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心臓機械弁置換手術後のダビガトランの効果 [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から訪問診療に行って、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
ダビガトランの機械弁植え込み後の効果.jpg
今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
心臓の弁膜症に対して人工の弁を入れる手術の後に、
ワルファリンという薬の代わりに、
ダビガトラン(商品名プラザキサ)を使用して、
その効果を比較した論文です。

ワルファリンは血が固まるのを抑える、
抗凝固剤と呼ばれるタイプの薬です。

その有効性は、
慢性心房細動という不整脈の時に、
脳卒中が起こるのを予防したり、
静脈の血栓症による肺塞栓症の再発を予防する、
などの目的での使用で、
確立されたものですが、
その一方でワルファリンは、
納豆を食べられないなど食事の制限があり、
また他に使用する薬との関連で、
薬の効きが変化してしまう、
などの欠点があります。
定期的な血液検査で、
薬の効き具合をチェックする必要性もあります。

そのため、
そうした制限の必要のない、抗凝固剤の新薬が、
最近何種類も開発され、
既に使用されています。

その効果については、
慢性心房細動時の脳卒中の予防に関しては、
しっかりとコントロールされたワルファリンと、
ほぼ同等と考えられています。

しかし、
それ以外の現在ワルファリンが使用されている病気に関しては、
その効果と安全性については未知数の部分を残しています。

その中で今回、
心臓の重症の弁膜症に対して、
人工の機械弁を置換する手術を行なった患者さんに、
手術後に弁への血栓が付着することを予防する目的で、
ワルファリンの代わりに、
新規の抗凝固剤の1つであるダビガトランを使用して、
その効果と安全性とを、
ワルファリンと比較した臨床試験の結果が、
報告されました。

これは製薬会社がお金を出した、
新薬の適応拡大のための、
第2相臨床試験という位置付けです。

10カ国の39の専門施設が参加して、
18歳~75歳までの心臓弁膜症の機械弁置換手術を受けた、
トータル252名の患者さんが対象となっています。

内訳はダビガトランが168名で、
対照としてのワルファリンの患者さんが84名です。

ダビガトランを使用した患者さんのうち、
133名は登録時は手術前で、
手術後早期7日以内にダビガトランが開始され、
残りの35名は登録時に既に手術後で、
術後3ヵ月以降にダビガトランに切り替えが行なわれています。

ダビガトランは腎機能に合わせて、
開始の用量は2通りに設定され、
その後は血液の濃度を測定して、
それが50mg/mL以上になるように調節されます。
この濃度は心房細動の患者さんにこの薬を使用した場合の、
有効域のデータから取られています。

ところが…

この試験は途中で終了となりました。

今回集計されている252名は、
当初の予定の人数ではなく、
予定された人数はもっと多かったのですが、
252名をエントリーした時点で、
既に塞栓血栓症の発症も、
重篤な出血系の合併症の発症も、
明確にダビガトラン使用群の方が、
ワルファリン使用群より多かったので、
それ以上の継続は対象者への不要なリスクを招く、
という判断から、試験は中止されたのです。

要するにワルファリンを使用するよりも、
ダビガトランの使用群では、
薬の有効性は低く、
合併症は多い、という散々な結果です。

この結果を受けて、
ダビガトランの心臓機械弁置換術後の使用は、
その検討が中止されることになりました。

何故このような結果になったのでしょうか?

重篤な出血系の合併症も、
血栓塞栓症も、
いずれも手術後早期にダビガトランを使用したグループで、
専ら生じています。

つまり、
数ヶ月程度の期間が経った後での切り替えには、
大きな問題はなさそうですが、
手術後早期の不安定な時期には、
ダビガトランのリスクは高いものになるようです。

慢性心房細動の患者さんでは、
適切とされた薬剤の血液濃度も、
手術後早期の患者さんでは、
適切ではなかった可能性もあります。

ワルファリンはもとより万能な薬ではありませんが、
単純にそれを新規の抗凝固剤に切り替えれば、
それだけ患者さんのメリットになる、
というものではないようです。

特に機械弁の置換術後などの特殊な使用に関しては、
今後より慎重な検証が必要なことになりそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 3

北岡

日頃から、勉強になる話題をありがとうございます。
本日、勉強会があり NOACs(ノークス? ノアーク?) 特にアピキサバンについて、でした。
石原先生は、ワルファリンと比べどんな患者さんにアピキサバンは有効だとお考えでしょうか?ワルファリンより、より下部において作用する点をメーカーは売り?にし、モニタリングの必要性や食べ合わせや飲み合わせがワルファリンに比べほとんど無く、腎機能が低下した患者さんにも使いやすい。とメーカーは売り?にしていますが、石原先生のお考えをお聞きできれば嬉しいです。
by 北岡 (2013-11-26 22:54) 

fujiki

北岡さんへ
データは確かに良い感じなのです。
ただ、安全性については、
まだもう少し時間が経たないと、
ワーファリンより安全とは言い切れないと思います。
個人的にはワーファリンで、
コントロールが困難な場合には、
変更を検討しています。
by fujiki (2013-11-30 08:27) 

北岡

いくつも、質問してすみません。勉強していくうちに、段々、ドンドン深みにはまるように、わからない事が噴出してきます。これからも、先生のブログを楽しみに拝読させて頂きます。
ありがとうございました。m(_ _)m
by 北岡 (2013-12-01 10:03) 

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