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三谷幸喜「国民の映画」(2014年再演版) [演劇]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は石原が研修会出席のため、
午後の診察は午後2時45分で受付終了とさせて頂きます。
ご迷惑をお掛けしますが、
よろしくお願いします。
本日受診予定の方は、
なるべく午前中の受診をお願いします。

今日は土曜日なので趣味の話題です。

今日はこちら。
国民の映画.jpg
2011年に初演された三谷幸喜の「国民の映画」が、
今年ほぼ同じキャストで再演されました。

これは個人的には三谷幸喜さんの作品の中でも、
最も好きなものの1つです。

ナチスの高官を主役にしてコメディを作る、
という発想自体が三谷さんならではのもので、
こんな難しい素材を選びながら、
単なる善悪の二分法には終わっていない、
と言う点が素晴らしいと思います。
群像劇としても実在の人物を多く登場させながら、
個性的で笑える人物に仕立てる手際が鮮やかで、
演劇的というよりも映画的な作品ですが、
三谷さんがこれまでに監督した全ての映画より、
この作品の方が、
映画としても出来が良いのではないかと思います。

欠点は豪華なキャストが揃うので、
どうしても1人1人に見せ場を作って、
作品がストーリーの割に長くなり過ぎたことと、
特に後半の1人1人の去りがダレることです。

テーマの性質上、
最後にはナチスを批判しないとまずいので、
ラストは予定調和的になり、
お説教を最後に固めて見せられるようなしんどさが残ります。

ただ、それでも傑作であることは間違いがありません。

初演で残念であったことは、
東日本大震災と上演が重なってしまったことで、
僕が観劇した日も余震がありました。
この作品ほど震災と似合わないものはなく、
「震災直後にナチスが映画を作る話を上演する」
という何とも言えない間の悪さに、
運命の意地悪のようなものを感じました。

今回の再演はその意味で、
三谷さんとしても是非やりたかったことは間違いがなく、
「反発し合い憎み合う者が、映画という藝術で奇跡的に結び付く」
というテーマは、
今という時期でこそ、
より輝くものであったような気がします。

非常にお薦めです。

以下ネタばれがあります。

小日向文世演じるナチスの宣伝大臣ゲッペルスが主人公で、
無類の映画好きの彼が、
戦時下に映画を作ろうと、
邸宅に映画人を集めた1夜の物語です。

ナチスには反発を感じながらも、
映画を作りたいので集まった映画人の面々ですが、
ゲッペルスの執事がユダヤ人であることが明らかになり、
ホロコースト計画が露になることで、
映画人はゲッペルスの元を去ります。

作品の肝は、
反戦作家であったケストナーが、
何故ゲッペルスの映画作りに協力したのか、
という史実の謎で、
この作品ではケストナーは藝術家ではあるけれど嫌な奴で、
他人の心を慮るということがなく、
悪魔に魂を売っても、
創作から離れていることに耐えられなかった、
という発想になっています。

三谷さんの頭の中では、
悪人と嫌な奴は違います。

そして、三谷さんは悪人よりもむしろ嫌な奴をより憎むのです。

小日向文世演じるゲッペルスも、
段田安則演じるヒムラーも、
歴史的な大悪人ですが、
「嫌な奴」ではありません。
でも、ケストナーは悪人ではないのですが、
嫌な奴なのです。

この辺りの考え方に、
僕は三谷イズムを感じますし、
彼ならではの視点だと思います。

この作品の魅力は豪華な配役による演技の競演にあります。

主役のゲッペルスを演じた小日向文世は、
彼の舞台代表作と言って過言ではない、
入魂の演技で、
この偉大な俗物とでも言うべき稀代の悪党を、
時には冷酷に、時には愛嬌を交えて、
見事に演じています。

ヒムラー役の段田安則も、
やや剽軽な芝居が浮いてしまって、
演技の一貫性が失われがちな瞬間があるのが残念ですが、
この人物の得体の知れなさと、小役人的な卑小さとを、
印象的に演じています。

ナチスの幹部のうちもう1人登場する、
豪放磊落なゲーリング元帥は、
初演では白井晃が演じ、
今回の再演では渡辺徹が演じています。

この役のみは、
初演でも今一つでしたし、
今回も首を傾げる出来でした。

この役のイメージは、
明らかに西田敏行だと思うので、
登場するだけでパッと場の雰囲気が明るくなるような役柄を、
戯曲のイメージ通りにこなすことは、
他の誰を持って来ても困難かと思います。
生瀬勝久さんなら、今はいけるかも知れません。

もう1つ役柄が初演と変わったのが、
初演で新人女優を演じた吉田羊さんが、
今回はゲッペルスの妻にスライドし、
新人女優は秋元才加さんに変わったことです。

初演のゲッペルスの妻は石田ゆり子さんでしたが、
硬い演技でややブレーキでしたから、
今回の方がレベルは上がったと思います。

日和見の映画監督役の風間杜夫は、
ちょっともったいないくらいの配役ですが、
円熟した芝居がさすがでしたし、
薄っぺらい二枚目の平岳大、
執事の小林隆と隙がありません。

伝説の名優役の小林勝也は危うい感じがしましたが、
それを逆手に取ったような芝居で異彩を放っていましたし、
嫌な奴のケストナーを、
それらしく演じた今井朋彦もさすがです。

女優陣では大女優のシルビア・グラブも、
リーフェンシュタールをそれらしく艶やかに演じた新妻聖子も、
いずれも素晴らしく、
途中でちょっとミュージカルっぽくなるのも楽しい趣向です。

これだけの充実した演技の競演というのも、
ざらにあるものではなく、
とても楽しい気分で、
再び劇場を後にすることが出来ました。

とってもお勧めです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 1

モクレン

いつもながら今回も興味深く読ませていただきました。

前々から三谷幸喜の芝居を見たいと思っていた。
主役が私の好きな小日向文世である。
こんな理由で見てきました。

石原先生のゲーリング元帥を西田敏行で、生瀬勝久でという案!ぜひ見たいところですね。
渡辺徹はそれなりにこなしていたと思ったのですが、こう考えると
ただ軽く明るいミュージカルの元帥という感じでしょうか。

また伝説の名優役は、もう少し深みがほしいと思うのですが・・・・

あまりお芝居を見ていない素人の感想です。

3月4月5月の歌舞伎座、ぜひ見たいと思います。

また感想お聞かせください。


伝説の名優役は、私には今一つに感じましたが、

by モクレン (2014-03-06 21:49) 

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