SSブログ

ダウン症候群の出生前診断について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談に廻る予定です。

明日木曜日(12月20日)は、
石原が整形外科受診のため、
午後の診察は3時半で終了とさせて頂きます。
ご注意下さい。

それでは今日の話題です。

妊娠中の女性の血液で、
簡単に胎児のダウン症候群などの染色体異常が、
ほぼ100%の精度で分かる検査があり、
その適応をどうするかが、
報道などで問題になっています。

先日学会の指針が発表され、
来年春には決定される予定です。

その検査とはどのようなもので、
そこにどのような問題があるのでしょうか?

ダウン症候群は1000人~800人の出産に1例程度の比率で発症する、
最も頻度の多い染色体異常です。
その異常は21トリソミーと呼ばれ、
本来は1対で2本の染色体が、
21番目のもののみ3本になっている、
という性質のものです。

この異常を妊娠の初期に、
診断する方法はないでしょうか?

幾つかの方法があり、
これを総称して出生前診断と呼んでいます。

現在通常に臨床で行なわれているのは、
クアトロテストと呼ばれる、
血液で4種類のマーカーを測る方法と、
羊水や絨毛を針を刺して検査する方法です。

ただ、クアトロテストは、
直接染色体異常を検査しているのではないので、
その結果も確率としてしか分からず、
それだけで意味を成すものではありません。

要するに、クアトロテストでダウン症候群の可能性が高い、
という結果が得られれば、
羊水検査の施行を検討することになる訳です。

しかし、
羊水検査は母体に針を刺して羊水を採取する検査なので、
それ自体に流産などのリスクがあります。
絨毛の細胞を採取するような検査もありますが、
診断はほぼ確定する一方、
流産のリスクもより高いものになります。

ここにおいて、
母体に負担を掛けずに、
胎児のダウン症候群の確定診断を、
するための検査が求められることになったのです。

こうした方法の1つが、
母体の通常の血液の採取で、
胎児の染色体の異常を判定する、
セルフリーDNA検査や、
massively parallel genomic sequencing method
と呼ばれる方法です。

何故母体の採血をするだけで、
胎児の染色体異常が判断出来るのでしょうか?

それは、
胎児の遺伝子の断片が、
ごく僅かですが母体の血液の中に、
混入しているからです。

その遺伝子の断片を集め、
ダウン症候群であれば、
21番目の染色体のみその数が多いのですから、
それを解析するのです。

この手法は、
1990年代の後半から、
理論的には論文になっていて、
2000年代の後半に微量のサンプルから、
迅速に特定の遺伝子の断片を、
解析する技術が実用化されたことにより、
一気に実用化の道が開かれました。

昨年に相次いで、
その検査の精度を検証する論文が出ています。

こちらをご覧下さい。
BMJ 出生前診断の精度.jpg
これはBritish Medical Journal誌に掲載されたもので、
高齢などダウン症候群の出産リスクの高い、
753名の妊娠中の女性を対象とし、
このうち86名がダウン症候群と診断されました。

出生前診断を、
このセルフリーDNA検査と、
絨毛の細胞を取るなどして、
細胞の遺伝子そのものを調べる検査とで比較すると、
この試験では2種類の方法が使用されていますが、
その診断率の高い方では、
86例のダウン症のお子さんでは、
その全てで検査は陽性となり、
ダウン症ではないお子さん146例を検査すると、
そのうちの143例は陰性で、
3例は陽性となりました。

つまり、
偽陽性が2.1%は認められています。

それでは次をご覧下さい。
GIM 出生前診断の精度.jpg
こちらは同年に少し遅れて発表された、
Genetics in Medicine誌の論文ですが、
同様の検討を、
212例というより多くのダウン症の胎児と、
ダウン症ではない1471例のお子さんで行なっています。

結果は212例中209例で検査は陽性となり、
ダウン症の正診率は98.6%、
ダウン症ではないお子さん1471例中、
3例は陽性となっていますから、
偽陽性は0.2%に認められています。

報道などでは99%以上診断が確定する、
と書かれていますが、
陰性であればほぼダウン症は否定されますが、
陽性であっても、
実際にはそうではないケースは、
皆無とは言えない訳です。

この結果と妊娠継続の判断が、
お母さんとご家族のご判断に委ねられるとすれば、
非常に難しいところです。

この検査で判明するのは、
基本的に染色体の数や種類に異常のあるケースの、
染色体異常のみです。
また双子などのケースでは、
複数の胎児の遺伝子が入り混じるので、
この方法での診断は困難です。

現行商品として販売され、
今回日本での検査が検討されているのは、
21トリソミーであるダウン症以外に、
13トリソミーと18トリソミーの、
3種類の診断が可能なもので、
同一の検査をすることによって、
この3種類の染色体異常の可能性があるかどうかが、
母体の採血のみで判断が可能となるのです。

ただ、
13トリソミーと18トリソミーに関しては、
ダウン症のような精度の解析のデータは、
存在しないのではないかと思います。

この検査は研究用というような名目で導入されるようですが、
実際的には現時点で既にその有用性は確立しているので、
研究としてあまり意味のあるもののようには思えません。

絨毛などの採取による遺伝子検査は、
その気になれば胎児の全ての遺伝子の解析が可能なので、
人間の発達と先天異常や習慣流産のメカニズムを解読する上で、
科学的には大きな意義を持つものですが、
それと今回の検査とはまるで性質が異なります。

これは矢張り妊娠初期に染色体異常の有無を診断することにより、
ご家族の妊娠継続への判断材料として、
使用されるものなのだと思います。

その意味で、
命の選別に使われる…
というような指摘は事実なのですが、
実際にはクアトロテストでリスクが高いという結果であれば、
流産のリスクがあっても、
羊水検査が行われ、
その結果により妊娠の継続を取りやめるという決断が、
実際の臨床において、
行なわれているのですから、
この検査のみを使用不可とするのは、
あまり意味のあることではなく、
むしろトータルに出生前診断の議論をするのでなければ、
意味がない、という気がします。

医療の規制緩和というのは、
概ねこうした検査や治療が、
自由に患者さんの判断で、
出来るようになることを意味しています。

命の選別を許すな、
と言われる方が、
医療の規制緩和を進めて経済を活性化させろ、
と同じ口で言われるようなことがありますが、
現実的には医療の規制が緩和されれば、
同時にこうした問題も、
より大きく複雑化することに繋がるのです。

規制緩和を叫ばれる方も、
こうした問題があるということを、
心の片隅に置いて、
つぶやいたり叫んだりして頂ければと思います。

今日は出生前診断の問題を考えました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(34)  コメント(2)  トラックバック(0) 

nice! 34

コメント 2

あい。

血族結婚を避けるのは、重い障害を持った子が生まれる確率が
高まるからだと聞きました。わざわざ、生きにくい子を作る必要は
ないと思います。だけど、愛し合うのは自由でいいと思っています。

わたしは、遺伝する病気を持った人に限り、妊娠中に検査をしても
よいと思います。それは、その遺伝病が蔓延しないようにするため
です。もし蔓延してしまったら、人類絶滅の危機が来るかもしれません。

わたしが遺伝性のパーキンソン病であることが最近分かりました。
18,19,20歳の子供がいます。この子たちには、結婚や子供を
作ることに関して、よく考えるように言うつもりです。 

by あい。 (2012-12-20 00:19) 

fujiki

あいさんへ
コメントありがとうございます。
研究自体は必要なものだと思いますが、
それをどう生かすかは、
非常に難しい問題のように思います。
by fujiki (2012-12-20 08:20) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0