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入院中のせん妄に対するロゼレムの効果 [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
せん妄に対するロゼレムの効果.jpg
今月のJAMA Psychiatry誌に掲載された、
メラトニンの誘導体による、
せん妄の予防効果を検証した文献です。

第一著者は順天堂医学部附属練馬病院の、
八田耕太郎先生で、
東京医科歯科大学や横浜市立大学などに所属される先生の、
お名前もあります。

せん妄というのは急性に生じる意識障害で、
集中治療室に入った患者さんが、
急に興奮して暴れたり、
重症の認知症を思わせるような症状が、
急に出現したりするのが、
その典型的な事例です。

環境の変化や病気などによるストレスが、
その要因となっていることが多く、
そのため病状が安定すれば、
速やかにその症状も消失します。

しかし、実際には病院の集中治療室や急性期病棟などで、
その対応に苦慮することも多く、
肝心の元の病気の治療にも、
影響を与えることが稀ではありません。

特に高齢者においてその発症頻度が高いことが知られていて、
その予防としての薬物療法の必要性が高い割には、
現時点で明確に有効性のある治療は存在していません。

高齢者のせん妄は、
認知症の急性増悪と考えることも可能なので、
明確な認知症症状がなくても、
予めアリセプトのような、
コリン作動性の認知症治療薬を、
予防的に使用することでせん妄が予防出来るのでは、
という考え方があり、
そうした臨床試験も幾つか行われましたが、
いずれも失敗に終わっています。

強い鎮静作用を持つ抗精神病薬が、
一定の有効性があるとする報告がありますが、
実際にせん妄のリスクの高い高齢の患者さんは、
抗精神病薬の副作用が出易く、
全身状態も不安定な方なので、
そうした患者さんに予防のために抗精神病薬を使用する、
というのは、
矢張り問題が大きい考え方ではないかと思います。

睡眠のリズムを調整する作用のあるメラトニンの誘導体で、
不眠の治療薬であるラメルテオン(商品名ロゼレム)は、
高齢者にも副作用の生じ難い薬剤である、
と考えられていますが、
このラメルテオンの使用により、
入院時のせん妄が予防出来るのでは、
ということを示唆するデータがあり、
今回の研究はその効果を検証したものです。

4か所の大学病院と1か所の総合病院において、
重症な身体の病気で、
集中治療室やそれに準じる急性期病棟に入院された患者さんのうち、
年齢が65歳から89歳の高齢者で、
入院の時点ではせん妄はなく、
入院後48時間以内の退院や死亡が予測されないなど、
複数の条件を満たす患者さんに対して、
くじ引きでロゼレム8mg(通常の用量)もしくは偽薬を、
毎晩定期的に7日間飲んでもらい、
その間のせん妄の出現の有無を観察しています。

本来は一番厳密な方法は、
患者さんにも主治医にも、
どちらの薬が使用されたのかを知らせない方法ですが、
急性期の患者さんで病状悪化時に、
どちらの薬が使用されたのかが分からないと危険だということで、
現場ではどちらが使用されたのかは分かっていて、
結果を判断する際に、
どちらの薬を使用したかを知らせないで解析する、
という方法を取っています。
完全な盲検試験ではありません。

1126名の患者さんが検討対象となりましたが、
多くの患者さんは条件に合わず、
結果としては67名の患者さんが対象となり、
そのうちの33名がロゼレムを使用され、
34名は偽薬が使用されています。

その結果…
 
偽薬では11名の患者さんがせん妄になったのに対して、
ロゼレムを使用した患者さんでは1名しかせん妄にはなりませんでした。

両群とも脱落の事例があるのですが、
そうした点や、
患者さんのせん妄の関連因子を考慮して計算しても、
ロゼレムは有意にせん妄のリスクを低下させました。
そのオッズ比が0.07ですから、
驚くほどの予防効果です。

ただし…

例数はかなり少なく、
それも1126名を67名に絞っているのですから、
本当に適正なふるい分けがされたのか、
疑問が残ります。
完全な盲検試験でない点も、
やむを得ないこととは言え、
試験の精度を下げています。
このデザインであれば、
もう少し事例が多くないと、
信頼の置ける結果とは言えないのではないでしょうか?

ロゼレムには鎮静作用はあり、
せん妄の1つの要因が、
日内リズムの乱れにあるとすれば、
それを調整することによって、
せん妄が予防された、
という推測は可能です。

しかし、それでここまでクリアな結果が出るでしょうか?

もう少し例数を増やしての検証が必要だと思いますし、
偽薬との比較だけではなく、
他の鎮静作用のある薬剤との比較も、
検証するべきではないかと思います。

ロゼレムというのはちょっと不思議な薬で、
臨床試験の結果などを見ると、
高齢者に使用しても、
翌日の眠気や認知機能低下などの有害事象は、
殆ど生じないことになっているのですが、
実際にはそうした人もいる一方で、
翌日は1日フラフラで動けなかった、
というような訴えをされる方も意外に多く、
どちらかと言えば、
それまでにベンゾジアゼピンなどを常用されている方に、
そうした訴えの多い印象があります。

この薬の効果は、
必ずしもこれまでに分かっている常識とは、
違っている面もあり、
せん妄に対する、
今回のちょっと信じ難いような著明な効果も、
ひょっとしたらこの薬の知られざる側面を、
示すものであるのかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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アポロンⅡ世

はじめて投稿させていただきます。
介護福祉士をやっていますアポロンといいます。
ロゼレムの検証文献興味があります。
わたしの担当の病棟でもロゼレム使用されている方が見えます。単独で使用しているせいかあまり睡眠剤としての効果はないようです。せん妄は見られていないですね。
高齢者(特に認知症)の生活上の問題点として昼夜逆転があげられます。
どうもセロトニン過剰による夜間覚醒の方が多い印象があるので、メラトニンを優位にさせるロゼレムに期待したいところなんのですが…
副作用もあまり心配ないと聞いたのですが、やはり相性というものがあるんでしょうね。
今後もブログ参考にさせていただきます(-。-)y-゜゜゜
by アポロンⅡ世 (2014-02-28 21:51) 

fujiki

アポロンⅡ世さんへ
コメントありがとうございます。
ロゼレムは意外にふらつきなどの副作用は、
多いという印象です。
これからもよろしくお願いします。
by fujiki (2014-03-04 08:19) 

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