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ブルーライトは本当に危険なのか? [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

ブルーライト問題というのが、
一般にもかなり知られるようになりました。

ブルーライトというのは、
波長が400~500nmという、
比較的低波長の光のことで、
これが目で見ると青から紫として理解されます。
より低波長で見えない領域の光が、
紫外線です。

光が色として見えるのは、
その特定の波長の光を受け止める、
一種の光受容体があるからです。
これを視細胞と呼んでいます。

太陽からの白色光は、
皆さんご存じのように、
プリズムで7色の光に分かれます。

光というのは、物を見る働きばかりでなく、
体内時計を正常に保つために、
大きな役割を果たしています。

昼に充分な光を目から取り入れることが、
夜の健康な睡眠に結び付くのです。

しかし、このように人間の暮らしに欠くことの出来ない光ですが、
その一方で光には網膜の細胞に対する毒性があります。
太陽をそのまま見ると目に悪いということは、
実感として誰でも感じることです。
太陽光でなくとも、
強い光は眩しいと感じて目を閉じます。
これは強い光刺激から、
目を守るために反射的に行なわれていることで、
これは裏を返せば、
強い光は目に障害を与える、
ということを示しています。

ただ、青い光も特別なものではなく、
太陽光を構成する1つの成分に過ぎません。

それでは何故青い光だけが、
問題があると考えられるようになったのでしょうか?

それには幾つかの理由があります。

まず、白内障の手術後に、
黄斑部変性症という病気が、
増えているのではないか、
という知見が1980年代から注目されるようになりました。

光が受容されるのは網膜の視細胞ですが、
その前にあるのが水晶体(レンズ)です。

水晶体が濁って物が見えづらくなる病気が白内障で、
その治療のために、
濁ったレンズの代わりに、
人工の眼内レンズを挿入するような手術が、
行なわれています。

特にご高齢の方では、
非常に一般的な手術です。

ところが…

その後白内障の手術後に、
網膜が障害されて視力が低下する、
黄斑部変性症という病気が増加するのでは、
という危惧が指摘されるようになりました。

こちらをご覧下さい。
ブルーライトによる網膜障害総説.jpg
これは2006年のActa Ophthalmologica Scandinavica誌に載った、
加齢性黄斑部変性症と、
ブルーライトとの関連についての総説です。

以下、ここにある記述をベースにして、
解説したいと思います。

初期の眼内レンズは、
全ての波長の光を同じように透過する性質のものでした。
要するに通常のガラスと同じです。

しかし、
人間が生来持っている水晶体は、
元々短波長の青や紫の光を、
一定量吸収してカットするように出来ています。
特に加齢に伴って、
水晶体は黄色味を帯び、
補色である青い光の透過率はより低下します。

この水晶体を摘出したり眼内レンズに変更すると、
通常より低波長の青い光が、
より多く目の中に侵入します。
青い光は可視光線の中では、
より毒性が高いという、
動物実験のデータがあるのです。

ただ、幾つかの疫学データが発表されていますが、
手術後の黄斑部変性症が数倍増加した、
という結果のものがある一方で、
最近の報告では関連が見られない、
という報告も複数存在します。

つまり、この点については、
必ずしも明確な結論が得られてはいません。

その後青い光をよりブロックするような、
人工の眼内レンズが開発され、
現在では広くそうしたレンズが使用されるようになりました。

ただ、これも青い光をブロックするレンズの方が、
そうでないレンズより、
明らかにその後の黄斑部変性症を減らした、
というようなデータはありません。

従って、この問題はまだグレーゾーンです。

最近このブルーライトの問題が大きく取り上げれている理由は、
急速に普及しているLED照明のためです。

LED照明はそれまでの蛍光灯や白熱球の照明に比較すると、
格段に電気の使用量が節約され、
熱も発することが少なくて、照明自体も非常に長持ちするなど、
多くの利点があるため急速に普及しています。

しかし、その光の性質には、
これまでの照明とは大きな違いがあります。

こちらをご覧下さい。
ライトのスペクトルの違い.jpg
これは日本におけるブルーライト問題の、
旗振り役の専門家の1人である、
慶應大学眼科教授の坪田一男先生の書かれたエッセイから、
引用させて頂いたものです。

ご覧頂くとお分かりのように、
太陽光や古いタイプの照明の光と比較して、
LED照明はより青い光が強い性質を持っている、
ということが分かります。

パソコンや携帯などのLED照明の画面を、
非常に長期間注視することが続くと、
これまでなく強い青い光に、
人間の目が晒される事態になります。

この状態が長くと、
果たして何が起こるでしょうか?

