家族性高コレステロール血症の遺伝子変異について [医療のトピック]
こんにちは。
六号通り診療所の石原です。
朝から何となくぼんやりして、
やることは沢山あるのですが、
あまり手に付かず、
今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
先月のLancet誌に掲載された、
家族性高コレステロール血症の、
遺伝子変異についての論文です。
コレステロール、
特に悪玉コレステロールと通称される、
LDLという蛋白質と結合したコレステロールが、
血液中に多く存在すると、
それが心筋梗塞や脳卒中(主に心筋梗塞)の、
大きな発症リスクになることは、
皆さんよくご存じの通りです。
コレステロールの高くなる原因は、
食事などの生活習慣や肥満、
女性ホルモンの関与など様々ですが、
その一部には遺伝の関与の大きなものがあり、
遺伝による要素が、
それ以外の原因より明らかに大きな場合、
それを家族性高コレステロール血症と呼んで、
通常のコレステロールの増加する病態とは、
別個に考えるのが一般的です。
これは遺伝的な素因により、
コレステロール、特に悪玉コレステロールが、
高度に上昇している患者さんでは、
心筋梗塞などの発症が、
格段に多いことが分かっているからです。
こうした患者さんでは、
お子さんの時期よりコレステロールの上昇が持続し、
それが動脈硬化の進行に結び付くのですが、
早期に適切な治療を開始し、
コレステロールを正常化すると、
その進行が抑制されることも分かっています。
つまり、
早期に診断して治療することが、
非常に重要なのです。
さて、
この病気は常染色体優性遺伝です。
ご両親のどちらかがこの遺伝素因を持っていると、
お子さんは2分の1の確率で、
その素因を受け継ぐことになります。
両親が共にその素因を持っていると、
お子さんがその2つを受け継ぐ可能性があり、
その場合はよりコレステロールの上昇は高度になります。
この1つの素因を持っている患者さんをヘテロ型と言い、
2つの素因を持っている場合をホモ型と言います。
世界的にこのホモ型の頻度が100万人に1人で、
ヘテロ型は500人に1人という統計が、
教科書などには書かれています。
ただ、
日本の統計が実際にそれと違いのないものなのかどうかは、
あまりはっきりしたことが、
何処にも明確には書かれていないように思います。
更には、
ヘテロ型の家族性高コレステロール血症に関しては、
LDLコレステロールが180mg/dl以上というのが1つの指標になりますから、
この程度の上昇は家族性以外でも多く認められ、
実際には通常の脂質異常症として、
診断はされずに治療が行なわれたり、
経過観察のみで治療も行なわれていないケースが、
多いと考えられます。
上記の文献の記載では、
デンマークの疫学研究で137人に1人という比率であったことが、
紹介されていて、
実際にはヘテロ型の頻度は、
より多いという可能性が示唆されています。
日本においても一部地域の統計ですが、
ホモ型が17万人に1人、ヘテロ型が200人に1人、
という報告もあります。
さて、
家族性高コレステロール血症は遺伝性の病気ですから、
その原因は遺伝子の変異によるものと考えられます。
遺伝子の変異は主にLDL受容体にあります。
LDLコレステロールは、
主に肝臓にある、
LDL受容体にLDLが結合することにより、
コレステロールが細胞内で利用されます。
そこでこのLDL受容体の数が病的に減少したり、
正常な働きを失ったりすると、
コレステロールが細胞の中に入ることが出来ず、
血液中に異常に増加する事態になります。
それ以外にLDLを構成する蛋白質の1つであるアポ蛋白(apoB)の異常や、
LDL受容体の分解に関わる、
PCSK9と呼ばれる遺伝子の異常も、
頻度的には少ないのですが、
同様の症状の原因になると考えられています。
狭い意味での家族性高コレステロール血症というのは、
LDL受容体遺伝子の異常を指しますが、
それだけでも1000種類以上が報告されていて、
日本でも70種類以上が知られています。
従って、遺伝子変異に伴って、
LDLコレステロールが著明に増加するような病態は、
PCSK9の変異によるものなども含めて、
家族性高コレステロール血症と、
総称するのが一般的です。
これまでに分かっている主な遺伝子異常は、
LDL受容体関連の遺伝子変異によるもの、
apoB関連の遺伝子変異によるもの、
