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アスピリン喘息とCYP2C19 との関連性について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

先日こんなニュースがありました。

【アスピリンぜんそく:遺伝子変異初めて特定 解熱剤の投与前予測可能に】
【せんそく患者がアスピリンなどの解熱剤によって重篤な発作を引き起こす「アスピリンぜんそく」について、原因の1つとなる遺伝子変異を初めて特定したと、○○研究所が発表した。この遺伝子変異の有無を調べることで、アスピリンぜんそく発症の危険性を解熱剤投与前に予測出来る。】

アスピリン喘息というのは、
主にCOX-1阻害作用という、
炎症物質の生成に関わる酵素を抑える作用により、
喘息発作の悪化する体質のことで、
喘息発作の特殊型と考えられています。

この体質を持つ喘息の患者さんは、
風邪薬などに含まれている、
一般的な解熱鎮痛剤などで、
急激な喘息発作が誘発されるので、
その事前の予測が困難なことからも、
患者さん本人と医療者の双方にとって、
大きな問題となっています。

アスピリン喘息には、
明確な遺伝性はないとされていますが、
思春期以降の女性に多い、
という特徴があり、
そうした点からも、
何らかの遺伝的な素因が関与していることは、
推測がされていました。

しかし、アスピリン喘息という病気の性質上、
単独の遺伝子の変異が、
大きく影響している可能性は、
低いとも考えられていたのです。
成人の喘息の患者さん全体のうち、
アスピリン喘息の患者さんは、
約1割になる、と考えられています。
それだけの比率が、
単独の遺伝子変異で説明出来る可能性は、
通常そう高くはないと想定されるからです。

そこで今回の報道記事を読むと、
ある遺伝子変異がアスピリン喘息の原因であり、
それを予め検査することで、
その診断が可能であるかのような文面になっています。

そんな都合の良い話が、
本当にあるのでしょうか?

当該の研究結果は、
アメリカアレルギー喘息免疫アカデミー誌に、
掲載予定とのことですが、
サイトを見た範囲では、
まだ掲載はされていないようです。

報道記事によると、
これはCYP2C19という肝臓の薬物代謝酵素の変異の有無で、
アスピリン喘息以外の喘息患者300名中、
CYP2C19の変異が50名程度に認められたのに対して、
アスピリン喘息患者では、
100名中54名がその変異を持っていた、
と書かれています。

つまり、アスピリン喘息の患者さんでは、
通常の喘息の患者さんに比べて、
その変異の頻度が3倍以上多かった、
という結果です。

しかし、これでCYPの変異が、
アスピリン喘息の原因である、
と言えるでしょうか?

CYPの変異を調べることで、
アスピリン喘息の有無を判定出来る、
と言えるでしょうか?

論文自体はまだ読んでいないので、
そこにはもっと画期的なデータが、
追加されているのかも知れませんが、
報道の内容のみのデータしかないのだとすれば、
そんなことは言える筈がないと、
皆さんもお感じになると思います。

CYPというのは肝臓の薬物代謝酵素で、
CYP2C19 はこのうち、
プロトンポンプ阻害剤というタイプの胃薬や、
一部の安定剤などの代謝にかかわります。
診療所でもこのCYPの変異の検査を行なっています。

このCYP2C19遺伝子には*2と*3という変異型があり、
いずれもその代謝活性が低下します。
つまり、この変異を持っている人が、
CYP2C19で代謝される薬を飲むと、
その薬の効きが強くなり、
場合によって危険なケースがあるのです。
日本人における*2の変異の頻度が28.4%、
*3の変異の頻度が3.3%と報告されています。
(メディビック社の資料より)

これからすると、
確かにアスピリン喘息の患者さんの変異の頻度は、
通常より数倍多いのですが、
それ以外の喘息患者さんにおける変異の頻度が、
やや少な過ぎるような印象を受けます。

何故多くの遺伝子変異のうち、
CYP2C19の変異を測定したかと言うと、
それは喘息の患者さんでこの変異が多い、
という文献がこれまでにも複数存在しているからで、
今回の結果のミソは、
それが喘息全体ではなく、
アスピリン喘息に限って多いのではないか、
という知見にあるのです。

それではこの知見が事実として、
何故アスピリン喘息の患者さんでは、
この変異の頻度が多いのでしょうか?

幾つかの可能性が考えられます。

まず、第一はこの変異とアスピリン喘息の病態との間に、
直接的な関係がある、という可能性です。

普通に考えると、
CYPは薬物代謝酵素ですから、
アスピリン喘息のメカニズムとは、
あまり関係はなさそうです。

ただ、たとえばアルコールの代謝酵素である、
ALDH2という酵素は、
ニトログリセリンによる血管の拡張にも、
別個に関与していることが証明されたような前例もあるので、
CYP2C19という酵素が、
別個にCOX-1やロイコトリエンに、
関連した役割を果たしている、
というような可能性も、
ないとは言えないのです。

もう1つの可能性は、
CYPの変異と別個の遺伝子変異とが、
何らかの形でリンクしていて、
CYPの遺伝子変異のある人には、
その別個の遺伝子変異の頻度の多いので、
見掛け上CYPの変異と関連のあるように見える、
という可能性です。

僕はどちらかと言えば、
この後者の可能性の方が、
高いように思います。

このCYPの変異の測定は、
アスピリン喘息の体質の推定に、
どの程度役に立つ可能性があるでしょうか?

アスピリン喘息には、
思春期以降の女性に多く、
鼻詰まりを伴う蓄膿を、
ほぼ100%合併していて、
風邪症状の繰り返しから、
鼻詰まりとそれに伴う「臭いが分からない」
などの症状が続き、
その後に喘息や咳症状に移行する、
というような典型的な経過があります。

こうした症状や経過の診断能力は、
CYPの変異による診断能力より、
遥かに勝るものだと思います。

上の報告を事実としても、
アスピリン喘息の患者さんの46%には、
CYPの変異はないのですから、
それで「アスピリン喘息の原因となる遺伝子変異を発見!」
のような表現は、
ちょっと誇大広告に類するものだと僕は思います。
(これは勿論当該の研究所が誇大広告をしている、
と言う意味ではなく、
それを取り上げるメディアの表現が、
誇大ではないか、という意味合いです)

ただ、それではこの検査が無意味かと言えば、
勿論そうではなく、
喘息やアレルギー性鼻炎の患者さんで、
一度CYPの変異を見ておくことは、
その患者さんの診断と治療を行なう上で、
重要な情報の1つになることは間違いのないことです。

しかし、その意味付けには注意が必要で、
現状では単独で何かが言えるものではなく、
その限界をよく知った上で、
補助的に用いてこそ、
患者さんの利益になるものだと僕は思います。

今日はCYPの変異と、
アスピリン喘息との関連性についての話でした。

本日の内容は一般の報道のみをそのソースにしていますので、
誤りがあるかも知れません。
文献の内容を確認しましたら、
またその時点で記事にしたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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