ブルーライトの影響を危惧する専門家は、
概ね3つの可能性を指摘しています。

その1つ目は先に書いたように、
網膜の障害による黄斑部変性症の発症で、
2つ目は昼のリズムの作成に欠かせないブルーライトが、
夜間に強く浴びせられることによる、
体内時計の乱れです。
そして3つ目は散乱し易い光であるブルーライトにより、
目の調節機能が疲弊することです。

ただ、これは全て仮説に過ぎず、
それを実際に人間で証明したようなデータはありません。

問題は人間の水晶体には、
元々ブルーライトをカットするような仕組みがあり、
通常は別に特別な対応をしなくても、
それで充分ではないか、
と思われることです。

しかし、
その対応力を、
現状のブルーライトへの現代人の暴露が、
超えていないと断言することも出来ず、
このため企業はこぞって、
ブルーライトを一定レベルカットするメガネを開発し、
既に市販されています。

前述の坪田先生などが中心となって、
ブルーライト研究会という勉強会も立ち上げられています。

そこにリンクされている文献は、
一応全部目を通して、
上記の文献もその1つですが、
矢張りあまり現時点で、
人間への影響は明確に証明されたものはないようです。

ただ、そうは言っても、
その可能性がある以上、
予防的に今からブルーライトをカットするメガネで予防することは、
決して誤りとも言えません。

それでは今日のまとめです。

現在盛んに使用されているLED照明は、
通常より強い低波長の所謂ブルーライトを多く含んでいるため、
睡眠障害や眼精疲労、将来の黄斑部変性症の、
リスクを増加させる可能性が、
一部の専門家から指摘されています。

ただ、これは動物実験で、
通常には有り得ない強力なライトを浴びせた場合以外では、
実証はされていない事項です。

人間の水晶体には、
ブルーライトを一定レベルカットする能力があり、
水晶体をブルーライトをカットしない人工のレンズに交換しても、
明確に黄斑部変性症が増えた、
という確証はありません。

確かに白内障の手術後に、
黄斑部変性症が増加したとする、
疫学データは幾つかありますが、
相反する結論のものもあり、
あくまでそれは手術後に限定された知見で、
たとえば今若い年齢の方が、
ブルーライトを浴びることで、
将来的に黄斑部変性症のリスクが増加するかどうか、
というような点は全くデータはありません。

従って、現時点でそうした根拠はないことを理解した上で、
ブルーライト防御のためのメガネなどは使用する必要があります。
現時点では、
多分にその使用の推奨は、
企業の利益追求目的の側面があるからです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 6

cota

はじめまして。
観劇好きの生化学者、cotaです。
いつも楽しく拝読しています。
今日の記事で一つ質問なのですが、
「光の毒性」というのは
エネルギーとは違う問題でしょうか?
可視光の中では青が一番エネルギーが
強いので、「青が危険」と主張する人が
いるのは分かる気がします。
グラフでピークにある450nmだと、
日焼けをおこす紫外線(300nm)の
三分の二程度のエネルギーということに
なります。
ただ、エネルギーは水みたいに貯まって
行くものでないので、「1.5倍浴びれば
紫外線同等の危険性」と単純に論じられる
ものではありませんが。

エネルギーの問題でなく単純に青が
悪いという話なら、原因物質の絞り込みは
然程困難でないような気がします。
ヤマ勘ですが。

by cota (2013-10-15 13:25) 

fujiki

cota さんへ
コメントありがとうございます。
光毒性の1つは、ご指摘のように、青色のエネルギー量の違いによります。
ただ、もう1つ網膜の光感受性物質である、
レチナールとリポフスチンが、
青から紫外線の波長に、
その吸収出来る光のピークがあり、
それが組織のアポトーシスに結び付く、
という知見も同時にあるようです。
by fujiki (2013-10-15 23:22) 

