喘息の患者さんにおける吸入ステロイドの肺炎リスクについて [医療のトピック]
こんにちは。
六号通り診療所の石原です。
朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
今年のChest誌に掲載された、
喘息の患者さんにおける、
吸入ステロイドの使用と、
肺炎や気道の感染症のリスクの増加との間の、
関連についての論文です。
吸入ステロイドは、
まず気管支喘息の治療薬として導入され、
それから現在では慢性閉塞性肺疾患(COPD)の治療薬としても、
その使用が拡大されています。
その代表はフルチカゾン(商品名フルタイド、合剤のアドエアなど)と、
ブデソニド(商品名パルミコート、合剤のシムビコートなど)、
そしてベクロメタゾン(商品名キュバール)です。
ステロイドには強力な炎症抑制作用があり、
それが気道の炎症を抑えて肺の慢性の病気の改善に、
有用性のある治療薬です。
その一方でステロイドには強力な免疫抑制作用があるので、
その使用により身体は細菌などの感染に弱くなります。
しかし、飲み薬や注射で使用するステロイド剤と比較すると、
吸入ステロイドは用量的には物凄く微量のステロイドを、
吸入により気道だけに効かせるので、
そうした免疫の抑制による感染などのリスクの上昇は、
仮にあるとしても、
その有用性と比較して無視出来るレベルのものだと、
最近まで考えられて来ました。
ところが…
COPDについては、
その考えに疑問を投げ掛ける研究結果が相次いでいます。
先日ご紹介した今年のThorax誌の論文では、
吸入ステロイド全体で重症肺炎のリスクを1.69倍有意に増加させ、
その増加はフルチカゾンの使用で2.01倍と顕著で、
ブデソニドは1.17倍と軽度に留まっていました。
その傾向は複数の別個の疫学データにおいても、
ほぼ同一の傾向を示しています。
つまり、吸入ステロイドによる肺炎のリスクの増加は、
フルチカゾンで明確に認められ、
ブデソニドではごく軽度の増加に留まっています。
ここにおいて残った問題は、
そもそもの吸入ステロイドの適応疾患である、
気管支喘息に関してはどうなのだろうか、
ということです。
一般的に言って、
喘息は気道のアレルギー性の炎症が主体で、
COPDは細菌感染などの関与がより大きい、
という差がありますから、
肺炎を含む気道感染のリスクは、
COPDでより大きい、という推測は可能です。
つまり、理屈から言うと、
COPDと比較して喘息の場合には、
吸入ステロイドによる気道感染のリスク増加などの弊害は、
より小さなものだと考えられるのです。
しかし、実際にはどうなのでしょうか?
今回の研究では、
イギリスのプライマリケアの疫学データを活用して、
18歳から80歳の喘息の患者さんについて、
その吸入ステロイドの使用と、
肺炎などの気道感染症のリスク増加との関連性を、
その使用薬剤毎に検証しています。
その結果…
吸入ステロイドの使用量と比例する形で、
喘息の患者さんにおいても、
肺炎や気管支炎などの下気道感染症の、
発症リスクは増加していました。
1日1000μg以上という高用量の使用においては、
未使用と比較して患者さんの下気道感染症もしくは肺炎のリスクは、
2.04倍に有意に増加していました。
この気道感染のリスクの増加は、
フルチカゾン、ブデソニド、ベクロメタゾンの、
いずれにおいても認められましたが、
COPDの場合と同様、
フルチカゾンにおいて他剤より明確に高い傾向を示しました。
患者さんを気管支拡張症のない40歳未満の方に限定すると、
このリスクの増加はフルチカゾンのみで有意になりました。
これは高齢の喘息の患者さんは、
実際にはCOPDと合併した事例が少なからず存在するので、
その影響を除外しようとしたものです。
つまり、
少なくともフルチカゾンの使用に関しては、
純粋な喘息の患者さんにおいても、
最大で2倍程度の肺炎などの感染リスクの増加が、
存在する可能性が高いと考えられます。
ただ、このリスクの増加は吸入ステロイドの用量に比例するので、
漫然と吸入ステロイドを高用量で使用することは適切ではなく、
その時の患者さんの状態をよく観察しつつ、
その用量を最小限で使用することが、
喘息の患者さんの管理において、
重要なことなのではないかと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
六号通り診療所の石原です。
朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
今年のChest誌に掲載された、
喘息の患者さんにおける、
吸入ステロイドの使用と、
肺炎や気道の感染症のリスクの増加との間の、
関連についての論文です。
吸入ステロイドは、
まず気管支喘息の治療薬として導入され、
それから現在では慢性閉塞性肺疾患(COPD)の治療薬としても、
その使用が拡大されています。
