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胃カメラの時のワーファリンをどう考えるか? [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

あなたは心房細動という不整脈を持っていて、
脳卒中の予防目的で、
ワーファリンという薬を飲んでいます。
(一般名はワルファリンですが、
語呂が悪いので商品名を使います)

ワーファリンは抗凝固剤と呼ばれ、
血が固まって血栓になるのを防ぐ薬です。
血が固まるのを防ぐことにより、
脳卒中を予防するのですが、
出血が止血するのも妨害するので、
出血が止まり難くなる、
という弊害も同時にあります。

従って、
ワーファリンを継続的に飲んでいる場合には、
身体に出血がないかどうかを、
定期的にチェックする必要性があります。

問題になる合併症の1つは胃潰瘍なので、
定期的な胃カメラ検査が行われることが望ましい、
と考えられます。

さて、問題は胃カメラをする時に、
ワーファリンをどうするか、
という点にあります。

通常の観察のみの胃カメラ検査では、
出血の危険性は殆どありません。
ただ、胃カメラの検査で、
病的な所見のあった場合には、
生検と言って、
その組織を一部取って、
病理検査に出すような必要が生じます。

生検の必要性が考えられる時、
ワーファリンの使用をどうするべきでしょうか?

幾つかの考え方が存在します。

まず、第一はワーファリンを一時的に中止して、
出血が止まり難くない状態になってから、
胃カメラの検査を行なう、
という考え方です。
これは、胃カメラの検査時に、
生検をして、
それは粘膜を傷付ける行為ですから、
出血の可能性があり、
その出血が止まらないことで、
予期せぬ合併症の、
生じる可能性があるからです。

「血をサラサラにする薬」とか、
「血液の流れを良くする薬」のように、
一言で言う場合がありますが、
その中にはワーファリン以外に、
アスピリンやクロピドグレル(商品名プラビックス)、
チクロピジン(商品名パナルジンなど)のように、
多くの薬があり、
その作用の仕方や注意点も、
それぞれに違います。

大きく分けると、
ワーファリンは抗凝固剤で、
それ以外の多くの薬は抗血小板剤です。
ただし、新規の抗凝固剤として、
昨年からダビガトラン(商品名プラザキサ)、
今年にはリバロキサバン(商品名イグザレルト)が加わり、
その仲間も3剤となります。

身体に出血するような傷が出来ると、
まずは血小板が集まって、
糊のようなものを作って止血を図ります。
小さな出血ならこれで治まりますが、
大きな出血では、
部分的に血液自体が固まって、
血の塊を作って止血をします。

抗血小板剤というのは、
この糊の働きを弱める薬で、
抗凝固剤は、
血の塊が出来ること自体を、
抑える薬です。

従って、
胃カメラの生検に限った話をすると、
生検で血管を傷付け、
出血の起こった場合、
抗血小板剤を飲んでいると、
血が止まり難く、
いつまでもジワジワと、
血が染み出すような状態が続き、
抗凝固剤を飲んでいると、
血小板の糊は出来るので、
一旦血が止まったように見えて、
実際には止血が完全ではなかったために、
後から再出血が起こる、
という事態になります。

つまり、
その起こり方が違うので、
予測するべき合併症の性質も違い、
その対応も違う、
と言う点に注意が必要です。

ワーファリンを使用している状態で、
胃カメラの検査を行ない、
生検を行なうと、
その場で止血を確認したつもりでいても、
後から再出血の可能性があるのです。

診療所で胃カメラ検査をしているような場合には、
これは絶対に避けたい事態です。

それで安全のために、
一旦ワーファリンを中止して、
血が固まり易い状態を解消し、
それから胃カメラを行なうのが、
第一の考え方です。

しかし、
ワーファリンを中止すれば、
それにより血栓が出来易くなる、
というジレンマが生じます。

問題はワーファリンのような抗凝固剤では、
一旦中止して再開した場合に、
一時的に通常より血栓が産生され易くなる、
という、一種のリバウンドが生じることが知られている、
ということにあります。

ある海外の研究によると、
内視鏡検査後1ヵ月以内の脳卒中の発症率は、
ワーファリンを継続した場合にはなかったのに対して、
減量もしくは中止した場合には、
1.06%に認められた、
という結果でした。

つまり、
ワーファリンを中断することは、
思った以上に脳卒中のリスクを高めるのです。

そこで第二の考え方は、
生検時にも原則として、
ワーファリンの減量や中止は行なわず、
その代わり施行時の止血の確認と、
その後の経過観察を、
慎重に行なう、
という考え方です。

第一の考え方と第二の考え方のうち、
どちらがより適切なものでしょうか?

