになって入っていて、
何となくそれがまだ、
完全に一体感を持っていないのは、
処女作故のような気がします。
「ディスカス忌」は短編で、
「工場」より軽いタッチのものです。
第2作品集に収められた、
「いたちなく」と「ゆきの宿」とは連作になっています。
熱帯魚の飼育の話に、
男女の性的な関係性が重ね合わされた、
昔の「奇妙な味」のような作品で、
一種の「古めかしさ」が魅力です。
最後の「いこぼれのむし」は、
「工場」よりもっとリアルな会社で、
「工場」でも描かれた正規雇用と非正規との軋轢を、
多角的に描いたもので、
黒い鳥や巨大なネズミなどの代わりに、
今度は芋虫などの虫が、
不気味に作品を彩ります。
②「穴」
これは2冊目の作品集で、
短い長篇という分量の「穴」に、
「いたちなく」と「ゆきの宿」という短編2編が収められています。
2編の短編は連作で、
「ディスカス忌」の続きです。
「穴」は芥川賞を取りましたが、
確かにこれまでの小山田さんの作品の中では、
一番高い位置にあるものだと思います。
仕事を辞めて夫の田舎に引っ越した子供のいない主婦が、
姑の依頼でコンビニに送金に出掛けた途上から、
謎の黒い獣を追って「穴」に落ち、
這い上がると世界の様相は非現実的なものに変わっています。
今度のモチーフは「不思議の国のアリス」で、
その構成をかなり巧みに換骨奪胎しています。
女にとって仕事とは何か、というテーマは、
底流にはこれまでの作品と同じように流れていて、
姑に代わって自分が働き始めることにより、
いつの間にか穴から外に出ている、
というラストも、
「工場」と比べると洗練されています。
これまでの作品は、
ディテールは面白いのですが、
物語としての盛り上がりには欠けている面があり、
その点この「穴」は、
構成がきっかりと出来ていて、
その点でもより洗練されていると思います。
「いたちなく」と「ゆきの宿」の連作は、
「穴」が純文学的なのに対して、
娯楽小説的な軽いタッチを狙っているものだと思います。
僕は「いたちなく」が好みで、
連作ではなくこの作品だけを独立させた方が、
より深みが出るように感じました。
不妊治療に悩む夫婦が、
いたちの生態を友人と語る、
という組み合わせがユニークで、
完全に解決されない不穏な空気が、
全編に流れているのも魅力です。
総じて何処かで読んだような話が多く、
格別現代を感じさせる、ということもないのですが、
ちょっとしたお使いで、
道に迷って途方に暮れると世界が歪んで見えるところなど、
ディテールはなかなか面白くて、
動物や昆虫への偏執狂的な視点も良く、
リーダビリティはあるので、
読んで損をした、という気にはなりません。
そこそこのお薦めです。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
2014-03-02 10:58
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せっかくのお休みにすみません。
息子がもうすぐ2ヶ月になるので、予防接種の案内が届きました。
初めての事で何もわからず、ただ予防接種後に子供が亡くなっているというニュースは耳にした事があり不安で色々調べている時に11年5月12日に書かれている肺炎球菌とヒブの記事を読ませていただきました。
情けないのですが…無知で難しい事はわからないのですが、同時接種には私も抵抗があり単独にしようかと考えているのですが、ロタウイルスやB型肝炎など任意の予防接種も全て受けるとなると、月齢が進むにつれ予防接種の種類も増えるので、単独でのスケジュールを組むのは難しいでしょうか?
どこを見ても同時接種のスケジュールの組み方しか書いてなくて、早期に接種を終わらせるには同時接種が重要とまで書かれているのもあって…。
どうすれば良いのか全くわかりません。
お忙しいとは思いますがお力を貸していただきたくコメントさせていただきました。
by まつ (2014-03-02 16:07)
まつさんへ
現時点の考えとしては、
初回の接種はなるべく単独で行ない、
2回目以降は適宜2種類までの同時接種は行なっています。
単独接種のみで行なう場合、
ロタは生後6から8週の間には行わないと、
厳しいと思います。
コメント欄では細かい点は厳しいので、
もしよろしければ、
ホームページにあるアドレスまで、
メールを頂ければと思います。
by fujiki (2014-03-04 08:27)