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認知症に対するシロスタゾールの効果について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
認知症へのシロスタゾールの効果.jpg
先月のPLOS ONE誌に掲載された、
脳梗塞の再発予防に使用する薬剤の、
認知症に対する効果を検証した論文です。

第一著者は国立循環器病研究センターの、
猪原匡史先生です。

シロスタゾール(商品名プレタールなど)は抗血小板剤、
と呼ばれるタイプの薬です。
血小板というのは、
血を固めるのに不可欠の物質です。
しかし、その機能特に凝集能が、
亢進した状態にあると、
それが身体の動脈が詰まるような病気の、
きっかけとして働くことが分かっています。

つまり脳梗塞や心筋梗塞、足の血管が詰まるような動脈閉塞症の、
発症や再発予防のために、
この薬は開発されたのです。

この薬は日本の開発品です。

血小板の働きを抑える薬には、
アスピリンやチクロピジンなど、
他にも多くの薬剤がありますが、
プレタールには他の薬剤と違う、
幾つかの特徴があります。

シロスタゾールはPDE3 という酵素の阻害剤です。

PGE3 という酵素は、
血小板の中でサイクリックAMP という物質が、
上昇するのを抑える働きをしています。
従って、PDE3が阻害されると、
サイクリックAMP が上昇し、
そのことにより血小板の活性化が抑えられて、
その効果を現すのです。

アスピリンやチクロピジンは、
血小板の他の部分を妨害する薬ですが、
血小板に取り込まれるので、
薬を止めても長くその効果が続いてしまう、
という欠点があります。
それに対してシロスタゾールは血小板には取り込まれないので、
患者さんの内臓の働きが正常であれば、
48時間以内にはその効果は消失します。

また、シロスタゾールは原理的には出血時間を延ばさないので、
血小板の働きは落としますが、
出血を起こすような副作用は、
生じ難いことが確認されています。

PDE3 という酵素は、
血小板以外にも血管の平滑筋に存在しています。
そのため血管でサイクリックAMPが増加すると、
それによって血管が広がります。
また、血管の平滑筋が増殖するのを抑え、
血管の内側の細胞が障害されるのを防ぐ働きがある、
と言われています。

つまり、この薬には血管拡張作用と、
血管を炎症性の障害から、
守る働きのあることが想定されたのです。

ここまでは、良いこと尽くめであることが分かりますね。

この薬は出血が疑われる時には、
中止により速やかにその効果は消滅し、
他の薬のようにその効果が長引くことはありません。
また、原理的にはこうした薬の最も重篤な合併症である、
出血を殆ど起こしません。
また、血管を拡張する作用を同時に持っているため、
血流改善効果を兼ね備えて、
より動脈硬化性の病気の予防や再発阻止に、
効果を挙げることが想定されます。

ただ、問題点もあります。

サイクリックAMP が血液で増えると、
脈拍が増加します。
このことにより、
元に心臓の病気が存在すると、
不整脈や心不全、狭心症の発作などの、
誘因になる可能性が指摘されています。

従って、通常心臓病の患者さんには積極的には使用されず、
足の血管などの閉塞の症状と、
脳梗塞の再発予防が、
この薬の主な使用目的です。

この薬の現時点での評価には国内外でかなりの温度差があります。

国産の薬ということもあって、
国内の専門家のこの薬に対する評価は高く、
アスピリンやチクロピジン、クロピドグレルなどより、
出血のリスクの高い日本人の患者さんには合った薬剤、
という主張がしばしば認められます。
一方で海外においては、
心臓に対する悪影響を重く考えて、
この薬は第一選択にはなっていません。

近年、これも日本において主に報告されているのが、
この薬に認知症の予防効果があるのではないか、
という知見です。

少人数の報告ですが、
認知症の治療薬であるドネペジル(商品名アリセプトなど)との併用により、
認知症の進行が予防された、
というような報告があります。

また、認知症のモデル動物のネズミにおいて、
シロスタゾールがアルツハイマー病の原因の1つである、
βアミロイドという異常蛋白の蓄積を予防した、
というようなデータも存在しています。

今回の研究はカルテのデータを後から解析する方法で、
ドネペジル(商品名アリセプトなど)の単独の使用と、
ドネペジルとシロスタゾールの併用との、
認知症の進行に対する影響を比較したものです。

MMSE(ミニメンタルテスト)という認知症の試験を、
1年以上の間隔を置いて繰り返している患者さんにおいて、
その数値の変化率と薬剤との関連を検討しています。

その結果…

中等症から重症の患者さんの解析では、
ドネペジル単独の51名と、
ドネペジルとシロスタゾールを併用した患者さん35名との間に、
その後の認知症の進行度に、
有意な差は認められませんでした。

軽度の認知症の患者さんの解析では、
ドネペジル単独の36名と、
ドネペジルとシロスタゾールを併用した患者さん34名との比較において、
単独群より併用群の方が、
認知機能の経過がゆるやかな傾向が認められました。

皆さんはこの結果をどのようにお考えになりますか?

報道記事などでは、
シロスタゾールに認知症予防効果のあることが、
この結果をもって証明された、
というニュアンスのものがありましたが、
とてもそこまでの結論が出せるようなデータではありません。

非常に興味深い結果ではありますが、
例数は非常に少ない上、
カルテを後から調べただけのものなので、
これでシロスタゾールに認知症予防効果や進展防止効果があるとは、
現時点では言えないように思います。

研究をされた先生としても、
この結果はまだ1つのステップに過ぎないものだと、
お考えになっているのではないでしょうか?

ただ、シロスタゾールの認知症への使用については、
一般臨床の経験や学会発表レベルのデータでは、
肯定的な意見が多数あります。

僕の知っている事例は、
意欲低下から食事の摂れなくなった認知症の患者さんが、
シロスタゾールの少量での使用により、
意欲低下が改善して食事が摂れるようになった、
というものです。

こうした報告は他にも複数あり、
満更その全てがたまたまとは言い切れません。

シロスタゾールの大規模な臨床試験のデータが、
海外から出る可能性は低く、
シロスタゾールの認知症に対する効果については、
より大人数を対象として、
出来れば盲検法を用いた、
ランダム化比較試験により、
日本発の信頼の出来る結果を、
是非とも出すべきだと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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