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外傷性出血患者の死亡リスクを考える [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
外傷患者の死亡リスク論文.jpg
先月のBritish Medical Journal誌に掲載された、
交通事故などの外傷で出血を来たした患者さんの、
予後を分析した論文です。

交通事故や暴力行為などの外傷で、
出血を来たした患者さんが、
世界中の救急病院に途切れることなく運ばれ、
そこで献身的な医療スタッフによる、
懸命の治療を受けます。

僕がまがりなりにも救急をしていたのは、
バイトを含む10年くらいの期間だけですが、
とても自分には勤まらないと思いましたし、
救急をされている先生のことを、
尊敬する気持ちは強く持っています。

経済学者の方とか国際何とか学者の先生などは、
救急と外科の医者以外の医者などは不必要で、
誰がやってもいいのだ、
というようなことをよく言われていて、
「誰にでも勤まる、いなくてもいい存在」の1人としては、
切ない気分になりますが、
一面の真理であり、
多くの一般の方が、
そう思われていることは理解出来ます。
それに比べると、
経済学者や国際なんたら学者というのは、
さぞかし世界にとって、
必要不可欠な尊い存在なのでしょう。

でも、
それがどんなに詰まらない仕事に見えても、
他人の仕事を「要らない」
と言うのは、
それがどんな文脈であれ、
あまり心の清い人の発言ではないように、
心密かには思います。
その一方で、
ご自分に自信のある才能に溢れた方は、
他人を足蹴にするようなことを、
平気で言えて羨ましいな、
とも思います。

話が逸れました。

論文の中の記述によれば、
外傷患者の44%は病院に運ばれてから亡くなっている、
という統計があるそうです。

トリアージという概念があります。

患者さんをその重症度や治療の緊急性で分類し、
より緊急性の高い患者さんから、
治療を行なう、
という考え方です。

こうした考え方は、
非常に理に適ったものですが、
これが成立するためには、
血圧や年齢、意識レベルなど、
診察の所見から得られる情報のみから、
ある程度その患者さんの生命予後を予測することが必要です。

つまり、
どのような患者さんがリスクが高いのか、
という点についての、
トリアージの裏打ちとなるデータが、
必須ということになるのです。

上記の文献の記載によれば、
残念ながらこれまでその点についての、
精度の高いデータは、
あまり存在していませんでした。

そこで今回の研究では、
CRASH-2と名付けられた大規模な臨床試験のデータと、
TARANと名付けられた外傷患者さんのデータベースを元にして、
トータル3万人を超える患者さんのデータより、
どのような臨床指標を持つ患者さんが、
その死亡リスクが高かったのかを、
検証しています。

その結果はどのようなものだったのでしょうか?

こちらをご覧下さい。
外傷患者の死亡リスクの階層化の図.jpg
データを元にした、
階層化の図がこちらになります。

指標として用いられているのは、
年齢と上の血圧の数値、
そしてGCS(グラスゴー・コーマ・スケール)と呼ばれる、
日本でも使用されている、
患者さんの意識レベルの数値です。
この数値は少ないほど、
意識レベルの悪い状態であることを示しています。

受傷後8時間以内の病院に運ばれた患者さんが、
その後の4週間以内に、
死亡するリスクが%で表示されています。

色がオレンジで一番濃い部分は、
4週間以内の死亡リスクが、
50%を超える、
という、最も重症の状態を示しています。

この階層化の興味深い点は、
世界銀行の指標による、
高所得の地域と低所得の地域、
そしてその中間の地域という、
地域の金銭的な豊かさと、
リスクとの関連性を同時に見ていることです。

ここから、
幾つかの重要な情報が得られます。

これまでの重症度の振り分けの指標は、
主に血圧の数値のみが使われていました。

出血が多ければ、
それだけ血圧が低下し、
重症度も重くなる、
という理屈です。

しかし、
高齢者であったり、
意識レベルが低下していたり、
所得の低い地域であったりすれば、
血圧はそれほど低下していなくても、
よりその後の死亡リスクは高まる可能性があり、
複数の指標を用いた振り分けの方が、
患者さんの実態を反映している可能性があるのです。

どのような患者さんにどのような治療を選択し、
どのような治療効果を期待するか、
という点について、
今回の階層化のデータは、
これまでより一歩進んだ治療の可能性を、
提示するものではないかと思います。

もう1つ今回のデータから分かることは、
このお金本位の世界においては、
死亡リスクはその地域の所得レベルによって、
間違いなく大きな影響を受ける、
ということです。

日本においてはつい最近まで、
こうした考え方は遠い世界の話のように、
認識されていましたが、
現在では勿論そうではありません。

医療経済は逼迫しており、
日本がこのまま衰退の道を辿るとすれば、
医療レベルは間違いなく、
上の図の低所得層の場合に近付きます。

「貧しくても人間らしく生きられれば良いではないか」
というような発言を、
自分は貧しさとは無縁のセレブの方がされることが、
最近はよくありますが、
少なくとも医療に関しては、
現実はそれほど甘いものではなく、
現在全ての方に、
一定のレベルの医療が提供されているのは、
あくまで日本のトータルとしての、
金銭的な豊かさの裏打ちがあるからで、
それがなくなれば、
簡単にその底は抜けます。

勿論お花畑のような理想を語る自由は、
誰にでもある訳ですが、
少なくとも政策決定に関わるような人達は、
全てのデータを冷酷かつ冷静に分析した上で、
この荒廃した世界を見据えて、
情に流されることのない、
バランスの取れた決定を、
して頂きたいと思います。

今日は外傷患者さんの予後の階層化を考えました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 4

末尾ルコ(アルベール)

> 必要不可欠な尊い存在なのでしょう。

朝からニヤリとしてしまいました。

先だって間違って(笑)ヘンな掲示板をのぞいてしまい、相も変らぬ愚劣な書き込みのオンパレードに辟易。
「尊い存在」の方々も含め、他者を気遣うという最低限のことができない下司がどれだけ多くなっていることか…。

                                RUKO

by 末尾ルコ(アルベール) (2012-09-24 08:42) 

ルルミク

今日の話題についてではないので、恐縮ですが、ここ数日、ぎっくり腰で寝込んでいて、ロキソニンとミオナールの薬について検索していたら、以前の先生のブログが、出てきてビックリ!何がビックリて、ただ何となくうれしかっただけなんですが…。f^_^;)
やっぱ本当に尊敬してしまいます!(埼玉の主婦)
by ルルミク (2012-09-24 18:51) 

fujiki

RUKO さんへ
コメントありがとうございます。
あのギスギスした感じは、
本当に嫌ですね。
by fujiki (2012-10-09 23:06) 

fujiki

ルルミクさんへ
コメントありがとうございます。
僕もうれしいです。
これからもよろしくお願いします。
by fujiki (2012-10-09 23:07) 

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