PCSK9関連の遺伝子変異によるものの3種類ですが、
上記の文献によれば、
イギリスにおいて、
臨床的に家族性高コレステロール血症と診断された患者さんのうち、
全体のほぼ6割では、
この3種類の遺伝子変異は、
いずれも見付からなかった、
という結果でした。
上記文献の著者らは、
知られている3種類の変異以外にも、
LDLコレステロールに関わる、
単独ではそれほどの影響を血中コレステロールに与えない遺伝子変異が、
幾つも集積することで、
家族性高コレステロール血症の原因になっているのでは、
という仮説の元に、
3種類の遺伝子変異の存在しない患者さんにおいて、
それ以外の小さな遺伝子変異の有無を解析しています。
その結果…
複数の遺伝子変異をスコア化して比較すると、
主な3種類の遺伝子変異が陰性の、
遺伝性高コレステロール血症の患者さんでは、
それ以外の小さな遺伝子異常が複数認められ、
その変異の集積とコレステロール値との間に、
有意な相関が認められました。
つまり、
発見されている家族性高コレステロール血症の4割は、
通常知られている主要な遺伝子異常ではなく、
複数の小さな遺伝子異常の集積により、
コレステロールの上昇が起こっている可能性が高い、
ということが示唆されたのです。
今回の知見は、
それが即患者さんの治療に結び付くものではありませんが、
これまでかなり単独の遺伝子変異による可能性が高い、
と考えられていたこの病気が、
糖尿病と同じようにかなり多因子の遺伝によることが、
明らかになったことで、
患者さんのご家族への検査の在り方など、
今後その観察においての考え方には、
少なからず影響を与える知見のように思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
六号通り診療所の石原です。
朝から何となくぼんやりして、
やることは沢山あるのですが、
あまり手に付かず、
今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
先月のLancet誌に掲載された、
家族性高コレステロール血症の、
遺伝子変異についての論文です。
コレステロール、
特に悪玉コレステロールと通称される、
LDLという蛋白質と結合したコレステロールが、
血液中に多く存在すると、
それが心筋梗塞や脳卒中(主に心筋梗塞)の、
大きな発症リスクになることは、
皆さんよくご存じの通りです。
コレステロールの高くなる原因は、
食事などの生活習慣や肥満、
女性ホルモンの関与など様々ですが、
その一部には遺伝の関与の大きなものがあり、
遺伝による要素が、
それ以外の原因より明らかに大きな場合、
それを家族性高コレステロール血症と呼んで、
通常のコレステロールの増加する病態とは、
別個に考えるのが一般的です。
これは遺伝的な素因により、
コレステロール、特に悪玉コレステロールが、
高度に上昇している患者さんでは、
心筋梗塞などの発症が、
格段に多いことが分かっているからです。
こうした患者さんでは、
お子さんの時期よりコレステロールの上昇が持続し、
それが動脈硬化の進行に結び付くのですが、
早期に適切な治療を開始し、
コレステロールを正常化すると、
その進行が抑制されることも分かっています。
つまり、
早期に診断して治療することが、
非常に重要なのです。
さて、
この病気は常染色体優性遺伝です。
ご両親のどちらかがこの遺伝素因を持っていると、
お子さんは2分の1の確率で、
その素因を受け継ぐことになります。
両親が共にその素因を持っていると、
お子さんがその2つを受け継ぐ可能性があり、
その場合はよりコレステロールの上昇は高度になります。
この1つの素因を持っている患者さんをヘテロ型と言い、
2つの素因を持っている場合をホモ型と言います。
世界的にこのホモ型の頻度が100万人に1人で、
ヘテロ型は500人に1人という統計が、
教科書などには書かれています。
ただ、
日本の統計が実際にそれと違いのないものなのかどうかは、
あまりはっきりしたことが、
何処にも明確には書かれていないように思います。
更には、
ヘテロ型の家族性高コレステロール血症に関しては、
LDLコレステロールが180mg/dl以上というのが1つの指標になりますから、
この程度の上昇は家族性以外でも多く認められ、
実際には通常の脂質異常症として、
診断はされずに治療が行なわれたり、
経過観察のみで治療も行なわれていないケースが、
多いと考えられます。
