新規抗凝固剤「イグザレルト」の話 [医療のトピック]
こんにちは。
六号通り診療所の石原です。
朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
予定では今週中に、
新規抗凝固剤「イグザレルト」が発売の予定です。
一般名はリバロキサバンです。
この薬は日本では初めての、
Ⅹa因子阻害剤です。
昨日と同じ話になりますが、
所謂「血をサラサラにする薬」には、
大きく2つの種類があります。
その1つは抗血小板剤で、
これは止血の初期段階の、
血小板による傷を塞ぐ糊のようなものを、
作り難くする薬です。
そして、抗凝固剤というのは、
より止血を完全にするために、
血の一部が固まるのを、
抑える作用の薬なのです。
従って、血の塊が出来て、
それが飛んで詰まるような病気の場合には、
抗血小板剤ではなく、
抗凝固剤が必要で、
必要な病気の代表が、
心房細動という不整脈と、
足の静脈の血栓症になります。
抗凝固剤の飲み薬には、
長くワーファリンしかなかったのですが、
昨年直接トロンビン阻害剤の、
ダビガトラン(商品名プラザキサ)が発売され、
次に控えているのが、
今回ご紹介するⅩaという凝固因子の阻害剤です。
これには何種類かがあり、
その先陣を切って発売されるのが、
今回のイグザレルトです。
その仕組みはそれぞれ少しずつ違いますが、
その効果は基本的には同じです。
従って、
実際的には、
ワーファリンとその他の薬剤とに、
分けて考えるのが妥当です。
ワーファリンと比較して、
プラザキサやイグザレルトのメリットは、
納豆を食べてはいけない、
などの生活の制限がないことです。
ただ、ワーファリンはPT-INRという検査で、
その効果をチェックすることが出来ますが、
プラザキサやイグザレルトには、
そうした検査が存在しません。
プラザキサの発売当初は、
効果が安定していることが宣伝され、
検査をする必要がない、
ということで、
それはむしろ患者さんにとってのメリットだと、
考えられましたが、
発売以降、
特にご高齢の患者さんで、
腎機能の低下等の要因から、
出血系の合併症が増加し、
検査で効果を確認出来ないことが、
むしろ問題だと、
考えられるようになったのです。
これは海外でも事情は同じで、
最近のNew England Journal of Medicine誌にも、
何度かそうしたレターが、
複数の国と地域の専門医から寄せられていました。
先行したプラザキサと比較して、
イグザレルトの特徴は何処にあるのでしょうか?
1つのポイントは、
日本独自の用量による臨床試験を、
行なっている、ということです。
海外用量は通常1日20mgですが、
日本での用量は1日15mgとされています。
これで1280例という日本ではあまり例のない、
大規模な臨床試験を行なっています。
これはワーファリンとの比較試験ですが、
70歳以上の年齢では、
PT-INRが1.6~2.6という、
海外の一般的な基準より、
かなりゆるやかなコントロールになっています。
これは一般の臨床で行なわれている、
ワーファリンの使用にかなり近いものです。
プラザキサも大規模な臨床試験を行なっていて、
その中には日本人の事例も含まれていますが、
海外と同一の試験であるため、
用量は海外と同じで、
ワーファリンの使用量も、
海外と同じに、
厳しいコントロールがされています。
つまり、
実際の臨床とは、
やや乖離した形で、
プラザキサの臨床試験は行なわれていて、
それが実際に使用されるようになってから、
それまでにあまりなかった副作用が、
問題となった一因があると、
考えられるのです。
その意味では、
一般の臨床とほぼ同一の条件で、
ワーファリンとの比較が行なわれたことは、
非常に意義が大きいと思います。
その結果…
ワーファリンと比較して、
脳卒中や全身性の塞栓症のリスクは、
51%の低下が認められました。
ただし、統計的に有意差は認められていません。
このタイプの検定には、
1000人程度の例数では、
不充分なのです。
ただ、その安全性に関しては、
ワーファリンと同等かそれ以下であることが、
有意に確認されました。
ただ、プラザキサの臨床試験と比較すると、
イグザレルトの臨床試験は、
より血栓症のリスクが高い対象者を、
絞り込んだ試験になっている点には、
留意する必要があります。
つまり、有利な結果が出易い対象者を、
選んでいる傾向はあるのです。
従って、
この結果のみで直接比較をするのは、
ちょっとフェアではありません。
この薬は主に肝臓の代謝酵素のCYPで代謝されるため、
イトラコナゾールのような、
水虫の薬とは併用出来ません。
リファンピシンやエリスロマイシン、
クラリスロマイシンといった抗生物質との併用にも、
注意が必要です。
ただ、概ねワーファリンと比較すれば、
一緒に使用の困難な薬は、
かなり少なくなっています。
この薬を飲んでいて、
胃カメラの検査を行ない、
生検が必要な場合には、
どうするのが良いのでしょうか?
