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インクレチン関連薬による膵臓への影響を考える [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から呼ばれて看取りがあって、
意見書など書いて、
レセプトのチェックをして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
GLP-1の膵臓癌誘発作用.jpg
昨年のDiabetes誌に掲載された、
インクレチン関連の治療が、
膵臓に与える影響についての、
ネズミと人間の切除された膵臓の細胞を用いた、
基礎実験の論文です。

昨日はインクレチン関連の2種類の薬剤、
GLP-1アナログであるエキセナチドと、
DPP4阻害剤であるシダグリプチンが、
急性膵炎の入院のリスクを増加させるのでは、
という内容の疫学研究をご紹介しました。

こうした薬剤は、
日本でも糖尿病の治療には、
盛んに使用されています。

これが仮に事実として、
一体何故インクレチン関連の治療が、
膵炎のリスクを増加させるのでしょうか?

現時点では不明ですが、
そのメカニズムを示唆するような、
幾つかの動物実験のデータが存在します。

その1つが上記の論文です。

これはGLP-1の慢性刺激により、
膵臓に炎症性の変化や前癌病変に繋がるような変化が、
惹起されるのではないか、
という内容です。

まず、
病気のないネズミを用いた実験においては、
GLP-1アナログを12週間使用することにより、
膵臓にある膵管粘液腺と呼ばれる部分の細胞が腫大し、
膵上皮内腫瘍性病変と呼ばれる、
膵臓癌の前躯病変に近い変化が生じることが確認されています。

膵臓癌の発生メカニズムには、
多段階発癌仮説という仮説があります。

これによると、
Krasという遺伝子の変異など、
幾つもの遺伝子の変異が、
段階的に膵臓の細胞に起こり、
それにより膵上皮内腫瘍性病変という前躯病変が、
次第に進行して膵臓癌になる、
と考えられています。

つまり、
GLP-1の刺激により、
比較的短期間で、
そうした膵臓癌の発癌に繋がるような変化が、
膵臓において起こるのではないか、
ということを示唆しているのです。

予め複数の遺伝子変異を持ち、
膵臓癌になり易い状態にされた、
膵臓癌のモデル動物のネズミで、
同様の刺激を行なうと、
慢性の炎症が膵臓に誘発され、
より膵臓癌に近い変化が出現します。

こうした異形成を起こす細胞には、
人間でもネズミでも、
GLP-1アナログの受容体があることも確認されています。

膵臓癌で切除した人間の膵臓の組織の、
癌ではない正常な細胞を用いた実験においては、
人間の膵管の細胞においても、
GLP-1の受容体の刺激により、
細胞の増殖系のシグナルが刺激されることが、
確認されました。

こうしたGLP-1による細胞の変化は、
Krasという膵臓癌の発癌に最も関連性の高い、
増殖シグナルに関わる遺伝子変異のある細胞では、
より強く発現され、
その作用は血糖降下剤のメトホルミンにより抑制されました。

今回のデータから分かることは、
GLP-1が継続的に刺激されることが、
特に細胞増殖に結び付くような遺伝子変異のある個体においては、
膵炎を経由して膵臓癌の発症に結び付く可能性があり、
その作用はメトホルミンの使用により、
抑制される可能性がある、
ということです。

勿論細胞増殖に結び付く薬剤は多く存在し、
動物実験で発癌誘発作用が確認されている薬も、
実際には多く存在していますが、
その全てが使用中止になっている、
という訳ではありません。

問題は1つには、
通常使用されているような用量でも、
そうしたことが起こり得るのかと言うことと、
その薬の有用性と、
有害な作用の持つバランスにあるように思います。

インスリンは細胞増殖に働くホルモンで、
当然発癌も時には誘発する可能性があるのですが、
インスリンの欠乏状態においては、
適切な量の使用は、
そのメリットが、
有害事象の可能性に勝るので、
使用が継続されている訳です。

これをインクレチン関連薬について当て嵌めると、
現時点では通常の用量の使用により、
疫学データのあるのは、
急性膵炎による入院を2倍程度増やすのではないか、
というものだけで、
膵臓癌や慢性膵炎を増加させるというデータは、
GLP-1アナログの注射薬については1つありますが、
追試では確認されておらず、
現状は未確認だと思います。

