SSブログ

甲状腺腫瘍の観察期間について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
甲状腺良性腫瘍の経過観察.jpg
今年のJ Am Coll Surg誌に掲載された、
甲状腺腫瘍の経過観察のあり方についての論文です。

シンプルな問題ですが、
まだ実際には解決されていない、
現在の甲状腺スクリーニングにも関わる重要な話題です。

甲状腺の超音波検査を行なって、
悪性が否定出来ない性状の、
1センチを超えるしこりが発見されたとします。

この場合、通常しこりに針を刺して、
細胞を吸引して検査をする、
穿刺吸引細胞診が行なわれます。

これで癌の存在が強く疑われる時には、
手術の方針となります。
そして、細胞診の結果として、
悪性の所見が認められない場合には、
経過観察の方針となる訳です。

ここまでは問題はありません。

問題はその後のしこりのフォローアップを、
どのような間隔でどのような期間行なうべきか、
という点にあります。

常識的には半年もしくは1年後に、
再度超音波検査を行なって、
しこりに変化がなければ、
経過観察を継続し、
増大するなどの変化があれば、
細胞診を再度行なうことになります。

こうしたフォローアップを、
一体どのくらいの期間続けるべきでしょうか?

アメリカの現行のガイドラインにおいては、
初回の細胞診で良性と判断されたしこりは、
6から18ヵ月後に超音波などの再検査を行ない、
その時点で何ら変化がなければ、
その後の経過観察はより長い間隔、
たとえば3から5年ごとを検討する、
となっています。
ただし、この経過観察をいつ終了するか、
というような点については、
明確な記載はありません。

今回の文献においては、
長期間の経過観察と、
比較的短期間の経過観察とに、
違いがあるのかに重点をおいて、
この問題をアメリカの単独施設の事例で検討しています。

これは介入試験ではなく、
甲状腺の細胞診をした事例を、
後からまとめて解析している、
後ろ向きの試験です。

1998年から2009年の間に、
848例の患者さんが、
甲状腺の細胞診で良性の判断の結節が見付かり、
そのうち92例は、
患者さんの希望や細胞診以外の所見からの判断から、
手術が施行されています。

経過観察の方針となった646例中、
実際にその後経過観察が実行されているのは、
366例です。
経過観察の方針となった患者さんのうち43%は、
実際にはその後受診をされていません。

これはまあ、ある意味必然で、
日本の専門医療施設でも、
その比率はそう変わらないと思います。

甲状腺にしこりが見付かり、
針を刺すあまり楽しくはない検査をして、
その結果は「良性です」と告げられているのです。
念のため半年後に検査をしましょうね、
と医者に言われても、
「良性ならいいや」と思って、
受診されない方が多いのは、
心理的には分かるのです。

実際に経過観察が施行された366例のうち、
226例は3年未満で経過観察は終了となり、
残りの140例は3年を越える経過観察が行なわれました。

3年以上経過観察が行なわれたグループでは、
当然のことですが、
超音波検査の回数も、
細胞診の回数も、
より多い傾向がありました。

2回目の細胞診が行なわれた26例中、
20例は再検でも矢張り良性の結果で、
3例は濾胞成分を認め、
2例は診断が不能で、
1例のみが再検時に乳頭癌が疑われ、
手術で癌が確定しました。

この事例を含めて2例の癌が、
経過観察中に発見されましたが、
いずれも短期間の観察のグループでした。

つまり、著者らの結論としては、
3年を越える経過観察で、
3年以内に見付からなかった癌が、
発見される可能性は低く、
初回の細胞診で良性と判断され、
その後3年間の観察で、
悪性が疑われる所見のないしこりについては、
その時点で観察を打ち切っても、
問題はないのではないか、
という判断になっています。

正直上記の文献のデータだけで、
そのような結論は早急に過ぎるという気がします。

ただ、良性の可能性の高いしこりに対して、
長期間の検査を積み重ねることは、
過剰診断や過剰診療、過剰な検査に結び付き易く、
何らかの線引きは、
必要になるのではないかと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(41)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 41

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0