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動脈硬化の予防をどう考えるか? [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日は昨日に引き続いて、
動脈硬化性疾患の予防についての話です。

コレステロールを低下させる、
スタチンというタイプの治療薬を、
飲まれている方は、
非常に多いのではないかと思います。

スタチンの登場により、
強力にコレステロールを下げることが可能となり、
それにより動脈硬化に起因する病気、
特に心筋梗塞などの心臓病の再発が、
著明に減少することは、
多くの世界規模の臨床試験によって、
確認された事実です。

従って、
コレステロールの値が正常値を超えていて、
こうしたご病気をされた方にとって、
スタチンを使用してコレステロールを下げることは、
非常に有用な治療であることは、
間違いがありません。

これを心筋梗塞の二次予防と言います。

しかし、
問題はまだ心筋梗塞などの病気が起こる前に、
スタチンを使用してコレステロールを下げることが、
その方にとって、
将来的な病気を予防することになるのだろうか、
ということにあります。

誰だって、
病気になってからより、
なる前に予防出来れば、
それに越したことはない、
と思います。

これを一次予防と言い、
二次予防での予防効果が確立された治療は、
何となく一次予防にも有効性があるように思いますが、
実際にはそれは必ずしも正しい考え方ではありません。

一次予防の対象者には、
病気にならない人の方が、
実際にはずっと多いので、
治療が実際に予防に結び付くのは、
そのうちの少数にしか過ぎないからです。

これまでの治療の基準は、
悪玉コレステロールの数値が随分高いですね、
それじゃ、お薬を使って下げましょう、
というようなものでした。

しかし、
それではお薬が必要な方以上に、
実際には不必要な方により多く薬が使用される、
という事態になってしまいます。

こうした事態を避けるためには、
一次予防の対象者を絞り込み、
よりその必要性が高く薬のメリットが期待出来る集団に限って、
薬を処方するのが適切だ、
ということになります。

そのために活用された方法が、
「リスクの階層化」という手法です。

つまり、その方のコレステロールの数値のみならず、
年齢や血圧、糖尿病の有無などの情報から、
そのまま治療を行なわない場合に、
どれだけの確率で心筋梗塞などの病気になりそうかを、
疫学的に計算し、
その確率が一定レベルを超える場合に限って、
投薬などの積極的な介入を行なう、
というのです。

アメリカでは、
フラミンガム研究という大規模な疫学データを元にして、
心筋梗塞や脳卒中などの病気を、
その後10年間に発症する確率を算出し、
それが10%を超える状態を、
高リスクとして、
投薬などの治療を検討する、
という手法が取られています。

こちらをご覧下さい。
フラミンガムスタディ論文.jpg

フラミンガム研究による階層化を活用した、
コレステロールの管理基準の文献です。

そこに載せられている階層化のチャートがこちら。
フラミンガムスタディ階層化の表.jpg

細かくて見辛いと思いますので、
具体例で説明します。

たとえばSさんという65歳の男性がいて、
血圧は145/80、総コレステロールが265mg/dlで、
タバコを吸い、糖尿病はなく、
HDLコレステロールは45mg/dlで、
特にご病気の既往はないとします。

階層化の順序としては、
まず喫煙と高血圧と年齢の、
3つのリスクがある、
という判断になり、
2つ以上のリスクのある場合には、
アメリカの計算式で計算すると、
Sさんの今後10年間の、
心筋梗塞や脳卒中の発症リスクは、
16%になり、
これは中等度のリスクのある状態、
という判断になるので、
Sさんの悪玉コレステロールの目標値は、
130mg/dl未満ということになります。

このように、
階層化により治療の目標が違うのです。

ただ、
それではこの結果を、
そのまま日本に住む人に適応出来るかと言うと、
そうはいきません。

何故なら、
動脈硬化性疾患のうち、
アメリカで多いのは圧倒的に心筋梗塞ですが、
日本では心筋梗塞より脳卒中の方が、
ずっと多いからです。

これでは、
全く比較にはなりません。

そのため、
日本の今年のガイドラインでは、
NIPPON DATA80という日本の疫学データを元に、
同様のフローチャートを作成しています。

上記の同じSさんを、
その基準で算定すると、
その後10年間の心筋梗塞等心臓病の死亡リスクが、
2~5%未満と判断され、
その予防のための悪玉コレステロールの目標値は、
120mg/dl以下と判断されます。

この2つの判断の違いを、
皆さんはどうお考えになりますか?

元になっているデータの結果が異なるため、
多くの点で違いが生じています。

アメリカの基準では、
心筋梗塞などの心臓病と脳卒中とは一括りにされ、
両者の病気の発作の起こるリスクが計算されています。
治療によりコレステロールを下げることにより、
このリスクが減る、
ということは、
それだけ発作を起こすことが予防出来る、
ということを示しています。

しかし、
日本の疫学データでは、
より多い脳卒中で、
コレステロールと発作との関連性が、
認められていません。

つまり、
コレステロールを治療で下げても、
脳卒中が予防出来る、
という根拠が存在しないので、
心筋梗塞などの心臓病のみで議論をし、
かつ発症率のデータがないので、
死亡リスクでの解析になっています。

このように、
日本の今年改訂されたガイドラインの階層化は、
アメリカのそれと比べて、
かなり限定されたものになっています。

従って、
日本におけるコレステロール低下療法の意義も、
アメリカのそれと比較すると、
かなり限定的なものである、
と言って間違いはないように思います。

アメリカにおいては、
非常に多い心筋梗塞や狭心症のみならず、
比率的には少ない脳卒中を含めた、
動脈硬化性疾患全体の起こるリスクを、
コレステロールを下げることによって改善出来る、
という考えのもとに治療が行われるのですが、
日本においては、
より多い脳卒中の予防効果は不確かで、
欧米と比較すれば少ない心筋梗塞の、
それも発作により死亡するリスクを、
減少させることを期待して、
治療が行われるのです。

この差はかなり大きいと、
考えるべきではないでしょうか?

それでは今日のまとめです。

今年日本の動脈硬化性疾患のガイドラインが改訂になり、
欧米と同じ絶対リスクの階層化が導入されましたが、
元になる疫学データの限界から、
日本のものは心筋梗塞や狭心症の死亡リスクのみしか、
階層化が可能になっておらず、
その限界をよく考えた上で、
コレステロール低下療法の適応は考えるべきだと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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