妊娠中の甲状腺機能とヨード補充の効果

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。

今年のEuropean Thyroid Journal誌に掲載された、
妊娠中の甲状腺機能についての論文です。

妊娠中の甲状腺機能が、
お子さんの正常な成長の上で、
重要な働きをしていることは、
多くの研究結果から、
明らかになった事実です。

特に妊娠中の母体の甲状腺ホルモンの不足は、
流早産の原因になると共に、
部分的には胎児の発達に影響を与える可能性があります。

その一方で、
妊娠中には甲状腺ホルモンの変動が自然に起こります。

まず着床からまもなくの時期には、
胎盤からのhCGというホルモンが増加するので、
それが甲状腺刺激ホルモンに似た作用を示して、
血液中の甲状腺ホルモンは増加します。
そして、妊娠8から10週を過ぎる当たりで、
hCGの低下と共に、
今度は一時的な甲状腺ホルモン値の低下が起こります。

この一時的な低下は、
妊娠5カ月の手前くらいには、
まだ正常に戻ります。

この時、不思議なことに、
甲状腺ホルモンは低値であるにも関わらず、
甲状腺刺激ホルモン（TSH）は変動を示しません。

この現象が何故起こるのか、
という点についてはまた不明です。
しかし、その一部には、
妊娠中のヨードの必要量の増大と、
その軽度の不足が、
影響しているという説があります。
（一般に書かれているヨウ素とヨードは同じです。
僕はヨウ素という言い方が嫌いなので、
ヨードと常に記載しています）

今回の研究においては、
フランスにおいて111名の甲状腺機能が正常の妊婦を、
2つのグループに分け、
一方には1日150マイクログラムのヨードのサプリメントを使用し、
もう一方には何も使用しないで、
その後の妊娠中の甲状腺機能の経過を観察しています。

使用前のおしっこのヨードは、
100μg/L程度で、
サプリメントを使用すると、
これが平均で161μg/L程度に増加しますが、
サプリメント未使用の妊婦では、
妊娠後半の時期には平均で76μg/L程度にまで低下していました。

これはおさらいになりますが、
おしっこで測定されるヨードの量は、
概ね摂取されたヨードの量を反映しています。
1日に必要なヨードの量は、
150マイクログラム程度ですから、
1日1.5リットルのおしっこが出るとすれば、
100μg/Lより多くが計測されれば、
まあ酷い欠乏はない、ということが言えます。
しかし、妊娠中にはその必要量は増加します。

つまり、
妊娠中には胎児の甲状腺のためにも、
ヨードが必要となるので、
ヨードの摂取量をやや多くしないと、
その不足が起こり易い状態になっている、
ということは言えそうです。

しかし、
その間の甲状腺ホルモンの推移を見てみると、
サプリメントを使用していてもいなくても、
矢張り同じように、
一時的な甲状腺ホルモンの低下は起こっていて、
TSHの増加も見られていません。

従って、
ヨードの不足が危惧されるケースで、
ヨードの150マイクログラム程度の補充を行なうことは、
甲状腺ホルモンの欠乏のリスクを回避する上で、
一定の意味がありそうですが、
そうしたヨードの収支とは別個に、
妊娠中の一時的な甲状腺ホルモンの低下は起こっていて、
TSHの上昇を伴わないこととも併せて考えると、
必ずしも甲状腺ホルモンの不足を反映しているとは、
言えないようです。

最近日本でもおしっこのヨードの測定が、
簡便に出来るようになりました。

診療所でも計測を行なっていますが、
平均は意外に少なくて、
100から150μg/Lくらいになっています。

日本人は食生活で大量のヨードを摂っているので、
ヨードの過剰のリスクはあっても、
ヨード欠乏のリスクは考える必要がない、
という趣旨のことがよく言われていて、
確かに20年くらい前までのデータでは、
そうした結果が出ているのですが、
最近の食生活の状況では、
必ずしもそうではなく、
日本人でも妊娠中のヨード不足は、
充分起こり得ると思います。

特に橋本病など、
甲状腺のご病気をお持ちでご妊娠をされる方は、
一度はおしっこのヨードを測定して、
その数値に合わせて対応を考えた方が、
安全なように思います。

今日は妊娠中の甲状腺機能についての話でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。