その代表はフルチカゾン(商品名フルタイド、合剤のアドエアなど)と、
ブデソニド(商品名パルミコート、合剤のシムビコートなど)、
そしてベクロメタゾン(商品名キュバール)です。
ステロイドには強力な炎症抑制作用があり、
それが気道の炎症を抑えて肺の慢性の病気の改善に、
有用性のある治療薬です。
その一方でステロイドには強力な免疫抑制作用があるので、
その使用により身体は細菌などの感染に弱くなります。
しかし、飲み薬や注射で使用するステロイド剤と比較すると、
吸入ステロイドは用量的には物凄く微量のステロイドを、
吸入により気道だけに効かせるので、
そうした免疫の抑制による感染などのリスクの上昇は、
仮にあるとしても、
その有用性と比較して無視出来るレベルのものだと、
最近まで考えられて来ました。
ところが…
COPDについては、
その考えに疑問を投げ掛ける研究結果が相次いでいます。
先日ご紹介した今年のThorax誌の論文では、
吸入ステロイド全体で重症肺炎のリスクを1.69倍有意に増加させ、
その増加はフルチカゾンの使用で2.01倍と顕著で、
ブデソニドは1.17倍と軽度に留まっていました。
その傾向は複数の別個の疫学データにおいても、
ほぼ同一の傾向を示しています。
つまり、吸入ステロイドによる肺炎のリスクの増加は、
フルチカゾンで明確に認められ、
ブデソニドではごく軽度の増加に留まっています。
ここにおいて残った問題は、
そもそもの吸入ステロイドの適応疾患である、
気管支喘息に関してはどうなのだろうか、
ということです。
一般的に言って、
喘息は気道のアレルギー性の炎症が主体で、
COPDは細菌感染などの関与がより大きい、
という差がありますから、
肺炎を含む気道感染のリスクは、
COPDでより大きい、という推測は可能です。
つまり、理屈から言うと、
COPDと比較して喘息の場合には、
吸入ステロイドによる気道感染のリスク増加などの弊害は、
より小さなものだと考えられるのです。
しかし、実際にはどうなのでしょうか?
今回の研究では、
イギリスのプライマリケアの疫学データを活用して、
18歳から80歳の喘息の患者さんについて、
その吸入ステロイドの使用と、
肺炎などの気道感染症のリスク増加との関連性を、
その使用薬剤毎に検証しています。
その結果…
吸入ステロイドの使用量と比例する形で、
喘息の患者さんにおいても、
肺炎や気管支炎などの下気道感染症の、
発症リスクは増加していました。
1日1000μg以上という高用量の使用においては、
未使用と比較して患者さんの下気道感染症もしくは肺炎のリスクは、
2.04倍に有意に増加していました。
この気道感染のリスクの増加は、
フルチカゾン、ブデソニド、ベクロメタゾンの、
いずれにおいても認められましたが、
COPDの場合と同様、
フルチカゾンにおいて他剤より明確に高い傾向を示しました。
患者さんを気管支拡張症のない40歳未満の方に限定すると、
このリスクの増加はフルチカゾンのみで有意になりました。
これは高齢の喘息の患者さんは、
実際にはCOPDと合併した事例が少なからず存在するので、
その影響を除外しようとしたものです。
つまり、
少なくともフルチカゾンの使用に関しては、
純粋な喘息の患者さんにおいても、
最大で2倍程度の肺炎などの感染リスクの増加が、
存在する可能性が高いと考えられます。
ただ、このリスクの増加は吸入ステロイドの用量に比例するので、
漫然と吸入ステロイドを高用量で使用することは適切ではなく、
その時の患者さんの状態をよく観察しつつ、
その用量を最小限で使用することが、
喘息の患者さんの管理において、
重要なことなのではないかと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
2013-12-09 08:24
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こんばんわ。
僕は、この夏からアレルギー性鼻炎(寒暖差)のため耳鼻科でフルチカゾンの点鼻薬を使用していますが、点鼻薬も免疫力低下につながるのでしょうか?
by テツ (2013-12-09 19:20)
テツさんへ
通常の用量での使用であれば、
現時点でそうしたことは言われていないと思います。
by fujiki (2013-12-11 08:23)
石原先生、はじめまして!
吸入ステロイドと肺炎リスクの記事にもっと早く出逢っていればと、何度も何度も読み返しては後悔の日々を過ごしております。
喘息になって20数年、吸入ステロイドを高容量で休みなくずっと使ってきて、肺がボロボロになってしまいました。
ここでコメントを書こうと思ったのですが、とても長文になり、他の読者の方々の迷惑になってはいけませんので、お手紙を書きたいのですが、北品川藤クリニック様のご住所で届きますでしょうか。
誠に一方的で勝手ながら、自身の体験を先生に是非お読み頂きたいと思いました。
by みつば (2016-01-23 13:59)