塩化ナトリウムによる免疫調整作用を考える [医療のトピック]
こんにちは。
六号通り診療所の石原です。
朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
今年の4月のNature誌に掲載されたレターですが、
血液の塩分濃度が、
免疫系の調節に重要な役割を果たしている、
という非常に興味深い報告です。
自分の身体の白血球などの細胞が、
自分の身体を攻撃する自己免疫は、
特に難病と言われるような、
多くの病気の原因であるとされています。
慢性関節リウマチや、
全身性エリテマトーデスなどの膠原病は、
その代表格ですし、
バセドウ病や橋本病などの甲状腺疾患、
重症筋無力症や多発性硬化症などの神経難病、
1型糖尿病や自己免疫性肝炎など、
それ以外にも多くの病気で、
自己免疫の関与が指摘されています。
こうした病気は、
その多くがこの数十年間に増加していて、
そこには遺伝のような体質的な原因に加えて、
何らかの環境的な要因が想定されます。
その自己免疫疾患を増加させる環境要因として、
最近注目されているものの1つが、
身体の塩分濃度の関与です。
身体を細菌やウイルスのような感染から防御するために、
ヘルパーT細胞というタイプのリンパ球は、
サイトカインと呼ばれる物質の産生を介して、
多くの免疫機能の調整を行なっています。
このうちTh17と呼ばれるヘルパーT細胞は、
インターロイキン17、21、22というサイトカインを産生し、
細菌やカビから身体を守る上で、
主軸となるような働きをしています。
しかし、
その一方でこのTh17は、
局所に強力な炎症を誘導するので、
自己免疫疾患において、
その数が増加することが知られています。
血液の塩化ナトリウム濃度が、
サイトカインの産生や貪食細胞の活性化に、
一定の役割を果たしていることは、
以前から報告があります。
今回の文献においては、
人間のリンパ球を培養した実験と、
ネズミに塩分の多い食事と少ない食事を与える実験において、
そのメカニズムを解明し、
そこから一定の結論を導き出しています。
こちらをご覧下さい。
実験の詳細は省きますが、
それにより明らかになった、
塩化ナトリウムが免疫系の調節に与える影響を、
図示したものがこちらになります。
ヘルパーT細胞の前躯細胞は、
サイトカインの分泌などを介して、
Th1、Th2、Th17の3種類に分化してゆきます。
ここにおいて、
血液中の塩分濃度が多いと、
細胞内に入った塩化ナトリウムが、
SGK1という酵素の活性化を介して、
Th17細胞への分化を促すと共に、
その活性化も促すのです。
血液のナトリウム濃度は140mMくらいですが、
リンパ組織においては、
その濃度は160~250mMになっています。
これはTh17リンパ球の活性化には、
周囲の塩化ナトリウム濃度が高いことが必須であることを示しています。
一方で血液のナトリウム濃度が低くなると、
Th17により促される炎症は、
抑制されると考えられます。
脊髄の手術に比較的高濃度のナトリウムを含む点滴を使用すると、
術後の感染症が抑制され、
患者さんの生命予後を改善した、
という報告があります。
こうした報告は、
少なくとも短期的には、
高濃度のナトリウム濃度の点滴や、
食塩の食事への付加によって、
免疫系が賦活され、
一定の感染防御効果のあることを示唆しています。
その一方で、
自己免疫疾患の患者さんや、
その素因のある患者さんでは、
減塩により血液のナトリウム濃度を、
やや低下させることで、
その発症や進展予防効果のある可能性が、
今後の課題として考えられます。
ただ、
実際には血液のナトリウム濃度は、
レニンなどのホルモン系によって、
常に調整がされていますし、
強制的にナトリウムを変動させれば、
免疫系のみならず、
循環やホルモン、自律神経系にも、
多くの変化が現れます。
そうした変化の中には、
当然身体にとって有害なものもありますから、
単純に自己免疫の予防のために塩分を制限したり、
感染症の予防のために塩分を増やしたりしても、
それが身体にとって、
トータルにメリットのあるものに、
なるかどうかはまだ未知数です。
ただ、
現状自己免疫疾患をお持ちの方は、
通常の状態では高血圧がなくても塩分を制限し、
一方で身体に強いストレスが掛かり、
感染のリスクが高いような時には、
一時的に塩分の摂取を増やすことは、
妥当な判断ではないかと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
六号通り診療所の石原です。
朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
今年の4月のNature誌に掲載されたレターですが、
血液の塩分濃度が、
免疫系の調節に重要な役割を果たしている、
という非常に興味深い報告です。
自分の身体の白血球などの細胞が、
自分の身体を攻撃する自己免疫は、
特に難病と言われるような、
多くの病気の原因であるとされています。
慢性関節リウマチや、
