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蜷川幸雄演出版「唐版滝の白糸」 [演劇]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は祝日で診療所は休診です。

朝からいつものように、
駒沢公園まで走りに行って、
これから在宅診療に出掛ける予定です。

休みの日は趣味の話題です。

今日はこちら。
唐版滝の白糸.jpg
1975年に初演された、
唐先生の旧作を、
蜷川幸雄が演出した再演の舞台が、
渋谷のシアターコクーンで上演中です。

初演は李礼仙と沢田研二のコンビで、
再演のヒロインは松坂慶子、
再再演では冨司純子が演じました。

僕はこの富司純子版のみ観ています。

1時間50分ほどの1幕劇ですが、
登場人物も少ない割には、
結構難解な作品で、
僕は前回の上演の際にも、
あまりしっくり来ませんでしたし、
今回は前回より優れた上演だったと思いますが、
それでも何かしっくりと来ない、
モヤモヤする気分は消えませんでした。

以下ネタばれがあります。

アリダという青年が銀メガネという謎の中年男と、
会話をするところから物語は始まります。

アリダには兄がいて、
お甲という水商売の女と心中を図って、
兄は死んでお甲だけが助かります。
お甲は女子プロレスの興行のためのお金を、
弟のアリダにせびり、
アリダはその金を持って、
お甲の住む長屋を訪ねるのですが、
そこで10年前にアリダを誘拐した、
銀メガネに出会い、
言いくるめられてお金を盗られてしまいます。

お甲はその金のために、
滝の白糸の水芸を見せますが、
長屋を壊しに来た工事人夫に邪魔され、
手首を切って、
その血で水芸を見せようとします。

戯曲では長屋の流しがその時に宙を飛ぶ、
という非現実的なト書きと共に幕が下ります。

兄弟が一方の身代わりをする、
というのは唐先生の芝居に良く出て来る趣向で、
時にはそれが姉と弟だったりもします。
アリダというのは途中で兄の名前であることが明らかになり、
後半では弟の姿が兄のように見えるので、
兄の幽霊が現れて、
未遂であった心中が、
ラストに完結されるようにも思えます。
うがった見方かも知れませんが、
10年前の誘拐の際に、
実際は弟は殺されていたのかも知れません。

時に兄でもあり弟でもある、
そうした幽霊が、
お甲を死の世界に誘いに来た、
という物語のようにも読めるのです。

蜷川幸雄のこの作品の演出は、
基本ラインは初演から変わっていないようです。

リアリズムで緻密に造られた長屋のセットが舞台を覆い
(美術は初演以来一貫して朝倉摂)、
お甲の登場は、
戯曲では持ち込まれた箪笥の中からですが、
蜷川演出では、
開かれた箪笥の中には何もなく、
一瞬暗転すると、
次の瞬間には深紅のスポットに照らされて、
箪笥の上に忽然とお甲が姿を現わします。
イリュージョン的で鮮やかな登場です。

工事人夫が出現する場面は、
とても工事人夫とは思えないような、
様式的な身振りが付けられています。

お甲が水芸を披露するという場面では、
これも一瞬暗転すると、
忽然と水芸のセットが現れます。

ラストではお甲が手首を切った瞬間に、
猛烈な血飛沫が
階下にいるアリダの全身に降り掛かり、
白いシャツが真っ赤に染められると、
クレーンに載ったお甲の姿が宙を舞います。
同時にワーグナーの「ワルキューレの騎行」が流れ、
更にはそこに爆撃などの戦場の効果音がダブります。

ただ、どうも仰々しい演出と、
作品の世界は乖離しているように思います。

お甲の登場が奇術的過ぎると、
何かお甲の方が超自然的な存在のように思えますから、
作品の意味合いが変わってしまいます。

水芸のセットが急に出現するのは、
どう考えても不自然で、
これはそれまで廃屋のように見えていた世界が、
原色の世界に、
そのまま変化するのでないと、
意味がないように思うのです。

工事人夫の出現も、
工事が開始されたように見えないと、
意味がないように思います。

ラストはスペクタクルというよりは、
死と生の世界が、
一瞬触れ合ったところに出現する幻想なので、
もっと詩情豊かに描かれるべきではないでしょうか?

キャストはお甲の大空祐飛は悪くないと思いますが、
芝居が基本的に単色なので、
台詞が逸脱の多い点と、
やや合っていないように思いました。
アリダの窪田正孝は最初の印象はこれも悪くないのですが、
後半は戸惑いながらやっているような感じです。
銀メガネの平幹二郎はさすがの貫録で、
長大な台詞にゆるぎのないのは感心しましたが、
もう少し若い役だと思います。

蜷川幸雄としては、
おそらく初演からの思いを、
大切にしたい、
という主義なのだと思いますから、
変えるという選択肢はないのだと思いますが、
来月には唐ゼミの公演もあるので、
この戯曲の新たな側面を、
期待して待ちたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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