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インターロイキン4受容体拮抗薬による喘息治療の効果 [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
喘息に対するインターロイキン4抑制の効果.jpg
先月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
喘息治療の新薬の効果についての論文です。

気管支喘息治療のスタンダードは、
吸入ステロイドと長期間型の気管支拡張剤の使用です。

この治療の効果は、
患者さんの病状の継続的な安定と、
その安全性の高さで、
これまでの多くの臨床試験の結果から、
確立されたものですが、
その一方でこの治療を、
充分な用量で継続していても、
2割の患者さんはコントロールが不良のままである、
という統計も存在します。

この通常の治療でコントロール不良な患者さんに対しては、
ダニや食物などのアレルゲンを検索して、
その管理や除去を行なったり、
薬の使用法に問題があるのではないか、
という推測から、
患者さんへの教育を強化したり、
アレルギーに関与する免疫グロブリンである、
IgEに対する抗体を使用したりと、
色々な治療の模索が行なわれていますが、
未だ充分なものとは言えません。

喘息は非常に一般的な病気ですから、
勿論多くの新しい治療薬の開発も行なわれています。

こちらをご覧下さい。
喘息治療の新薬一覧.jpg
これはアメリカで現在準備中の治療薬の一覧です。
New England…誌の解説記事から取ったものです。
もう臨床試験のデータがあるものもありますし、
ないものもあります。
ただ、現時点で明確に、
これまでの治療以上の効果が、
認められている薬剤はなく、
特定の物質の作用を阻害する、
分子標的薬と呼ばれるような、
非常に高額な薬の多いことが特徴です。

喘息の発症メカニズムに関して、
最近注目をされているのが、
身体においてリンパ球などが放出する、
インターロイキンと呼ばれる物質の作用です。

インターロイキンには多くの種類がありますが、
喘息との関連性で注目されているのが、
インターロイキン4とインターロイキン13の2種類です。

この2種類のインターロイキンは全く別個のものではなく、
インターロイキン4がくっつく受容体2種類のうちの1種類には、
インターロイキン13もくっつくことが出来る、
などの共通点があります。

免疫のメカニズムは複雑怪奇ですが、
その調整役に働くリンパ球である、
ヘルパーT細胞には、
Th1とTh2 という2種類のタイプが存在します。
これは1型ヘルパーT細胞、2型ヘルパーT細胞、
くらいの意味合いです。

このうち喘息のようなアレルギー疾患に主に関連性があるのは、
Th2タイプのヘルパーT細胞で、
インターロイキン4も13も、
共にこのTh2細胞から分泌されるサイトカインです。

大雑把に言えば、
Th2細胞が多く存在していれば、
アレルギー疾患の指標の1つである、
好酸球も血液のIgEという免疫グロブリンも、
共に多く存在している可能性が高く、
インターロイキン4と13も、
多く分泌されている可能性が高いのです。

主にネズミを用いた実験から、
このインターロイキン4とインターロイキン13とを、
同時に阻害すると、
ネズミの喘息の症状は完全に消失することが報告されています。
また、インターロイキン13のみを阻害すると、
IgEや好酸球は減少しないものの、
気道の敏感さと気道の粘液の産生は強力に抑えられることが、
立証されています。

このことから、
今お得意の分子生物学的技術を活用して、
インターロイキン4や13の受容体に対する抗体を作成し、
それを使用することで、
インターロイキンの作用をブロックし、
通常の治療でコントロール困難な、
難治性の喘息を治療しよう、
という発想が生まれます。

2011年の9月のNew England…誌に、
レブリキツマブという、
インターロイキン13の受容体拮抗薬の臨床試験の結果が発表され、
同時期にブログでも記事にしています。

これは血液の好酸球やIgEの高い患者さんに限って、
通常の吸入ステロイドに上乗せする形で、
レブリキツマブを使用しているのですが、
結果としては喘息のコントロールの改善傾向はあったものの、
想定されたほど著明なものとは言えませんでした。

おそらく高額な新薬になると思われますから、
それでこの程度の効果ではねえ、
という感じです。

今回の論文では、
デュピルマブという新薬が、
矢張り喘息の治療に使用されています。

この薬は今度はインターロイキン4の受容体に対する抗体で、
その作用をブロックすることを目標としています。

より正確には、
インターロイキン4受容体のαサブユニットに対する、
モノクローナル抗体で、
インターロイキン4の受容体は、
インターロイキン13のシグナル伝達にも関わっているので、
これによりインターロイキン4と13の、
両方の情報伝達がブロックされ、
より強い効果が期待出来るのでは、
という考え方です。

