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心臓バイパス手術とカテーテル治療の予後について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から意見書など書いて、
それから今PCに向かっています。

今日も雪で非常にブルーです。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
カテーテル治療とバイパス手術のメタ解析.jpg
JAMA Intern Med.誌に昨年12月ウェブ掲載された、
心臓のカテーテル治療とバイパス手術の予後を比較した、
メタ解析の論文です。

この話題は過去にも何度か取り上げたことがあります。

年齢や糖尿病など、
様々な危険因子の集積によって、
心臓を栄養している血管に、
動脈硬化の変化が起こり、
それが進行すると、
その血管の狭窄が生じます。

あるレベル以上狭い場所が出来ると、
通常の状態では、
血液が流れているので、
特に症状はないのですが、
運動をしてより心臓に血液が必要になったり、
ストレスで血管の壁の筋肉が緊張して、
収縮したりすると、
相対的に心臓の筋肉を栄養する血液の量が不足するので、
心臓は酸素不足の状態となり、
「胸が締め付けられるように苦しくなる」
という発作のような症状を起こします。

これが狭心症です。

狭くなった血管に、
最終的に血の塊、すなわち血栓が詰まるか、
不安定なプラークと呼ばれる動脈硬化巣が、
破裂して出血するような事態が起こると、
その場所より先には、
血液が完全に流れなくなるので、
胸の痛みは安静にしていても持続し、
それがある程度の時間以上続けば、
心臓の筋肉は死んでしまいます。

これが心筋梗塞です。

現在では血管が詰り掛かった状態と、
完全に詰まった状態とは、
「急性冠症候群」と言って同一に考えるのが原則で、
そうした状態が確認されれば、
血管の詰まりを阻止し、
血流を改善するための治療が、
行なわれます。
また、急性冠症候群ではないけれど、
それに進展する可能性が高いと判断された場合にも、
それを予防するための治療が行なわれます。

僕はもう20年近く前に、
循環器のトレーニングを受け、
心臓のカテーテル検査を学びましたが、
丁度カテーテル治療が急速に進歩していた時期で、
PTCAと言って、
高圧の風船を膨らませて、
狭くなった血管を広げる技術や、
ステントと呼ばれる網目状の金属の筒を入れる方法、
一種のドリルのようなもので、
血栓を直接削り取るような手法などが、
次々と臨床に導入され、
積極的に活用されていました。

医学の進歩は素晴らしいな、
と思う一方で、
脆い血管にそうした処置をして、
出血を起こしたり、
一旦拡張した血管が再び詰まって、
心臓が停止するようなトラブルも、
しばしばありました。

そうした場合、
カテーテル治療が困難となると、
心臓外科に連絡が行き、
心臓のバイパス手術が、
行なわれるようなケースもありました。

ごく単純に考えれば、
急性冠症候群か、
それに進展する可能性の高い病変の治療には、
原因となっている血管をカテーテル治療で広げるか
(状況によっては血栓を溶かす薬を入れるか)、
詰まった場所をバイパスして、
繋ぐような手術をするか、
そのどちらか、
ということになります。

つまり、内科的な治療と外科的な治療がある訳です。

通常比較的安全に内科的な治療が施行可能で、
その効果が期待出来れば、
まずはカテーテル治療が行なわれます。
しかし、カテーテル治療のリスクが高いか、
カテーテル治療が失敗したような場合には、
心臓バイパス手術が検討されます。

心臓を栄養する血管を、
冠状動脈と言いますが、
これには3本あります。

右と左の冠状動脈があり、
左は更に2本に分かれ、
前下行枝と回旋枝と呼ばれています。

この3本の重要性から言うと、
前下行枝>回旋枝>右冠状動脈ということになり、
1本より2本に狭窄がある方が、
より重症ということになります。

これをたとえば2本の冠状動脈に病変があれば、
2枝病変、
3本にあれば3枝病変のように呼んでいます。

カテーテル治療というのは、
成功すればその血管が広がりますが、
最悪広げることが出来ず、
その血管が詰まってしまうリスクがあります。

この時、
その血管の重要度がより大きければ、
それだけ失敗した場合のリスクも大きくなります。

そのため、
20年近く前には、3本の血管全てに狭い部分のある、
「3枝病変」と、
左の血管の根元に病変のある、
「左主幹部病変」は、
カテーテル治療ではなく、
最初からバイパス手術の適応と、
考えられていました。

ただ…

20年近く前に既に、
左主幹部病変でも担当医の判断により、
カテーテル治療が行なわれていましたし、
その後3枝病変であっても、
その程度が軽ければ、
まずはカテーテル治療、
というような方針も見られるようになります。

