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コレステロール降下剤の中断とその背景について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
スタチンの中断とその理由.jpg
今年のAnnals of Internal Medicine誌に掲載された、
スタチンと呼ばれるコレステロールの降下剤の、
副作用による中断と、
その背景を解析した論文です。

コレステロール、
特に悪玉コレステロールと通称される、
LDLコレステロールの増加が、
動脈硬化を進行させ、
心筋梗塞や脳卒中、特に心筋梗塞の、
発症の大きなリスクとなることは、
皆さんもご存じの通りです。

スタチンと呼ばれる強力なコレステロール降下剤が、
使用されるようになると、
その効果により心筋梗塞が予防されることが、
特に一度起こされた方の再発予防については、
明確に証明され、
それ以外にも抗炎症作用など、
別個にスタチンには動脈硬化を抑制する作用がある、
という知見も蓄積されて、
動脈硬化による病気の予防としての、
スタチンの効果はほぼ確立しています。

しかし…

これだけ有用性の高い薬であるスタチンですが、
多くの副作用や有害事象のあることも事実です。

良く知られているのは筋細胞への影響で、
筋肉が急速に炎症を起こして破壊される、
「横紋筋融解症」という病気が起こることがあります。

そこまでは行かなくても、
筋肉の痛みやこむら返りと呼ばれる痙攣、
筋肉のだるさなどの症状は、
しばしば出現します。

長期的な使用においては、
糖尿病の発症の増加や、
認知機能の低下、
ある種の癌の発症リスクの増加
(これは抑制するというデータもあり)
などが指摘されています。

このようにスタチンの使用は、
時に身体にとって有害な場合もあるので、
使用する医療者は、
そのメリットとデメリットを慎重に天秤に掛け、
その患者さんがスタチンを使用する意義を、
個別に検証する必要があります。

スタチンの効果の前提となった、
多くの精度の高い臨床試験においては、
スタチンの有害事象はトータルでも5~10%程度で、
使用を中断せざるを得なくなった患者さんの比率は、
ごく少数です。

しかし、
それが実際の臨床現場、
ということになると、
もっと多くの患者さんが、
有害事象のためにスタチンを中断しています。

診療所の経験においても、
おそらく1割程度の患者さんは、
短期間の使用後にスタチンを中断しています。

理由は一番多いのが矢張り筋肉痛や筋肉のだるさで、
次が血液検査をした際の、
CPKと呼ばれる、
筋肉が壊れた時に上昇する数値の異常値です。
1例だけ血圧が急上昇した事例がありましたが、
因果関係ははっきりしません。

ただ、
確かにそうして中断した患者さんが、
しばらくしてからスタチンの使用を再開すると、
意外に問題なく使用を継続出来る、
というケースは存在します。

医療者の側から考えると、
本来はスタチンの使用が必要な患者さんが、
一時的な有害事象のためにその使用を中断し、
本来は継続しても問題がないのに、
継続が出来なくなるような事態は避けたいところです。

こうした問題は日本のみならず、
海外においても同様のようで、
今回の文献においては、
アメリカの2つの専門施設の患者さんに限って、
スタチンを処方された、
107835人の患者さんのその後の中断などの処方状況を、
「後ろ向きに」解析しています。

つまり、
最初から患者さんを登録して、
その後の経過を見た研究ではないので精度は落ちますが、
より実際の臨床を反映している点と、
患者さんの数が多いのが利点です。
8年以上の経過が観察されています。

患者さんの53.1%に当たる57292名が、
一旦はスタチンの使用を中断していました。
ただ、これは他の薬への変更や、
患者さんの勝手な中断、
処方自体が不必要になったり、
経済的な問題など、
様々な要因が関連しています。

実際に有害事象が指摘されたのは、
17.4%に当たる18778人で、
そのうちの59.8%に当たる11124人が、
スタチンの使用を一旦中断しています。
その後このうちの半数を超える6579人は、
スタチンを再開し、
再開したうちの9割以上に当たる6064人では、
1年後もスタチンの使用が継続されていました。

このスタチンの再開は、
初回と同じスタチンが使用されたケースもありますし、
別のスタチンに変更されたケースもあります。

有害事象としては、
最も多かったのが筋肉痛や筋肉の脱力で、
これが有害事象全体の4.71%に認められています。
ただ、所謂横紋筋融解症と診断されたものは、
7例のみで0.006%という比率です。

つまり、
スタチンの使用により筋肉痛を生じる患者さんのうち、
横紋筋融解症の患者さんは、
700人に1人くらいに過ぎません。

筋肉の破壊の指標であるCPKの数値が、
正常の上限の3~10倍のレベルの上昇を来した患者さんでも、
中断後に再開すると、
問題なくスタチンを持続出来るケースは、
認められましたが、
治療動向としては、
ここまでの数値の上昇があると、
スタチンの使用が長期間見合わせられているケースが多いようです。

つまり、
多くの臨床医の判断としては、
CPKの数値が正常上限の3倍以下であれば、
スタチンの継続や一旦中止後の再開が、
概ね考慮されるけれど、
それを越える上昇があれば、
スタチンの使用はその後は見合わせる臨床医が多い、
という結果です。

コレステロールが高くても、
痛みなどはありませんから、
特に一次予防目的のスタチンの使用は、
中断され易い傾向があると思います。

臨床医の立ち場としては、
スタチンに特に筋肉に対する有害事象が多い、
ということは良く知られていますから、
患者さんに、
「薬を始めてから足が痛い」
とか、
「身体がだるくて力が入り難い」
などと言われるとドキリとしますし、
血液検査をして、
CPKが上がっていると、
これも非常に迷います。

CPKの数値が正常の3倍を超えていれば、
概ね中止しようと判断出来ますが、
2.5倍程度の上昇であると、
この数値は運動などでも上がることがありますから、
余計に判断が難しくなります。

今回の文献の趣旨は、
そうした臨床医の判断の傾向を解析すると共に、
実際には再投与の事例の9割は、
その後使用が継続されているので、
もう少し積極的に再使用を検討するべきではないか、
というニュアンスのものになっています。

診療所レベルの診療においては、
一旦何らかの副作用や有害事象が起こると、
特に初診から間もない患者さんでは、
患者さんとの信頼関係に大きな影響が出るので、
患者さんが体調への不安を言われるのに、
スタチンの使用を継続することは、
より困難なケースが多いと思いますし、
それが殊更に悪いことだとは思いません。

ただ、
この薬の場合には、
必要に応じて再投与を試みることは、
重要であると思いますので、
初回の処方時に、
その点については患者さんと事前に相談した上で、
慎重に処方を行なうのが重要なように思います。

CPKの上昇については、
確かに正常上限の3倍程度までの上昇は、
問題にならないケースが多いのですが、
運動などで上昇し易い患者さんを含めて、
CPKの上昇し易い患者さんには、
ある種の筋細胞の脆弱性があり、
その点は考慮の上で処方を行なうべきではないかと思います。

具体的にはリスクを判断出来る患者さんには、
処方を継続することがありますが、
発熱時や激しい運動時など、
細胞の不安定さがより高まることが想定される時には、
スタチンは一時中断するように指示しています。

スタチンの処方は、
動脈硬化の治療と予防において、
欠くことの出来ないものですが、
有害事象の多い薬で中断が多いことも事実であり、
その辺りのもう少し明瞭な指針が、
作成される必要があるのではないかと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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