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ワクチン接種後の熱性痙攣及びてんかん発症リスクについて [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
ワクチンによる熱性痙攣論文.jpg
Journal of American Medical Association 誌に今年の2月に掲載された、
ワクチン接種と熱性痙攣及びてんかん発作の、
発症リスクについての文献です。

ワクチン接種後には、
その当日や翌日に、
一時的に発熱する副反応があり、
それに伴い痙攣を来すことがあります。

その報告が特に多いのは、
百日咳のワクチンです。

ただ、その頻度が多かったのは、
主に「全菌体型ワクチン」の時代です。

ワクチンには実際のウイルスなどの微生物を、
弱毒性にして感染させる生ワクチンと、
微生物自体を殺して利用したり、
その微生物の構成成分の1部のみを利用した、
不活化ワクチンの2種類があります。

現在では、
遺伝子レベルでの操作を行なって、
抗原部分のみを再構成したり、
そこに免疫増強剤を加えたりといった、
高度な技術が使用されるようになっていますが、
昔の不活化ワクチンは、
菌そのものを、
死滅させて処理しただけのワクチンが、
主流になっていました。

インフルエンザワクチンもそうでしたし、
百日咳のワクチンもそうだったのです。

一般に全菌体型のワクチンの方が、
発熱などの副反応は、
より強い傾向があります。

特に百日咳の全菌体型のワクチンは、
発熱ばかりではなく、
熱性痙攣やてんかん発作などの発症頻度が高く、
痙攣を伴う重症の神経疾患の発症との関連性も、
示唆されたことがあります。
ただ、この神経疾患に関しては、
単純にワクチンのみと関連した訳ではなく、
遺伝子レベルの異常のあるお子さんに限って、
生じた現象と現在では考えられています。

現在使用されている百日咳のワクチンは、
細菌の毒素を抗原としたワクチンで、
「全菌体型」ではなく、
より安全性が高いと考えられています。
少なくとも、発熱の頻度は減少しています。

このワクチンは日本では、
3種混合ワクチンとして、
ジフテリア、破傷風の毒素抗原と一緒に接種する形になっていて、
近い将来には不活化ポリオワクチンと、
混合した4価のワクチンになる予定です。

欧米ではそれに更にヒブワクチンを加えた5価のワクチンや、
それに更にB型肝炎ワクチンまで加えた、
6価のワクチンが使用されています。

厳密に言うと、
百日咳の毒素抗原が、
1種類のものと数種類のものとがあって、
その性質は若干違う可能性があります。

今回の論文の対象になっているのは、
この欧米で使用されている5価のワクチンです。

このワクチンについては、
イギリスでの疫学研究で、
接種した当日の痙攣の頻度が、
ワクチン未接種時の2倍になった、
という報告があります。
また、3種混合のワクチン接種当日の痙攣リスクが、
未接種時より3割多かった、
というアメリカの報告もあります。

ただ、いずれの報告も、
実際の事例数は少ないので、
統計的な有意差は出ていません。
また、熱性痙攣とそうでない痙攣との、
区別も明確ではありません。

実際に現在使用されている、
百日咳抗原を含むワクチンに、
どれだけの痙攣リスクがあるのでしょうか?
それは熱性痙攣だけなのでしょうか?
それともてんかん発症のリスクもあるのでしょうか?

こうした点を明らかにするために、
今回の文献はデンマークの出生調査のデータを元に、
ワクチン接種後1週間における、
熱性痙攣の発症を検討すると共に、
その後のてんかんの発症率も検証しています。

デンマークで2003年~2008年に出生した、
赤ちゃん約38万人を対象とし、
18ヶ月未満での熱性痙攣の事例も、
7800例以上を抽出した、
非常に大規模なデータです。

その結果はどのようなものだったのでしょうか?

ワクチンの接種は生後3ヶ月、5ヶ月、12ヶ月で施行されています。
日本の3種混合と比較すると、
1回少ないのです。

そして、
明確になったことは、
初回接種と2回目の接種の当日に起こる熱性痙攣の頻度は、
未接種者と比較して有意に多い、
ということです。

具体的には、
初回接種当日の熱性痙攣の相対リスクは6.02倍となり、
2回目の接種当日では3.94倍となっています。

ただし、この時期はまだ、
熱性痙攣の発症数自体が少ないので、
絶対リスクとしては、
10万接種で4例未満の増加、
という程度に留まっています。

接種後1週間という幅を取ると、
有意な差は出ませんでした。
つまり、熱性痙攣の増加は、
ほぼ接種当日に限定された現象です。

3回目の接種においては、
未接種との比較で有意な差はついていません。
ただ、3度目の接種時にも、
頻度的には左程変わらない熱性痙攣の事例があって、
要するに、
3回目の接種時の生後12か月の時期は、
熱性痙攣の発症自体が多いので、
トータルに差の出るような結果にはならない、
ということではないかと思います。

つまり、
百日咳毒素を含むワクチンの接種において、
その当日には、
未接種時の数倍の熱性痙攣の発症リスクがあり、
それは接種の回数にはあまり影響はされない可能性が高い、
ということです。

熱性痙攣自体は、
予後の良い症状ですが、
問題はその後のてんかんの発症などに、
影響を及ぼしてはいないかどうか、
という点です。

今回の研究においては、
接種後7年間のフォローアップのデータを取り、
てんかんの発症や痙攣の再発の有無を検証しています。

その結果、
てんかんの発症率は生後3~15ヶ月では、
未接種者よりワクチン接種者の方が低く、
それ以降では違いはない、
というデータが得られました。

これはワクチンによりてんかんが予防された、
という意味ではなく、
てんかんと診断されたお子さんや、
痙攣の発作を起こしたお子さんは、
ワクチンの接種を見合わせることが多いので、
そのためのバイアスが掛かったものと考えるのが妥当だと思います。

つまり、
ワクチン接種の当日には、
確かに熱性痙攣のリスクは上昇しますが、
それは将来的なてんかんの発症とは、
無関係と考えられます。

それでは今日のまとめです。

百日咳の毒素を含むワクチンにおいて、
接種当日の熱性痙攣の増加が認められます。
これが発熱のみを原因とするものか、
それ以外に原因があるのかは不明ですが、
こうした現象のあること自体は事実で、
3種混合の接種をされた当日は、
お母さんはその点への注意が必要です。

データは海外のもので、
日本のワクチンにそのまま適応されるものではありませんが、
複数の同種のワクチンで、
別箇の国や地域でも、
同様のデータのあることから、
日本の3種混合ワクチンでも、
同様のリスクはあると考えるのが妥当です。

ただし、
海外のデータを見る限り、
その頻度は低く、
熱性痙攣自体の予後は良いので、
接種自体を見合わせる必要は、
現時点ではありません。
てんかんの発症に結び付く可能性も、
現時点ではないと考えられます。

今日はワクチン接種後の、
熱性痙攣とてんかん発症リスクについての話でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 2

ちばおハム

予防接種後の1日の経過観察の必要性についてよくわかりました。
接種時にもう少しその点をわかりやすく説明してくれるといいですね。うちの子たちも予防接種を受けてきましたが、接種時その点についての説明をうけたという印象が残っていません。
けいれんを起こしたらどうするか、というところまで説明があったらいいなと思いました。
by ちばおハム (2012-05-25 05:29) 

fujiki

ちばおハムさんへ
コメントありがとうございます。
接種当日の熱性痙攣が多いかどうかというのは、
日本では検証は難しく、
あまりしっかりとしたデータはないのではないかと思います。
ただ、そうしたケースのあることは確かです。
by fujiki (2012-05-25 08:39) 

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