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新しい薬剤機能の分析法について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
熱シフトアッセイの文献.jpg
今年のScience誌に掲載された、
新しい薬の働きの解析法についての文献です。

新薬の開発には莫大な費用が掛かります。

その一方で、実際に使用されている薬品であっても、
人間の身体に入った時に、
どのような作用をもたらすのかについては、
不明の点が多くあるのが通例です。

多くの薬というのは、
体内に入って、
細胞の中にせよ外にせよ、
体内にある蛋白質に結合して、
その作用を現わします。

たとえば酵素の阻害剤であれば、
その酵素に結合することで、
その効果が起こります。

一方で薬の副作用というのは、
本来予測された物以外の蛋白質に、
薬剤が結合してしまうことにより、
起こることが多いのです。

このように考えてみると、
薬が人間の体内で、
どのような蛋白質とどの程度特異的に結合するのか、
という分析が、
薬の効果と安全性とを考える上で、
非常に重要なポイントだということが分かります。

しかし、
これまで実際の生体に近い環境で、
簡便に薬剤と蛋白質との結合を測定する、
というような方法は存在しませんでした。

今回の文献においては、
サーマル・シフト・アッセイ(Thermal Shift Assay)という手法を用いて、
細胞内や組織における薬剤と蛋白との結合の仕方を、
簡便に計測する方法が提示され、
検証されています。

サーマル・シフト・アッセイ
(熱シフトアッセイなどと訳されることもあります)
とはどのような方法なのでしょうか?

こちらをご覧下さい。
熱シフトアッセイの図.jpg
これはNew England…に載った解説記事にある図です。

蛋白質というのは、
アミノ酸の結合した鎖が、
複雑に折り畳まれて、
特定の立体構造をなしています。

しかし、熱が加わると、
蛋白の変性が起こります。

この時、折り畳まれた蛋白は、その立体構造が崩れ、
1本の鎖のようになってしまいます。

何度くらいの熱が掛かると、
特定の蛋白質のうち、
どのくらいの比率で変性が起こるのか、
というデータを測定してグラフにすると、
上に図示されたような曲線が得られます。

蛋白質はウェスタンブロットという方法で測定します。

さて、薬がその蛋白質と結合すると、
この曲線がより高温側に移動します。
上の図で曲線が右にずれているのがその変化です。

これがサーマル・シフト(熱シフト)です。

薬と蛋白質との結合が一定していれば、
このグラフも同一になります。

つまり、
このグラフがシフトすれば、
薬がその蛋白質と結合している、
という1つの証拠になります。

この方法は放射性物質でトレースしなくても、
簡便に行なえるという点が優れているのです。

上記の文献においては、
培養細胞や組織において、
薬剤と特定の蛋白質の結合を、
この手法を用いて解析しています。

細胞内における蛋白と薬剤との結合も、
上記の文献における検証によれば、
同じように測定が可能です。

この方法を用いると、
まず新薬の開発に関しては、
特定のターゲットとなる蛋白質と、
結合する薬の候補を探すことが、
候補の蛋白質を放り込んで、
グラフを描くだけで出来てしまいます。

細胞内において、
ターゲット蛋白との結合が、
本当に起こっているかどうかも、
同様に簡単に確認が可能です。

更には想定外の蛋白質と結合していないかどうか、
副作用のチェックにも利用が可能です。

今後こうした手法の活用により、
新薬の開発費がより削減され、
薬の効果や安全性が、
より確実に判断出来るような進歩を、
期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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