全身性エリテマトーデスなどの膠原病は、
その代表格ですし、
バセドウ病や橋本病などの甲状腺疾患、
重症筋無力症や多発性硬化症などの神経難病、
1型糖尿病や自己免疫性肝炎など、
それ以外にも多くの病気で、
自己免疫の関与が指摘されています。
こうした病気は、
その多くがこの数十年間に増加していて、
そこには遺伝のような体質的な原因に加えて、
何らかの環境的な要因が想定されます。
その自己免疫疾患を増加させる環境要因として、
最近注目されているものの1つが、
身体の塩分濃度の関与です。
身体を細菌やウイルスのような感染から防御するために、
ヘルパーT細胞というタイプのリンパ球は、
サイトカインと呼ばれる物質の産生を介して、
多くの免疫機能の調整を行なっています。
このうちTh17と呼ばれるヘルパーT細胞は、
インターロイキン17、21、22というサイトカインを産生し、
細菌やカビから身体を守る上で、
主軸となるような働きをしています。
しかし、
その一方でこのTh17は、
局所に強力な炎症を誘導するので、
自己免疫疾患において、
その数が増加することが知られています。
血液の塩化ナトリウム濃度が、
サイトカインの産生や貪食細胞の活性化に、
一定の役割を果たしていることは、
以前から報告があります。
今回の文献においては、
人間のリンパ球を培養した実験と、
ネズミに塩分の多い食事と少ない食事を与える実験において、
そのメカニズムを解明し、
そこから一定の結論を導き出しています。
こちらをご覧下さい。
実験の詳細は省きますが、
それにより明らかになった、
塩化ナトリウムが免疫系の調節に与える影響を、
図示したものがこちらになります。
ヘルパーT細胞の前躯細胞は、
サイトカインの分泌などを介して、
Th1、Th2、Th17の3種類に分化してゆきます。
ここにおいて、
血液中の塩分濃度が多いと、
細胞内に入った塩化ナトリウムが、
SGK1という酵素の活性化を介して、
Th17細胞への分化を促すと共に、
その活性化も促すのです。
血液のナトリウム濃度は140mMくらいですが、
リンパ組織においては、
その濃度は160~250mMになっています。
これはTh17リンパ球の活性化には、
周囲の塩化ナトリウム濃度が高いことが必須であることを示しています。
一方で血液のナトリウム濃度が低くなると、
Th17により促される炎症は、
抑制されると考えられます。
脊髄の手術に比較的高濃度のナトリウムを含む点滴を使用すると、
術後の感染症が抑制され、
患者さんの生命予後を改善した、
という報告があります。
こうした報告は、
少なくとも短期的には、
高濃度のナトリウム濃度の点滴や、
食塩の食事への付加によって、
免疫系が賦活され、
一定の感染防御効果のあることを示唆しています。
その一方で、
自己免疫疾患の患者さんや、
その素因のある患者さんでは、
減塩により血液のナトリウム濃度を、
やや低下させることで、
その発症や進展予防効果のある可能性が、
今後の課題として考えられます。
ただ、
実際には血液のナトリウム濃度は、
レニンなどのホルモン系によって、
常に調整がされていますし、
強制的にナトリウムを変動させれば、
免疫系のみならず、
循環やホルモン、自律神経系にも、
多くの変化が現れます。
そうした変化の中には、
当然身体にとって有害なものもありますから、
単純に自己免疫の予防のために塩分を制限したり、
感染症の予防のために塩分を増やしたりしても、
それが身体にとって、
トータルにメリットのあるものに、
なるかどうかはまだ未知数です。
ただ、
現状自己免疫疾患をお持ちの方は、
通常の状態では高血圧がなくても塩分を制限し、
一方で身体に強いストレスが掛かり、
感染のリスクが高いような時には、
一時的に塩分の摂取を増やすことは、
妥当な判断ではないかと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
2013-07-01 08:05
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コメント(2)
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Dr.Ishiharaとても興味深い記事何時も有り難うございます。
爺は元々生化学屋なので、実は爺も降圧剤のお世話に成っていますが、当たり前の事ですが、Na,K,Ca,Mg,Cl,の様な電解質は、生体にとって非常に重要なのに悪玉扱いされて居る感じが有ります。
Naは神経や筋肉の興奮性膜のスパイク電位を生み出しています。
昔から、敵に塩を送るとか塩の道等、人類否全ての生物は改めて、塩の恩恵に感謝しなけばならないと想いました。
by MDISATOH (2013-07-03 01:43)
MDISATOH さんへ
コメントありがとうございます。
電解質の効果というのは非常に複雑で、
減塩についても色々な意見があり、
一筋縄ではいかないようです。
by fujiki (2013-07-03 08:20)