カテーテル治療は、
一旦開通したと見えた血管に、
再び血栓が詰まって閉塞したり、
血管が治療による侵襲によって、
閉塞したり、
というような二次的なトラブルが付き物なのですが、
抗凝固剤を添加して、
詰まり難くなったステントや、
簡易的な人工心肺などのバックアップ体勢の進歩により、
そのリスクは、
少なくとも短期的にはかなり改善されました。

従って、以前であれば、
すぐにバイパス手術の適応とされたような病変でも、
まずはカテーテル治療が検討される、
というような流れが生まれ、
今に至っていると思います。

しかし、未解決の問題は、
その治療の差による長期予後がどうか、
ということです。

以前何度か触れたことがありますが、
はっきりとした長期の生命予後の改善効果は、
バイパス手術では認められても、
カテーテル治療では明確には認められていません。

つまり、短期的応急的には、
間違いなく意味のある治療ではありますが、
その治療をした方が、
よりその方の寿命を延ばすことが出来るか、
と言う点については、
カテーテル治療にその明確な根拠はないのです。

ただ、実際には、
軽度の病変でカテーテル治療が有用であると判断されれば、
その病変に対して、
バイパス手術を行なうことはありません。

問題は以前はバイパス手術が適応と考えられていた、
3枝病変や左主幹部病変に対して、
バイパス手術とカテーテル治療の、
どちらがより長期予後を改善するのか、
という点にあります。

これまでに幾つか、
その点を検討したデータがあり、
端的に言えば、
両者に違いはないか、
それともバイパス手術の方が、
より生命予後を改善しているかの、
いずれかの結果になっています。

2007年に発表された、
糖尿病の患者さんにおける研究では、
10年間の観察期間において、
バイパス手術の方が、
カテーテル治療に比べて、
より生命予後を改善している、
という結果でした。

2011年に発表された同様の研究では、
トータルには両者に差はなかったものの、
3枝病変に限ると、
3年間の観察期間において、
バイパス手術の方が、
死亡リスクを絶対リスクで3.2%低下させる、
という結果でした。

以前記事でご紹介したことのある、
2012年4月のNew England…に発表されたデータでは、
アメリカにおいて循環器学会と心臓外科学会の、
両者のデータベースより、
2004年から2008年に掛けて、
心筋梗塞はまだ起こしていない段階で、
心臓の治療を受けた、
65歳以上の患者さんで、
2枝病変か3枝病変の患者さんトータル18万人を解析し、
その生命予後を比較しています。

その結果は、
治療後1年の短期間では、
その生命予後に差はありませんでしたが、
4年間では総死亡率に、
4.4%の差を持って、
バイパス手術群の方が、
死亡率が低い、という結論となりました。

相対リスクの比を取ると、
死亡リスクを21%低下させています。

今回の文献では、
これまでの心臓バイパス手術とカテーテル治療の比較データのうち、
信頼性の高いものをまとめて解析して、
トータルな比較を試みています。
所謂「メタ解析」と呼ばれる方法です。

その結果はこれまで報告を裏付けるものになりました。

これまでの6つのランダム化比較試験という、
信頼性の高い臨床試験をまとめて解析したところ、
2枝病変もしくは3枝病変を持つ、
6055名の患者さんの平均で4.1年の経過観察において、
患者さんの心臓バイパス手術群の死亡リスクは、
カテーテル治療と比較して、
相対リスクで27%有意に低いという結果になっています。

治療後に心筋梗塞を起こすリスクも42%、
再度血管を広げるような治療が必要となるリスクも71%、
それぞれバイパス手術群で低下していました。

バイパス手術群では脳卒中のリスクは、
カテーテル治療に比べて1.36倍と高い傾向にはありましたが、
これは統計的に有意ではありませんでした。

これまでのデータでは、
糖尿病の患者さんでのみ、
予後の差が明確になっている、
というものがありましたが、
今回の解析では糖尿病の患者さんに限定してもそうでなくても、
その傾向に違いは認められませんでした。
更には特殊な薬剤を使用するなどして、詰り難くした、
新しいタイプのステントを用いた場合でも、
心臓バイパス手術の有意性は揺るぎませんでした。

それでは今日のまとめです。

狭心症や心筋梗塞の治療には、
現在ではまずはカテーテル治療が、
選択される場合が多いのですが、
待機的に心臓の血流状態を改善し、
発作を防ぐ治療の選択肢としては、
それ以外にバイパス手術があり、
2枝以上の病変では、
長期の生命予後はバイパス手術の方が優れる、
という複数のデータがあり、
その点もよく考慮した上で、
治療法を選択する必要性があると思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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