皆さんもお分かりのように、
一方の考え方が100%正しい、
ということはないのです。

問題は出血を伴う手技のリスクと、
ワーファリンを中止した場合の、
血栓症の発症リスクとを、
個々に天秤に掛けて、
慎重に考える、
ということになる訳です。

ただ、それでも、
その判断の指標となるガイドラインは必要です。

アメリカのガイドラインにおいては、
内視鏡時の生検は、
出血リスクはそれほど高くはない手技と考えられていて、
そのために、
原則としてワーファリンは中止も減量もせず、
そのままで生検を行なう、
とされています。

一方で日本のガイドラインには、
やや混乱があります。

生検の場合、
ワーファリンを3~4日中止し、
ワーファリンの効果判定の基準である、
PT-INRという数値が、
1.5以下となったことを確認して、
生検を施行する、
とされています。

日本循環器学会と日本消化器内視鏡検査学会が、
別個にガイドラインを作成していて、
若干の違いはありますが、
ワーファリンの休薬に関しては、
ほぼ同一になっています。

ただ、今年ガイドラインは改訂の動きがあり、
生検については、
アメリカのガイドラインに倣って、
中止や減量はせずに、
施行する流れになるようです。

これは本決まりとなれば、
現場にはかなり混乱を招くことになりそうです。

ワーファリンを使用している場合には、
再出血のリスクが大きな問題になるからで、
入院設備や救急対応の困難な医療機関で、
その施行自体が問題となる可能性があるからです。

診療所では現状、
ワーファリン使用継続中の患者さんでは、
原則として観察のみの胃カメラ検査を、
ワーファリンは継続したまま行ない、
検査の結果で生検が必要と判断される場合には、
休薬の上再検査を行なっています。

ただ、今後ガイドラインが改訂されれば、
生検時の対応については、
より慎重な判断が必要となりそうです。

僕の乏しい経験からは、
患者さんへの聞き取りが不充分であった、
等の理由から、
ワーファリンを使用したままで生検を行なったケースは、
数例あり、
いずれも特に出血などによる問題は生じてはいません。

ただ、それはワーファリンの効き方にもより、
安易に一般化することは危険だと思います。

今後の動静を見守りつつ、
患者さんにとって安全でメリットのある、
検査の実施に結び付けたいと思います。

今日は胃カメラ検査時のワーファリンの使用についての話でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 4

taniyan

石原先生
お早う御座います、何時も身近な話題、分り易く解説下さり有難う御座います。

自分は薬効の異なるバイアスピリンを代用しています、しかし出血した際の実感なし。

先日も剃刀のように研いだ包丁で指先をスッパと切り、最初はポタポタ出血してましたが直ぐ止まりました。

自転車で扱けて脛を怪我したときもたいした出血なし、これは自分には効いてないのでは、と思ってます。

目的は動脈の狭窄が酷く梗塞防止、今のところ検出できるラクナは御座いません、変薬したほうが良いようにも思うのですが。

それでは本日も診療業務お疲れまです。
                     taniyan
by taniyan (2012-04-16 10:13) 

ekoppi

私は、ワーアァリンを毎日4.5㎎服用しています。
PT-INRは2.0~2.5位を維持しています。
弁膜症人工弁置換手術のためです。
胃の内視鏡検査のときは、ワーファリンを休薬しないで生研はしませんでした。
もし、胃に異常があって生研をするなら、ヘパリンを使いながら大学病院でするのが安全だと思います。
by ekoppi (2012-04-16 23:13) 

fujiki

taniyanさんへ
いつもお読み頂きありがとうございます。
アスピリンの有用性は抗血栓のみではないので、
一次予防であれば、
継続で問題はないのではないかと思います。
by fujiki (2012-04-17 08:11) 

fujiki

ekoppi さんへ
コメントありがとうございます。
人工弁置換術後では、
血栓塞栓の高リスクとなりますので、
そうしたご判断になるかと思います。
ワーファリンの使用目的と、
その血栓症のリスクの高低によって、
判断は異なる事項になるのではないかと考えます。

また、
個人的にはヘパリン置換で、
退院後に再出血、という事例を複数経験しており、
必ずしも入院してヘパリン置換が、
より安全性が高いとも、
言い切れないのではないかと思います。

生検はアメリカでは、
観察のみの胃カメラと同等の出血リスクという判断で、
特にワーファリンの中止や減量、
ヘパリン置換の対象にはなっていません。

ワーファリンの効きを少し弱めて、
PT-INRが1.5~2.0程度で、
そのまま行なう考え方と、
入院してヘパリンに置換して行なう考え方で、
どちらが安全性が高いのかは、
出血のリスクと血栓症のリスクとの、
両面で考える必要があり、
あまり単純にどちらとは言えないのではないか、
と個人的には思います。
by fujiki (2012-04-17 08:21) 

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