SSブログ

仮説に基づく医療をどう考えるか? [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談に廻る予定です。
外はあまり雨はありませんが、
台風接近中で酷い風です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
ブルーライトのリスクの解説.jpg
昨日と同じブルーライト関連の解説記事で、
2011年のOphthalmology誌に掲載されたものです。

内容は昨日と被りますが、
ブルーライトが目に悪いという見解が広まるにつれ、
ブルーライトをブロックする眼内レンズが、
白内障の手術後に使用されるようになりました。
人間の持っているレンズ(水晶体)には、
一定レベルブルーライトを吸収して減弱させる働きがありますが、
古いタイプの眼内レンズでは、
全ての波長の光を、
同じように透過してしまうからです。

しかし、
白内障の手術の主な対象者である高齢者においては、
光感知物質の減少などの網膜の老化に伴い、
青や紫の光が、実際には受容し難くなるため、
物をしっかりと見たり、しっかり睡眠を取るために、
より強いブルーライトが必要となるのです。

白内障の手術後に、
ブルーライトがより強く入ることによって、
黄斑部変性症が起こり易くなる、
という可能性自体は確かにあるのですが、
それは明確に証明されたものではなく、
ブルーライトをブロックするレンズを使用すると、
却って物が見えづらくなって、
せっかくの手術の効果が、
減弱する可能性もあり、
どの程度ブルーライトをカットすることが適切であるのかが、
今後の課題であるとの内容です。

今日はただその内容よりも、
題名にあるHypothesis-Based Medical Practiceという概念に、
興味が湧いたのでその辺りの話を、
少ししたいと思います。

Hypothesis-Based Medical Practiceというのは、
仮説に基づく医療、というくらいの意味で、
Evidence-Based Medical Practice(根拠に基づく医療)に、
対比されている言葉です。

医療行為には当然根拠が必要です。

しかし、その根拠が多くの臨床試験や疫学データにより確立されるには、
多くの時間が必要です。

そして、医療というものの性質上、
根拠の蓄積を待ってから、
治療や予防的な介入をしたのでは、
今実際にいる患者さんの役には立たない、
という現実があります。

ここにおいて、
まだ仮説のレベルの知見しかなく、
その効果や有用性も仮定の域に留まるものだけれども、
その仮説を信じて、
まずは実際に診療に活用してみる、
という考え方も存在します。

皆さんも何となくお感じになるように、
現実には根拠に基づく医療と同じくらい、
仮説に基づく医療も行なわれているのです。

ただ、仮説に基づく医療は、
仮にその仮定が誤りであった時、
その影響によって、
明確なリスクが想定される場合には、
あまり行なわれることはありません。

従って、多くの仮説に基づく医療は、
予防的な介入として、
行なわれることが多いのです。

ブルーライトによる目の障害の予防というのも、
こうした仮説に基づく医療の1つです。

旗振り役のお1人のT先生の文章を読んでも、
さすがに巧みに書かれていて、
何となく読み飛ばすと、
ブルーライトにより目が障害されることは、
もう間違いのない事実であるように思ってしまうのですが、
よくよく読んでみると、
「まだ検証はこれからの課題である」
というような補足が付いています。
それでいて先生ご自身が、
「夜はパソコンを開かず、
ブルーライトをカットする○○社製のメガネを掛けている」
などと書かれているので、
ああ、私も早くそれを買って予防しなくちゃ、
という気分にさせてくれるのです。

僕が言いたいことは、
予防を含めて医療的な介入というものには、
「根拠に基づく医療」と、
「仮説に基づく医療」と、
「単なる思い付きや脳内妄想に基づく医療」とがあって、
「単なる思い付き…」は論外ですが、
必ずしも「根拠に基づく医療」がより良いものとは言い切れません。
どちらかと言えば、
今生きている皆さんの役に立つ知見は、
その多くが「仮説に基づく医療」かも知れません。

