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アルコールと脳卒中との関連について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
アルコールと脳卒中中年女性.jpg
今年のPreventive Medicine誌に掲載された、
中年女性の飲酒量と、
脳卒中や心筋梗塞のリスクとの関連を検証した、
日本人の大規模疫学データの論文です。

これはほぼ同じデータの男性版が、
2004年のStroke誌に載っています。
それがこちら。
アルコールと脳卒中中年男性.jpg

いずれも先日ご紹介した、
厚生労働省研究班「多目的コホート研究(JPHC研究)」を、
解析した結果をまとめたものです。

これは全体で8万人を超え、
男女とも4万人を超える大規模なもので、
日本人の疫学研究としては、
最も対象者の多いものです。

ただ、個別の解析による論文が、
毎年めったやたらと出ているので、
この研究から分かることの全体像をつかむことは、
なかなか困難です。

研究者側からすれば、
小出しに論文化した方が、
実績をそれだけ多く出来るので、
研究費の獲得の面でもメリットがあるため、
そうなっているのですが、
アルコールの脳卒中や心筋梗塞に与える影響についても、
先日ご紹介した「休肝日」についての論文もありますし、
上記の2つの論文もあって、
それ以外にも複数あるので、
なかなか整理をつけることが難しいのです。

まず2004年の男性の報告から見てみましょう。
これによると、たまにしかアルコールを飲まない人と比較して、
週に450グラム以上飲むヘビードリンカーでは、
脳卒中全体のリスクを有意に68%増加させていました。
脳卒中の種別では、
出血性梗塞が高血圧などの影響を補正しても、
相対リスクで2.15倍と最も明確な増加を示し、
脳内出血も2.07倍と増加を示しました。
一方で虚血性の梗塞やラクナ梗塞では、
アルコールによるリスクの増加は認めませんでした。
そしてこのリスクの増加は、
週に150グラム未満のアルコールの摂取では、
認められませんでした。

週に150グラムというのは、
概ね日本酒で毎日1合に相当し、
週に450グラムは、毎日日本酒3合に相当します。

つまり、この結果は、
1日換算で1合未満の飲酒では脳卒中のリスクは増えず、
それを越えて、特に毎日3合を越える飲酒において、
脳卒中、それも出血を伴う卒中の危険性が高まる、
という結果になっています。

次に2013年の女性の文献ですが、
こちらでは週に300グラム以上のアルコールの摂取において、
トータルな脳卒中のリスクが、
たまにしか飲酒をしない場合と比較して、
2.19倍に有意に増加し、
出血性梗塞が2.25倍、脳内出血が2.24倍、
クモ膜下出血が2.26倍、虚血性梗塞が2.04倍と、
それぞれ個別にも増加しています。
このリスクの上昇は矢張り、
週に150グラム未満のアルコール摂取では、
認められていません。
更には心筋梗塞などの虚血性心疾患のリスクは、
アルコールの多飲者でも、
有意な増加は認められませんでした。

女性の場合は今年の文献なので、
平均16.7年の観察期間ですが、
男性の文献では11.0年の観察期間です。

これは女性では男性より多量の飲酒者は少なく、
脳卒中の発症自体も少ないので、
11年程度の観察期間では、
有意な差は付かなかったのだと思われます。

男女が分けて解析されているのは、
その点に主な理由があります。

ただ、充分な観察期間が取られてみると、
そのリスクの上昇の程度は、
ほぼ性差なく同一であることが分かります。

男性の文献では出血性の梗塞以外は、
あまり有意な差が付いていませんが、
より長期の観察期間で解析すれば、
また別個の結果になる可能性があります。

総死亡のリスクについては、
アルコール量が少ない場合には、
むしろお酒を飲む人の方がリスクが少なく、
ある地点からアルコール量が多いほど、
死亡リスクも上昇に転じます。

この点は国内データも海外データも同じなのですが、
どの程度の飲酒量からがリスクが高くなるのかについては、
データによっても異動があります。

日本人のデータをベースに考えると、
概ね1日1合平均までの飲酒は、
健康にメリットのある可能性が高く
(ただし、肝障害など、ご病気のある場合はまた別です)、
それを越える飲酒、特に1日平均3合を越える飲酒では
(女性は2合で同様のリスクになる可能性もあり)、
脳卒中のリスクは男女とも2倍を越えて増加します。
特に増加するのは出血性梗塞と脳内出血で、
これは高血圧の影響を考慮しても、
2倍を超える増加をしています。
ただ、心筋梗塞などの心臓病に関しては、
アルコールとリスクとの間に、
明確な関連性は見られません。

概ねこれが、現状の日本人の疫学データから、
ほぼ判明している事実で、
海外の同種のデータとも、
ほぼ整合性のあるものなので、
信頼度の高いものだと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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