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骨粗鬆症のメカニズムとVEGF-Aの役割について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
骨粗鬆症の新メカニズム論文.jpg
今年9月のthe Journal of Clinical Investigation誌に掲載された、
骨粗鬆症の新しいメカニズムについての論文です。

骨粗鬆症のメカニズムについては、
多くの研究が行なわれ、
進歩も急速な分野ですが、
それでもまだ不明の点が多く残っています。

骨にはそれを作る細胞である骨芽細胞と、
骨を破壊する方向に働く破骨細胞とがあり、
そのバランスが骨の破壊が進む方向に傾くことにより、
骨粗鬆症が生じる、
というのが1つの有力な説明になっています。

骨を作る細胞である骨芽細胞は、
間葉系の幹細胞と呼ばれる細胞が、
分化したものですが、
その分化は段階的に行なわれ、
増殖因子などの多くの物質が、
その分化に関与しています。

RUNX2(runt-related transcription factor2)と呼ばれる分化マーカーが、
特に分化に必須のものとして有名ですが、
それ以外にも多くの遺伝子や遺伝子産物が、
その分化に関与していると考えられています。

その中で、
上記の文献の著者らが注目したのは、
VEGF-A(vascular endothelial grows factor A)という遺伝子産物です。

VEGF-Aが骨芽細胞の分化に、
重要な働きをすることは、
以前から知られている事実でしたが、
このマーカーは他のWntと呼ばれる伝達経路や、
BMPと呼ばれる伝達経路と比べると、
これまであまり重要視されては来ませんでした。

その理由は骨芽細胞の前躯となる細胞を、
VEGF-Aを多量に含む培養液で培養しても、
骨芽細胞が増えるような反応が起こらないからです。

前躯細胞にはVEGF-Aの受容体があるのですが、
そこにVEGF-Aがくっついても、
骨芽細胞は増殖せず、
むしろ幹細胞は脂肪細胞に分化してしまうのです。

しかし、その一方で、
骨芽細胞の前躯細胞自体は、
その分化の初期の過程で、
VEGF-Aの遺伝子を強く発現していて、
それが細胞の分化に関わっていることは明らかです。

この矛盾を一体どのように考えれば良いのでしょうか?

上記の論文の著者らは、
まずVEGF-Aの遺伝子の働かないネズミを作ります。
すると、そのネズミは高度の骨粗鬆症になります。
そうしたネズミでは、
本来骨芽細胞に分化するべき細胞の多くが、
脂肪細胞に変わってしまっているのです。

これは高齢者の骨粗鬆症において、
しばしば見られる変化でもあります。

そこで今度は、
骨芽細胞に分化する前の幹細胞を、
VEGF-Aを含む培養液で培養しますが、
前述のようにこれでは骨芽細胞の分化は起らず、
むしろ脂肪細胞への分化が促進してしまいます。

そこで次に、
ウイルスにVEGF-Aの遺伝子を組み込み、
そのウイルスを骨芽細胞の前躯細胞に感染させると、
今度は強力に骨芽細胞への分化が促進されたのです。

要するに、
VEGF-Aのシグナリングは、
細胞の中でのみ働き、
細胞外から受容体に結合させても、
同様の反応は起らない性質のものなのです。

この結果を図示したものがこちらになります。
骨粗鬆症の新メカニズムの図.jpg
通常その細胞に受容体があって、
そこに結合させても何の反応も起らなければ、
その物質には有効な働きはない、
と思います。

しかし、
必ずしも増殖因子の類はそうしたものではなく、
細胞内の情報伝達にのみ、
働く物質もあるのです。

研究のピットフォールのようなものの1つが、
こうしたところにあるように思います。

この発見が骨粗鬆症のメカニズムの解明と、
その治療法の進歩において、
どの程度の重要性を持つことになるかは、
まだ明らかではありませんが、
骨の加齢による減少の大きな要素として、
骨芽細胞の分化が刺激されずに脂肪細胞化することが、
重要な意味を持つことは間違いがなく、
今後の研究の進展を期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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