人力

従来の蛍光灯(低圧水銀灯)は255nmの紫外線発光を蛍光体で可視光に変換しています。近年家庭で使用される蛍光灯は青緑赤の三つの極めて狭い波長を強く出す蛍光体が使用されます。

現在の白色LEDは青色の光で励起される蛍光体で緑や赤などの波長の光を作りだしています。

上の蛍光灯の分光分布のグラフは、意図的では無いにせよ255nmの紫外線がレンジから外れています。さらに縦軸のレンジが記入されていませんが、輝線発光(極めて狭い周波数幅での発光)の蛍光灯のエネルギー値は、同一レンジで比較すればLEDの何倍かになるはずです。この手のグラフの縦軸は比エネルギー(%)なので、ピーク波長を100として表現され、他の光源とのエネルギー量の比較が出来ません。本来ならば、同一光束か、測定点の照度を同一にした状態でのエネルギー値(EV)の直接比較が適当です。

グラフの面積がエネルギー値となるので、波長域の狭い蛍光体で同一の光量を確保する為には単一の波長の発光強度が高くなります。

水晶体や網膜タンパク質の変質を注目するならば、蛍光灯の紫外線の方が影響が大きく、さらに、色温度(光の色味)が同じであるならば蛍光灯もLEDも同程度の青色光を含んでいるので、LEDの青色光をブルーハザードなどと呼んで特別視するのはナンセンスの極みかも知れません。むしろ狭い波長域にエネルギーが集中する蛍光灯の方が危険度は高いと思われます。

自然光のエネルギーの強さに比べれば、スマホやPCのモニターから受ける青色光の量は実に微々たるものです。

ただ、人間の体内時計は目から入る光によってリセットされており、夜中にあまり輝度の高いPC画面などを長時間見ていると、体内時計のリズムが崩れる可能性は否定出来ません。これはTVも同様です。

白内障の増加は、眼を構成する組織の材料的限界以上に人間の寿命が延びてしまったことに起因します。若い時から人々の水晶体の組織は紫外線で破壊され、タンパク質がコアギュレートしますが、年齢と共にそれが拡大して行きます。そして、透明度を失い白く濁って見えるのが白内障です。透明なプラスチックを屋外に長時間放置すると透明度を失って白くなるのと、何ら変らない現象です。

LEDの青色光の心配する位ならば、真夏の外出でサングラスを掛ける心がけをする方が白内障予防の為にも有用かと・・・。青色光への対策は、1(mSv/年)の被曝を心配しながら、真夏の海辺で日焼けに勤しむ行為に似ています。

あんまり書くと研究者に怒られちゃいますね・・・。
by 人力 (2013-10-16 04:20) 

fujiki

人力さんへ
貴重な情報ありがとうございます。
僕はブルーライトは胡散臭いと思っているので、
それが裏打ちされる情報があり、
より納得した思いがあります。
夜はパソコンを開かないのが賢明と思いますが、
なかなか現実には難しいですね。
これからもよろしくお願いします。
by fujiki (2013-10-16 08:17) 

わたらせ

初めまして!
ブルーライトで検索して来ました。
不眠でってブログで書いたら
それはブルーライトが原因では?っと
ブルーライトのことは以前から聞いてましたが
相当懐疑的視点で見てました。
PCやスマホだけ取り上げ
TV及び最近流行りのLED照明には触れていないからです!
この記事を見ても絶対的データが無いようで…
何か裏があるような気がしてなりません(笑)
ただの通りすがりのコメントだと受け流しても構いません
よろしければ私のブログに
URLを貼ってもよろしいでしょうか?
また遊びに来たいと思います!
by わたらせ (2013-10-20 18:57) 

fujiki

わたらせさんへ
コメントありがとうございます。
リンクはして頂いても構いません。
ブルーライトの話は、
現時点では多分に関連企業の宣伝の意味合いがあると思います。
ただ、嘘という訳ではなく、
そのリスクの判断はまだこれからの話だと思います。
by fujiki (2013-10-20 19:48) 

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