添付文書には24時間は中止とし、
その効果を弱めて使用するのが望ましい、
という趣旨の説明があります。
ただ、僕は観察のみの胃カメラは、
内服のまま行ない、
生検の必要な場合には、
一旦ワーファリンに切り替えて、
その効きを調節し、
コントロールの下限程度で実施するのが、
現時点では妥当な判断なのではないか、
と思います。
今後のデータも参考にしつつ、
この薬の使用については、
当面は慎重に判断したいと思います。
今日は抗凝固剤の新薬の話でした。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
六号通り診療所の石原です。
朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
予定では今週中に、
新規抗凝固剤「イグザレルト」が発売の予定です。
一般名はリバロキサバンです。
この薬は日本では初めての、
Ⅹa因子阻害剤です。
昨日と同じ話になりますが、
所謂「血をサラサラにする薬」には、
大きく2つの種類があります。
その1つは抗血小板剤で、
これは止血の初期段階の、
血小板による傷を塞ぐ糊のようなものを、
作り難くする薬です。
そして、抗凝固剤というのは、
より止血を完全にするために、
血の一部が固まるのを、
抑える作用の薬なのです。
従って、血の塊が出来て、
それが飛んで詰まるような病気の場合には、
抗血小板剤ではなく、
抗凝固剤が必要で、
必要な病気の代表が、
心房細動という不整脈と、
足の静脈の血栓症になります。
抗凝固剤の飲み薬には、
長くワーファリンしかなかったのですが、
昨年直接トロンビン阻害剤の、
ダビガトラン(商品名プラザキサ)が発売され、
次に控えているのが、
今回ご紹介するⅩaという凝固因子の阻害剤です。
これには何種類かがあり、
その先陣を切って発売されるのが、
今回のイグザレルトです。
その仕組みはそれぞれ少しずつ違いますが、
その効果は基本的には同じです。
従って、
実際的には、
ワーファリンとその他の薬剤とに、
分けて考えるのが妥当です。
ワーファリンと比較して、
プラザキサやイグザレルトのメリットは、
納豆を食べてはいけない、
などの生活の制限がないことです。
ただ、ワーファリンはPT-INRという検査で、
その効果をチェックすることが出来ますが、
プラザキサやイグザレルトには、
そうした検査が存在しません。
プラザキサの発売当初は、
効果が安定していることが宣伝され、
検査をする必要がない、
ということで、
それはむしろ患者さんにとってのメリットだと、
考えられましたが、
発売以降、
特にご高齢の患者さんで、
腎機能の低下等の要因から、
出血系の合併症が増加し、
検査で効果を確認出来ないことが、
むしろ問題だと、
考えられるようになったのです。
これは海外でも事情は同じで、
最近のNew England Journal of Medicine誌にも、
何度かそうしたレターが、
複数の国と地域の専門医から寄せられていました。
先行したプラザキサと比較して、
イグザレルトの特徴は何処にあるのでしょうか?