試験のデザインはちょっと特殊で、
中等量以上の吸入ステロイドと、
持続型の気管支拡張剤を使用していても、
コントロールが不充分な患者さんのうち、
血液中の好酸球が300/μL以上か、
喀痰中の好酸球が3%以上の方のみを対象とし、
デュピルマブの皮下注射か、
偽薬の皮下注射をする群の2群に、
患者さんにも主治医にも分からない形でくじ引きで分け、
まずは上乗せで4週間使用した後、
まず気管支拡張剤を減量中止し、
その後吸入ステロイドを減量中止して、
その後の経過を最初からのトータルで、
12週間観察しています。

症例数は両群とも52名です。
喘息の基礎薬はフルチカゾンとソルメテロールの合剤で、
商品名はアドエアです。
フルチカゾンの1回の使用量が、
250μg以上を対象としています。

その結果…

通常の治療薬剤の減量以降、
喘息症状の急性増悪の発症は、
明確に偽薬群では増加しましたが、
デュピルマブの使用群では僅かな増加に留まっていて、
有意に87%の相対リスクの低下が認められました。

薬剤の安全性については、
注射部位の脹れや鼻や咽喉の炎症、
頭痛や吐き気が主なものでした。
好酸球数は多くの事例では、
治療による変化を示しませんでしたが、
デュピルマブの使用群では、
一部の事例で治療により好酸球は著明に増加しました。

正直以前のインターロイキン13の拮抗薬と同じく、
何となく釈然としない結果です。

本来は吸入ステロイドなどの治療へ、
上乗せする形でこの薬を使用し、
その上乗せ効果を検証するか、
未治療の喘息に使用して、
吸入ステロイドや気管支拡張剤の治療と、
比較するような試験が、
実際の臨床に直結するものとして、
望ましいものではなかったかと思います。

しかし、
そうではなく、
吸入ステロイドと気管支拡張剤を併用している患者さんに、
新薬を上乗せした上で、
段階的に治療薬を中止して、
それによる増悪を、
新薬が抑制するかどうかを見る、
という分かり難い形を取っています。

これはおそらく、
インターロイキン13の拮抗薬が、
上乗せ試験であまり明確な結果が出なかったので、
より効果が明確に出易い試験デザインを、
取ったのではないかと推測されます。

ただ、
これでは吸入ステロイドと気管支拡張剤の併用治療と、
同等の効果があることを証明したことにはなっても、
それに勝る効果があるとは言えませんし、
最初の4週のみは上乗せになっているのですが、
その間にあまり治療効果の差が付いていません。

更にはこの試験では、
好酸球数が多い患者さんのみを対象としていますが、
最初にエントリーされた患者さんのうち、
その基準を満たしているのは2割程度ですから、
結果として大多数の喘息の患者さんに対する効果は、
不明のまま、ということになります。

これも本来なら、
好酸球の少ない患者さんにもこの薬を使用して、
本当に好酸球の増加している患者さんに、
より効果のある薬であるのかどうかを、
確認する必要があると思います。

有害事象として、
アレルギーが悪化したような事例があったり、
好酸球が急上昇する事例が見られたことも、
そもそもの期待された効果とは、
逆の結果になっているのですから、
少数例とは言え気になるところです。

総じて、
インターロイキンの拮抗薬は、
動物実験のレベルでは、
喘息症状を完全に抑え込むような効果があるのですが、
人間への使用については、
まだどのような事例に、
本当に効果があるのか、
というような事項が明らかではなく、
現状の臨床試験の成績では、
これまでのスタンダードな治療に匹敵する効果はありそうですが、
仮にそのレベルであれば、
医療コストの面から言っても、
注射という投与経路の面からも、
「夢の新薬」という評価にはほど遠いと思います。

今後の研究の推移を見守りたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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アトピー

先生こんにちはアトピー性皮膚炎を患っている者です。
喘息の方にも効果があるのですね。

デュピルマブの治験を何とか受けたいと思っているのですが、
福岡周辺、無い場合は最悪東京周辺で行っている所をご存知でしたら教えて頂けませんでしょうか。

難しい場合は行っている所を探す方法をご存知でしたら教えてください。

また、新薬なのでリスクはゼロではないと思いますが、
どれくらいのリスクがある物と現在思われているのでしょうか?

お忙しい中大変恐縮ですがどうぞよろしくお願いいたします。
by アトピー (2014-09-16 16:49) 

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