SSブログ

銀杏中毒とそのメカニズム [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
銀杏中毒論文.jpg
世界で初めて、
銀杏中毒のメカニズムを解明したとされているのが、
こちらの文献になります。

Chem.Pham.Bullという雑誌に1985年に載ったものですが、
この雑誌は実は日本薬学会の発行しているもので、
それも簡易論文的な扱いのものです。
これまでにない発見の割には、
現物を見るとちょっと脱力する感じがありますが、
銀杏を食べるというのは、
日本と東アジアの一部にのみ見られる習慣のようですから、
世界的には注目されないのは、
仕方のないことかも知れません。

イチョウの実である銀杏を炒って食べるのは、
日本人の昔からの習慣ですが、
中毒のあることも昔から知られていて、
節分の時に年の数だけの豆を食べるのは、
「年の数以上は食べてはいけない」
という裏の意味合いがあり、
「銀杏は年の数以上食べてはいけない」
という言い伝えが残っているようです。

文献的にも1881年に既にお子さんの死亡事例の報告があり、
「銀杏実は多量の青酸を含有するものか」
という面白い表題になっています。

銀杏の食用による死亡の事例は、
第二次大戦の前後に多く報告され、
1960年代以降は減少していますが、
最近でも症例報告は時々あり、
2010年には成人女性が60個の銀杏を食べ、
吐き気やおう吐などの中毒症状を認めています。
また、お子さんにおいては、
痙攣を示す事例が多く報告されています。

全ての中毒患者さんの8割以上がお子さんで、
特に3歳未満が多いと報告されています。

概ね小児で7個以上、大人では40個以上の摂取により、
摂取後6時間以内に発症することが多いとされていますから、
「年の数以上は…」という昔の知恵は、
かなり正確なものであったことが分かります。

何故銀杏で中毒が起こるのでしょうか?

その原因を解明したのが、
上記の文献で、
銀杏の実の成分を分析し、
そこにMPN(4'-methoxypyridoxine)という物質が含まれていることを、
確認しています。

このMPNはビタミンB6に構造が似ていて、
ビタミンB6に拮抗します。

脳において興奮性の伝達物質であるグルタミン酸は、
ビタミンB6の働きの助けを借りて、
抑制性の伝達物質であるGABAに変換されますが、
これをMPNが阻害するので、
結果として脳内にグルタミン酸が過剰になり、
痙攣などの脳の興奮症状を引き起こす、
と考えられています。

この毒性は、
身体にビタミンB6が不足しているほど強く働くので、
同じ量の銀杏を摂取していても、
栄養状態が悪ければ、
中毒が起り易くなります。
第二次大戦前後の中毒の増加は、
その栄養状態と関わりが深い、
と考えられています。

治療は全身管理と対処療法が主体となりますが、
痙攣に対しては、
ビタミンB6の活性を持つ、
PLPという物質の注射が有効とされています。

ご存じの方も多いかとは思いますが、
銀杏の食べ過ぎには、
くれぐれもご注意下さい。
また、10歳以下のお子さんに、
銀杏を食べさせてはいけません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(37)  コメント(9)  トラックバック(1) 

nice! 37

コメント 9

オレンジ

銀杏中毒について全く知りませんでした。
実家が銀杏を食べることがなかったので、実家を離れた私が銀杏をお店で購入するようになったのはここ数年の話です。
もともと30個程度しか入っていないので1度に60個などを食べることはないのですが、びっくりしました。

せっかくの冬の味覚なので子どもにも与えたのですが、子どもは好きではないようで1つしか食べなかったのですが、気軽に与えないようにします。

パッケージには中毒について一切表示がないので、表示してほしいです。早速要望してみます。
by オレンジ (2012-12-17 10:32) 

MDISATOH

Dr.Ishihara大変勉強になる記事でした。銀杏の実に毒性が有る事は、知って居ましたが、脳内でのGAD(グルタミン酸デカルボシキラーゼ)の補酵素ビタミンB6の阻害に依るGABA合成の低下に依るもので
有る事を今迄知りませんでした。私自身双極Ⅰ型障害で一日に1200mgのデパケンR(バルプロ酸Na)を飲まなければならず、
バルプレイトの作用機構として脳内のGABAを増加させるとされていますので、御節料理での銀杏の実を控えさせて貰います。
by MDISATOH (2012-12-17 10:45) 