1つのポイントは、
日本独自の用量による臨床試験を、
行なっている、ということです。
海外用量は通常1日20mgですが、
日本での用量は1日15mgとされています。
これで1280例という日本ではあまり例のない、
大規模な臨床試験を行なっています。
これはワーファリンとの比較試験ですが、
70歳以上の年齢では、
PT-INRが1.6~2.6という、
海外の一般的な基準より、
かなりゆるやかなコントロールになっています。
これは一般の臨床で行なわれている、
ワーファリンの使用にかなり近いものです。
プラザキサも大規模な臨床試験を行なっていて、
その中には日本人の事例も含まれていますが、
海外と同一の試験であるため、
用量は海外と同じで、
ワーファリンの使用量も、
海外と同じに、
厳しいコントロールがされています。
つまり、
実際の臨床とは、
やや乖離した形で、
プラザキサの臨床試験は行なわれていて、
それが実際に使用されるようになってから、
それまでにあまりなかった副作用が、
問題となった一因があると、
考えられるのです。
その意味では、
一般の臨床とほぼ同一の条件で、
ワーファリンとの比較が行なわれたことは、
非常に意義が大きいと思います。
その結果…
ワーファリンと比較して、
脳卒中や全身性の塞栓症のリスクは、
51%の低下が認められました。
ただし、統計的に有意差は認められていません。
このタイプの検定には、
1000人程度の例数では、
不充分なのです。
ただ、その安全性に関しては、
ワーファリンと同等かそれ以下であることが、
有意に確認されました。
ただ、プラザキサの臨床試験と比較すると、
イグザレルトの臨床試験は、
より血栓症のリスクが高い対象者を、
絞り込んだ試験になっている点には、
留意する必要があります。
つまり、有利な結果が出易い対象者を、
選んでいる傾向はあるのです。
従って、
この結果のみで直接比較をするのは、
ちょっとフェアではありません。
この薬は主に肝臓の代謝酵素のCYPで代謝されるため、
イトラコナゾールのような、
水虫の薬とは併用出来ません。
リファンピシンやエリスロマイシン、
クラリスロマイシンといった抗生物質との併用にも、
注意が必要です。
ただ、概ねワーファリンと比較すれば、
一緒に使用の困難な薬は、
かなり少なくなっています。
この薬を飲んでいて、
胃カメラの検査を行ない、
生検が必要な場合には、
どうするのが良いのでしょうか?
添付文書には24時間は中止とし、
その効果を弱めて使用するのが望ましい、
という趣旨の説明があります。
ただ、僕は観察のみの胃カメラは、
内服のまま行ない、
生検の必要な場合には、
一旦ワーファリンに切り替えて、
その効きを調節し、
コントロールの下限程度で実施するのが、
現時点では妥当な判断なのではないか、
と思います。
今後のデータも参考にしつつ、
この薬の使用については、
当面は慎重に判断したいと思います。
今日は抗凝固剤の新薬の話でした。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
2012-04-17 08:05
nice!(23)
コメント(3)
トラックバック(0)
先生にはいつも助言頂いてありがたく思っております。この度目にしたニュースで O157の毒素を無毒化に成功 同志社大学研究チーム というものなんですが これが実際に薬剤として出回るにはどのくらいかかると思われますか?私はO157がとても怖く生活に支障をきたし強迫性障害といわれました。なのでもしほんとうにその薬剤がでまわれば 発症そして重症化を防げるとしたら どれだけ救われるか…先生のご見解をお願い致します。
by たけちよ (2012-04-17 13:42)
たけちよさんへ
そのニュースはちらと読みましたが、
まだしっかり内容を確認していません。
ちょっと調べてみますね。
by fujiki (2012-04-18 08:23)
はじめまして。
小さな調剤薬局で管理薬剤師をしている者です。
実際に服用される患者さん(特に一方化されているご高齢の方、施設におられる患者さま)にとり、イグザルトは一包化もできるし、イグザルトと異なり、遮光・湿気等々に左右されず、
プラザキサカプセルと異なり飲みやすい剤形で、患者さん、薬を飲ませる施設の職員さんには好評のようです。
ただ、薬価がワ―ファリンよりかなり高く、お薬代においては患者さんの負担が大きい点が、期になります。
実際に、ワ―ファリンからプラザキサへ切り替えた患者さんからは、一日2回も飲みかつ、遮光袋へ入れ管理するのは面倒、
プラザキサに変えてから、便秘がひどくなったとか、めまいがするようのなったとか、ワ―ファリンに比べ食べ物を気にしなくて済むという事に大きな期待をもち、ピラザキサに切り替えた患者さんのほとんどは、
プラザキサに切り替えたことによる体調変化に敏感で、薬剤師の私には訴えてみえるのですが、ドクターにはいえず、コンプライアンスが悪くなる・・、という方もすくなくありません。
その点で、イグザルトのは大きな期待を持っていますが、まだ、長期処方とはならないので、ドクターが中々処方をしてくださりません。
私がもし、患者さんの立場なら、新薬は怖いですね。
食べ物の規制があるとはいえ、経済的な出費から考えても、ワーファリンの方が安全♪ と、
きっとワ―ファリンを望むと思います。
突然の訪問にて失礼いたしました
by はじめまして (2012-08-02 20:34)