上記の文献の記載では、
デンマークの疫学研究で137人に1人という比率であったことが、
紹介されていて、
実際にはヘテロ型の頻度は、
より多いという可能性が示唆されています。
日本においても一部地域の統計ですが、
ホモ型が17万人に1人、ヘテロ型が200人に1人、
という報告もあります。
さて、
家族性高コレステロール血症は遺伝性の病気ですから、
その原因は遺伝子の変異によるものと考えられます。
遺伝子の変異は主にLDL受容体にあります。
LDLコレステロールは、
主に肝臓にある、
LDL受容体にLDLが結合することにより、
コレステロールが細胞内で利用されます。
そこでこのLDL受容体の数が病的に減少したり、
正常な働きを失ったりすると、
コレステロールが細胞の中に入ることが出来ず、
血液中に異常に増加する事態になります。
それ以外にLDLを構成する蛋白質の1つであるアポ蛋白(apoB)の異常や、
LDL受容体の分解に関わる、
PCSK9と呼ばれる遺伝子の異常も、
頻度的には少ないのですが、
同様の症状の原因になると考えられています。
狭い意味での家族性高コレステロール血症というのは、
LDL受容体遺伝子の異常を指しますが、
それだけでも1000種類以上が報告されていて、
日本でも70種類以上が知られています。
従って、遺伝子変異に伴って、
LDLコレステロールが著明に増加するような病態は、
PCSK9の変異によるものなども含めて、
家族性高コレステロール血症と、
総称するのが一般的です。
これまでに分かっている主な遺伝子異常は、
LDL受容体関連の遺伝子変異によるもの、
apoB関連の遺伝子変異によるもの、
PCSK9関連の遺伝子変異によるものの3種類ですが、
上記の文献によれば、
イギリスにおいて、
臨床的に家族性高コレステロール血症と診断された患者さんのうち、
全体のほぼ6割では、
この3種類の遺伝子変異は、
いずれも見付からなかった、
という結果でした。
上記文献の著者らは、
知られている3種類の変異以外にも、
LDLコレステロールに関わる、
単独ではそれほどの影響を血中コレステロールに与えない遺伝子変異が、
幾つも集積することで、
家族性高コレステロール血症の原因になっているのでは、
という仮説の元に、
3種類の遺伝子変異の存在しない患者さんにおいて、
それ以外の小さな遺伝子変異の有無を解析しています。
その結果…
複数の遺伝子変異をスコア化して比較すると、
主な3種類の遺伝子変異が陰性の、
遺伝性高コレステロール血症の患者さんでは、
それ以外の小さな遺伝子異常が複数認められ、
その変異の集積とコレステロール値との間に、
有意な相関が認められました。
つまり、
発見されている家族性高コレステロール血症の4割は、
通常知られている主要な遺伝子異常ではなく、
複数の小さな遺伝子異常の集積により、
コレステロールの上昇が起こっている可能性が高い、
ということが示唆されたのです。
今回の知見は、
それが即患者さんの治療に結び付くものではありませんが、
これまでかなり単独の遺伝子変異による可能性が高い、
と考えられていたこの病気が、
糖尿病と同じようにかなり多因子の遺伝によることが、
明らかになったことで、
患者さんのご家族への検査の在り方など、
今後その観察においての考え方には、
少なからず影響を与える知見のように思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
2013-03-09 08:09
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コメント(2)
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こんにちは。
いつもありがとうございます。
遺伝子による病気というのは難しいですよね。
もし遺伝形質がとても重篤だと、生まれてくる前に死んでまったり、生まれても生殖年齢まで生きられなかったり生殖が出来ずに、その変異遺伝子は継承されないと思います。
最近は出生前診断についてもよく議論になっています。
生まれてから治療方法が少ないのも遺伝病の特徴かもしれません。
by モカ (2013-03-11 17:37)
モカさんへ
コメントありがとうございます。
確かに遺伝子の変異の診断には、
明るい側面と暗い側面の両方があるような気がします。
by fujiki (2013-03-12 08:14)