SSブログ

虫歯菌の癌予防効果について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は終日レセプト作業の予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
虫歯と頭頸部癌との関連.jpg
先月のJAMA Otolaryngal Head Neck Surg誌に掲載された、
虫歯がある方が頭頸部の癌に罹り難いという、
ちょっと面白い内容の論文です。

ただ、ちゃんと理屈はあるのです。

舌癌や喉頭癌、咽頭癌などの、
口から咽喉に掛けての組織から発症する、
扁平上皮癌というタイプの癌は、
アメリカの統計ではこの30年間増え続けています。

特に喉頭癌は喫煙との関連が高いことが知られていますが、
喫煙人口が減り続けても、
癌自体は増え続けていることから考えて、
喫煙のみが原因とは思えません。
子宮頸癌との関連が有名な、
ヒトパピローマウイルスの16型というタイプは、
その口腔内への感染が、
癌の発症と関わりがあることが分かっています。

もう1つその発症の要因として考えられるのは、
口腔内の衛生環境です。

口腔内の感染症、特に持続する慢性の感染症は、
免疫系を活発にし、
その刺激や慢性の炎症が、
発癌に繋がり易いという推測がされています。

口腔内の細菌感染症の代表は、
う蝕、要するに虫歯と、歯槽膿漏です。

虫歯と歯槽膿漏は基本的にその性質が異なります。

虫歯というのはミュータンス菌と良く呼ばれている、
細菌による感染症です。
ミュータンス菌はグラム陽性の通性嫌気性連鎖球菌、
という分類に属する細菌です。

これが歯に歯垢という塊を作ると、
その中で細菌が増殖して、
砂糖などの炭水化物を分解し、
乳酸という酸を産生して、
その酸が歯のエナメル質を溶かすのです。

これが虫歯です。

一方で歯槽膿漏や歯周炎というのは、
歯の土台となる部分の感染症で、
歯を失う可能性は虫歯より高いのです。

この歯周炎はグラム陰性嫌気性菌による感染症です。

このように虫歯と歯槽膿漏とは、
その原因となる細菌の種類が違うのですが、
それに伴って、惹起される免疫反応の種別も違います。

免疫の調整役である、ヘルパーT細胞というリンパ球には、
Th1、Th2、Th17という種別があり、
Th2とTh17は自己免疫やアレルギー疾患との、
関連性が指摘されています。

そして、虫歯では主にTh1が反応の主体となりますが、
歯周炎ではTh2とTh17が免疫反応の主体となり、
発癌はTh1は抑制する方向に働き、
Th2とTh17は刺激する方向に働くと考えられています。

これがもし口腔内でも成り立つことだとすると、
歯周炎と口腔や咽喉の癌とは関連があり、
虫歯はむしろ発癌を抑制する、という可能性が示唆されます。

上記の文献の著者らは、
これまでに歯周炎と癌との関連性のデータを出していて、
これによると歯周炎により癌のリスクは高まる、
という結果になっています。
そこで、
今度は虫歯と癌との関連を検証しているのです。

アメリカの特定施設で、
口腔や咽喉の扁平上皮癌と診断された患者さん、
399名を症例群とし、
別個に年齢などをマッチさせた、
221名のコントロールと比較して、
その口腔内の異常と癌の発症との関連性を検証しました。

その結果…

虫歯の本数も治療をした歯の数も、
症例群よりコントロール群の方が、
有意に多い、という結果でした。

虫歯の本数毎に全対象を3等分すると、
虫歯の本数が多い群は、少ない群と比較して、
口腔内や咽喉の癌のリスクが68%有意に低下していました。

歯周炎で癌のリスクが上昇していた、
というデータと含めて考えると、
口腔内の免疫状態の差が、
癌の発症リスクの差に結び付いている、
という仮説にはそれなりの説得力があります。

つまり、歯周病はしっかりと予防して、
虫歯菌とはうまく付き合うことが、
厄介な口腔内や咽喉の癌を予防するために、
重要なことだ、ということになります。

勿論虫歯も厄介な病気であることは間違いがありません。

ただ、問題はミュータンス菌が口の中にいるということではなく、
それが歯垢を形成して歯に密着するところにあります。

従って、
歯垢が形成されないように、
口腔内を健康に保ち、
砂糖などの糖質を摂り過ぎないようにすることが肝要です。

ミュータンス菌を抗生物質で除菌したり、
ワクチンを開発して排除するような方法は、
仮にそれでミュータンス菌がなくなったとしても、
却って免疫系のバランスを崩し、
癌のリスクを増やす可能性があるのです。

虫歯が多い方が口腔や咽喉の癌には成り難い、
という一見奇異な知見は、
免疫と癌との不思議な関係を、
開く扉の1つになりそうな気もします。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(37)  コメント(4)  トラックバック(0) 

nice! 37

コメント 4

こはく

いつも興味深いお話をありがとうございます。
今回はまずタイトルに驚きました。
幼児の頃から虫歯に悩まされていてので
ちょっとうれしかったです。
虫歯ができにくいと威張っていた人が
最近歯がぐらついて困る、と言っていたので
何事も良い点も悪い点もあるのだなと思いました。
by こはく (2013-10-02 10:24) 

fujiki

こはくさんへ
いつもお読み頂きありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。
by fujiki (2013-10-09 08:29) 

財部

いつも興味深く拝見しています。先生の今日の話題には直接関係ないのですが教えて頂きたいことがあります。次回、歯の神経を抜くのですが、その時に使う麻酔は大量に使うと体に害はありますか?
最初に麻酔をして、それでも痛みがあるようなら麻酔を追加すると言われ不安を感じております。教えてください。

by 財部 (2013-11-16 19:47) 

fujiki

財部さんへ
アレルギーのような症状を除けば、
ご心配は要らないように思います。
by fujiki (2013-11-18 08:30) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0