やまゆり

いつも興味深く読ませていただいております。今回の記事とは別の話なのですが、先生のお考えを伺いたくコメントいたしました。

私は30代女性なのですが。三年ほど前に自分で首にしこりを見つけ、病院で.腺腫様甲状腺腫 があることが分かりました。二センチ程の物です。それ以来毎年一年検診に行き、血液検査、エコーをしておりますが、大きさは変わっておりません。最近疑問に思ったのですが、この定期健診の意義というのはどういったものになるでしょうか?大きさが変化していないか、癌が含まれていないかなどをみるためとは思いますが、毎年する必要があるのかなと思い始めました。

仮に癌が見つかったとしても、ほとんどはゆっくり成長するもの!?と考えると毎年する必要はあるのかと思ってしまいます。
腺腫様甲状腺腫をもっていると発癌リスクはあがるのでしょうか?たとえば胃がん検診などはある年齢から毎年行われますが、甲状腺がん検診というものはないですよね?それなのに腺腫様甲状腺腫があるがゆえに毎年というのはなぜでしょうか?

先生が甲状腺に関する記事をよく書かれているのでいつもとても勉強になります。

先生のお考えを聞かせていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
by やまゆり (2012-12-17 16:30) 

fujiki

MDISATOH さんへ
いつもお読み頂きありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。
by fujiki (2012-12-18 08:16) 

fujiki

オレンジさんへ
コメントありがとうございます。
お子さんの食べ過ぎには、
特にご注意下さい。
by fujiki (2012-12-18 08:16) 

fujiki

やまゆりさんへ
腺腫様甲状腺腫と一口に言っても、
色々な種類があり、
しこりの一部に気になる部分があれば、
フォローは必要だと思いますし、
たとえば全く嚢胞のみが存在するようであれば、
必ずしも毎年フォローするような必要性はないと思います。
基本的には良性の結節は、
癌化はしないのが原則ですから、
良性の結節のみであることが明らかであれば、
フォロー自体必要のないことになります。

ただ、実際的には良性の結節と、
悪性の結節とを、
超音波所見のみで完全に鑑別することは不可能なので、
何らかのフォローは必要で、
その間隔は超音波所見からの、
判断に委ねられる部分が大きいように思います。

もう1つは、
遺伝性の内分泌癌の可能性や、
過去の放射線被ばくの有無など、
甲状腺癌のリスクが、
別箇にあるかどうかですが、
文面を拝見する限り、
それはないように思います。

3年間変化の全くないもので、
悪性を示唆する所見がないものであれば、
端的に言えばその意義は少なく、
欧米的なコスト意識の観点に立てば、
中止しても良いように思います。

ただ、フォローの途中で癌の発見される可能性は、
それでも皆無ではありません。

次回の受診時に、
その点を主治医の先生に、
直裁にお聞き頂くのが良いように思います。

医者は概ね、
定期的に念入りにフォローしている方が、
患者さんも安心してくれている、
と思いがちなので、
超音波所見から見た、
フォローの意義とその適切な間隔の設定については、
ご相談されるのが良いように思います。

ご参考になれば幸いです。
by fujiki (2012-12-18 08:29) 

ちばおハム

恥ずかしながらまったくしりませんでした。
年の数食べるというのは、節分の時に聞かされて育っていましたが、こんな医学的に根拠があったとは驚きです。
by ちばおハム (2012-12-18 15:14) 

やまゆり

先生、ありがとうございました。

シコリの状態、全くどのような状態か聞かされておりませんでした。情けない!

次回検診の適切な感覚も含め、きちんと説明を受けてこようと思います。

とても参考になりました。ありがとうございました。
by やまゆり (2012-12-18 16:02) 

fujiki

ちばおハムさんへ
コメントありがとうございます。
昔の知恵は馬鹿にならないですね。
by fujiki (2012-12-19 08:19) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 1