SSブログ

サプリメントで膝の痛みは解消するのか? [科学検証]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

診療所にはお膝を痛めたご高齢の患者さんが、
受診されることがありますが、
勿論整形外科には受診されながらも、
高額なサプリメントを購入し、
使用されているケースが多いのです。

変形性膝関節症というのは、
特にお太り気味の中高年の女性の方を、
苦しめる病気の筆頭ですが、
短期間で痛みが軽減した、
と言われる方がいる一方で、
治療を続けながらも、
「何をやってもちっとも効かない」
と嘆かれる方が多いことも事実です。

変形性膝関節症というのは、
膝の関節の炎症と変形とを起こす、
非常に一般的な病気です。

膝の関節というのは、
上下の骨に挟まれた部分に、
軟骨というクッションがあり、
そこに関節液という潤滑剤が溜まっています。

このうち骨は丈夫な構造ですが、
軟骨というのは骨に比べると壊れ易い、
という欠点があります。

体重が重くなったり、
無理な関節への負担があると、
一番負担が掛かるのが軟骨で、
主に内側の軟骨が削られ擦り減る、
という変化が起こります。

すると、削り取られた軟骨が、
関節の中で炎症を起こすので、
関節には水が溜まり、
痛みが起こります。
その炎症反応の結果として、
骨を作る因子や軟骨を溶かす物質が、
炎症細胞から分泌され、
そのために軟骨は悪循環で更に擦り減り、
関節内の骨が形成されて、
関節は変形してしまうのです。

つまり、問題は最初に軟骨が擦り減ることです。

軟骨はコラーゲンという繊維と、
コンドロイチンやグルコサミン、
そしてグルコサミンなどから生成される、
保湿作用のある高分子のヒアルロン酸、
などから成っています。

ヒアルロン酸を関節の中に入れたからと言って、
そのままそれが軟骨の再生に繋がるとは思えませんが、
そのクッションとしての保湿作用を期待して、
ヒアルロン酸の関節内への注射が、
治療として行なわれているのは、
皆さんもご存知の通りです。

さて、サプリメントとして、
グルコサミンやコンドロイチン、
ヒアルロン酸などが、
場合によってはかなり高価に販売されています。

これは本当に効果のあるものなのでしょうか?

ヒアルロン酸と、
グルコサミン、コンドロイチンとは、
まず分けて考える必要があります。

ヒアルロン酸は高分子なので、
口から摂取したヒアルロン酸が、
そのまま身体に吸収される、ということは、
ほぼ考えられません。

従って、ヒアルロン酸のサプリメントは、
基本的には無意味と考えられます。

ただし…

少数ですが、効果があった、
とする文献が存在しています。

ただ、そのメカニズムは不明ですし、
現時点では眉唾に思われます。

グルコサミンとコンドロイチンは、
ヒアルロン酸と比較すると低分子の物質です。

基本的には人間においても、
吸収され血液中に移行することは確認されています。

従って、ヒアルロン酸と比較すると、
グルコサミンやコンドロイチンが、
関節の軟骨に補充される可能性は、
皆無ではない、と考えることが出来ます。

ただ、口から摂取したグルコサミンやコンドロイチンが、
関節軟骨に移行することを示すデータは、
現時点では存在していないようです。

このサプリメントとしての使用は、
1990年代の後半から注目され、
2001年には英国の一流の医学誌Lancet誌に、
グルコサミンの3年間の内服により、
変形性膝関節症が改善した、
という内容の論文が掲載されています。

その後主に2000年代の前半に、
グルコサミンの有効性を示す、
多くの論文が発表されました。

メカニズムは不明であるけれど、
グルコサミンの使用には、
一定の効果がありそうだ、という流れが生まれました。

ただ、その肯定的な内容の論文の全てが、
特定の会社の製品であるグルコサミンを使用していて、
当然のことながら研究費もその会社から出ている、
ということが明らかになり、
どうもこの結果には問題があり、
バイアスが掛かっているのではないだろうか、
という疑念が生じたのです。

その疑念を受けてアメリカで、
大規模な臨床試験が行なわれました。
これはGAIT研究と呼ばれ、
2006年のNew England Journal of Medicine誌に、
その結果が発表され、
2008年には補足データも発表されています。
これはグルコサミン、コンドロイチンの単独、
及び両者の併用の効果を半年後に検証したものです。

半年という期間は、
こうした研究ではやや短い感じは否めません。

その結果は単独ではプラセボ(偽の薬)と比較して、
有意な差がありませんでした。
両者の併用では、
疼痛の改善効果が認められましたが、
関節のレントゲン所見には改善はありませんでした。
ただ、この改善効果も、
プラセボでも6割は認められているので、
その判断は非常に微妙なところです。
しかし、両者のサプリメントで、
特に有害事象が認められなかった点は、
評価に値すると思います。

以上をまとめると、
ヒアルロン酸のサプリメントには、
ほぼ効果がないと言えますが、
グルコサミンとコンドロイチンの併用は、
たとえば半年程度と限定して、
痛みの緩和があるかどうかを指標にしつつ、
使用することは悪くはないと、
現時点では考えられます。

仮に効果があるとして、
そのメカニズムに関しては、
現時点ではあまりはっきりした結論は、
出ていないようです。

今日はサプリメントと膝の痛みの話でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(31)  コメント(7)  トラックバック(0) 

nice! 31

コメント 7

noringo

 とても、科学的なこともわかりやすく、教えていただき、ひざの痛みへのサプリメントをどうすればいいのか、自分で考えることができました。

 実は、先生のブログは、20代の娘の高血圧のことを調べていて、ヒットいたしました。レニンにかかわる高血圧症のブログです。

 娘は、アルデストロンの数値は異常に高く、レニンは正常。10日間の検査入院もして調べたのですが、原因がわかりませんでした。先生のブログで、少しづつでも、からだのことを理解し、勉強していければと思います。ありがとうございます!
by noringo (2011-11-25 13:31) 

こはく

私は様々なサプリを試すほうです。
実際に楽になれば続ける、という感じです。
よくなればプラセボ効果でも何でもいいのですが・・・
悪化したなど良くないニュースを聞くともうだめです(笑)
効果がなくなるだけじゃなく具合まで悪くなります。
きちんとした信頼できるデータが欲しいと思っています。
今回もいいお話をありがとうございました。
by こはく (2011-11-25 14:13) 

fujiki

noriongo さんへ
コメントありがとうございます。
そう言って頂けると励みになります。
これからもよろしくお願いします。
by fujiki (2011-11-26 08:10) 

fujiki

こはくさんへ
コメントありがとうございます。
サプリメントの臨床試験では、
プラセボでも6~7割が有効となるのが稀ではないので、
心理的な面は矢張り大きいのかな、
という気はします。
要するに害がないかどうかが一番の問題で、
試験を行なう意味は、
主にその点にありそうです。
by fujiki (2011-11-26 08:12) 

モンクレールダウン

はいけんさせていただきました。

by モンクレールダウン (2011-11-26 15:02) 

三上

最近膝の痛みに悩んでいて、Googleでサプリメントを探していて、このブログにたどり着きました。

科学的な解説がとてもためになりました。サプリメントにあまり効果が期待できないとなると、これからどうすればいいか、さらに悩みが深まりそうです。

by 三上 (2012-12-02 08:56) 

fujiki

三上さんへ
コメントありがとうございます。
少しでもご参考になる点があれば幸いです。
by fujiki (2012-12-03 08:35) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0