従って、
その内容を理解した上で、
「仮説に基づく医療」を、選択することは、
誤りではないと思いますが、
そこには常にリスクがあるということを、
良く理解した上で行なう必要があると思いますし、
医療者はそうした違いをよく説明した上で、
医療的な介入を行なうべきではないかと思うのです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(42)  コメント(8)  トラックバック(0) 

nice! 42

コメント 8

虹

興味深い内容ありがとうございます。高齢者ではありませんが強度近視で50歳で白内障手術をしました。ブルーライトは眼内レンズを通り越して網膜まで届きよくないという情報をどこかで得てPC眼鏡を買いましたが、最近の眼内レンズはUV加工してありブルーライトもカットできるようならば、そんなに恐れることでもないのかな、とも思いました。これからも色んな情報を楽しみにしています。
by 虹 (2013-10-16 10:13) 

大川

石原先生、ちょっと話題が変わりますが、仮説ということで、うかがいたいことがあります。
むかし放射線のダメージはDNA損傷だと教わったのですが、いまではそれ以外の影響もあるということで論文を紹介されたのですが、難しくてなかなか理解できません。
ご多忙のところ本当に申し訳ないのですが、もしお時間が許せばいつでも結構ですので、リンクの論文の内容をごく簡単で結構ですので解説いただけませんでしょうか…。。
不躾なお願いしまして申し訳ありません。
by 大川 (2013-10-16 15:59) 

くじ子

仮説医療の言い分??
おはようございます。

私自身は、一昔前で言えば、網膜変性症患者向けの遮光眼鏡を眼炎症疾患悪化防止の為に、公的助成外で自主購入して使用しております。(眼科専門医の勧め)

一方、先生の今回の論点は、「仮説に基づく医療」と「根拠に基づく医療」の問題と認識し、あえて、青色波長遮光レンズの是非については、スルー。

ちょっと、海外のサイトも検索してみたのですが、「仮説に基づく医療」の言い訳として、「倫理的に人体での実験が行えない」という説もあることにも「う~ん、なるほどなぁ~。」と納得もしてしまいました。

ところで、老婆心なのですが、Ophthalmology誌の1頁全部をこのブログで公開するのは、石原先生、著作権法の関係で大丈夫なのかと心配しています。余計なおせっかいでしたら、心からお詫び申し上げます。
by くじ子 (2013-10-17 04:25) 

fujiki

虹さんへ
コメントありがとうございます。
青色光をどの程度カットするべきかは、
まだ解決されていない問題のようです。
これからもよろしくお願いします。
by fujiki (2013-10-17 08:26) 

fujiki

大川さんへ
どの文献のことでしょうか?
教えて頂けますか?
by fujiki (2013-10-17 08:26) 

fujiki

くじ子さんへ
コメントありがとうございます。
全文ではありませんし、
実際には字は小さくて画像で読むことは困難なので、
著作権者の方にも、
寛容に見て頂けるのではないか、
と思っているのですが、
半ページ程度でカットするなど、
より気を付けます。
ただ、本来こうした情報はオープンであるべきで、
ダウンロード料金が発生するのは、
良いことではないように思います。
by fujiki (2013-10-17 08:32) 

Shingo

はじめまして。
初めてコメントさせて頂きます。
私は、幼少よりアトピーがありステロイドをずっと使っておりました。その副作用か分かりませんが、左目は高校2年生のとき、右目は26歳の時に白内障になり手術しております。

今年で31歳なので左目の手術は14年程前です。
左・右で手術を行った眼科も違うので眼内レンズの質も違うでしょうね。ブルーライトなどの説明は一切受けませんでしたしw

老年化してくると青い光は感知しにくくなるとのことでしたので、若いうちはブルーライトはカットしておいたほうが良さそうですね。
最近はブルーライトをカットするアプリもあるようなので、使ってみようと思います。
いつも情報ありがとうございます!
by Shingo (2013-10-19 13:28) 

fujiki

Shingo さんへ
コメントありがとうございます。
どういうレンズが入っているのか、
主治医の先生にお聞きになってみるとのが、
良いかも知れません。
それほど神経質になり過ぎる必要はないと思いますが、
ブルーライト対策は、
少し取っておいた方が安心かも知れません。
by fujiki (2013-10-20 11:08) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0