ただ、
その使用が日本で特に推奨されているのは、
副作用が少ないことと共に、
膵臓の細胞を再生するのではないか、
という動物実験のデータにあり、
これは上記の発癌誘発のデータと、
同じ現象を見ている可能性のあることに、
注意が必要だと思います。

現状の僕の考えは、
使用時に膵炎の所見が疑われる事例では、
インクレチン関連の薬の使用を控えることと、
可能であればメトホルミンとの併用が、
望ましいのではないか、
ということです。

発癌という現象は、
矢張り体質的な遺伝子の変異を持っているかどうかが、
かなり大きな要素を占めていて、
そうした体質を持った人に、
物理的な刺激や放射線の被ばく、
薬剤や化学物質による刺激などが加わることにより、
発症するもののようです。

こうした変異がルーチンに測定可能になれば、
それに合わせて癌の予防策を取ることが可能となり、
薬による発癌の可能性を危惧するようなことも、
今後はなくなる可能性が高いと考えられますが、
現状においてはそうではなく、
リスクの高い人にもそうでない人にも、
同じように薬が処方されているので、
特に増殖経路を刺激する可能性のある薬剤に関しては、
その適応をより慎重に考える必要があるのではないかと、
個人的には思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 3

福子

はじめまして 福子です。
先生のブログのほうを楽しみに読ませていただいております!

本日のコメントは 今日の先生の書き込みとは全く関係がない内容なのですが
さきほど健康診断の結果がかえってきてしまい(ネガティブ内容)
お手数ではございますが よろしければご意見いただきたく
コメントさせていただきました。


43歳の女性です。

血液検査結果ですが

総コレステロール:295
HDL:78
LDL:201
中性脂肪:101

という値で いつものごとく再検査予約の用紙が同封されておりました。

人より早いのですが 41歳で閉経しその後急激にLDコレステロールが上がりました。
健康診断のたびに 再検査・投薬を勧められますが
閉経後 女性はコレステロールが上がる方が多いのと
LDLコレステロールは海外では 高値でも特に指導が入らない国があるとの文献も最近増えておりますので
投薬治療のほうをためらっております。
またスタチンの副作用に関しても同様です。

また最近ではあまり取り入れられていないようですが 動脈硬化指数(AI)の計算に当てはめても
今回の私の検査結果は 危険値ではないので いかがなものかと考えます。

コレステロールに関しては さまざまな文献が出ておりますが 日本の医療に関して言えば
海外より見解がおくれているのではないか?と感じます。

投薬より先に 血管の硬さを調べる検査をしてみようかとも思います。

最終的にはすべて自己責任・自己判断になりますが
もしご意見いただけましたらありがたく存じます。
何卒よろしくお願いいたします。

福子
by 福子 (2013-03-08 12:18) 

fujiki

福子さんへ
現状のガイドラインでは、
今後の動脈硬化性疾患のリスクを考えた上で、
薬物治療の判断をする、
ということになっているかと思います。

ご家族での心筋梗塞などの発症の有無や、
血圧の上昇、血糖の上昇などがないかどうか、
(失礼ですが)肥満の有無、
その辺りを総合的に判断し、
頸部のエコーによる頸動脈の病変の有無や、
眼底の所見なども、
参考にはなると思います。

個人的には他の数値に全く問題がなく、
コレステロールの高値のみであれば、
数年間ご様子を見て頂いても、
問題はないように思います。

ただ、
スタチンには抗炎症作用などもあり、
200を超えるLDLの上昇であれば、
長期予後にも一定の意義がある、
という考え方もあると思います。
by fujiki (2013-03-09 08:26) 

福子

FUJIKI先生

ご丁寧にお返事いただきましてありがとうございました!
感謝いたします!

中肉中背 家族は心筋梗塞なし
血圧は低めです。

1点気になりますのは血糖値ですが
こちらはコレステロールが上がる10年ほど前から
高めでしたので、今後は食事制限に努め 再度血糖値の検査をしたいと思います。

また足部での動脈の硬さの検査は昨年異常なしでしたが
頸動脈の病変の有無は未検査ですので
そちらのほうの検査を一度してみたいと思います。

お忙しいところ誠にありがとうございました!
今後ともブログのほう 楽しみにしております。

福子

by 福子 (2013-03-09 17:31) 

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