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ニトログリセリンとその耐性について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
ニトログリセリンの耐性文献.jpg
今月のScience Translational Medicine誌に掲載された、
ニトログリセリンの耐性と、
その予防のための方策についての、
動物実験の論文です。

ニトログリセリンに代表される硝酸薬は、
19世紀から狭心症の発作に使用されている、
非常に古い薬ですが、
今でも急性の心臓発作の際には、
それに勝る処方はありません。

その典型的な使用法は、
胸が痛くなる発作の時に、
舌の下に薬を入れる、
「舌下投与」です。

硝酸剤はどのようにして効くのでしょうか?

硝酸剤は血管の平滑筋の中で一酸化窒素に変化し、
それが血管の平滑筋を緩めるため、
胸痛発作の改善効果があるのだとされています。

狭心症の発作というのは、
動脈硬化で狭くなった血管が、
何らかの要因により収縮するために起こるので、
その血管を緩める作用のある硝酸剤が、
発作の改善に効果があるのです。

ところで…

硝酸剤を継続的に使用すると、
その効果が弱まることが、
以前から知られていました。

この耐性は硝酸剤の血液中の濃度が、
高い状態が持続することにより生じ、
早ければ使用後24時間以内に始まるとされています。

たとえば不安定な狭心症で、
心筋梗塞の危険性が高い場合などには、
入院の上硝酸剤の注射が、
24時間持続で行なわれますが、
こうした場合にはすぐに耐性が生じることがあるのです。

一方でお酒が弱い体質の人は、
硝酸剤が効き難い、
という面白い報告が中国でありました。

ALDH2という酵素があり、
これはアルコールを、
肝臓で分解する酵素として知られています。
CYPと同じようにこの酵素に変異があると、
お酒が分解され難いので、
すぐに顔が赤くなり、
具合が悪くなってお酒を飲むことが出来ないのです。

この酵素の変異は、
日本人に多いと言われています。

診療所では現在この酵素の変異の測定を、
CYPの変異の測定と同時に行なっています。

このお酒を飲めない体質の人が、
何故硝酸剤の効きも悪いのでしょうか?

実はALDH2は硝酸剤の一酸化窒素への変化を、
誘導する働きがあるのです。
つまり、硝酸剤が血管を拡張するには、
ALDH2が必要なのです。

これがお酒の弱い人は、
硝酸剤の効きも悪いことの理由です。

硝酸剤を継続的に使用していると、
ALDH2の活性が低下します。

必ずしもこれだけが硝酸剤の耐性の理由ではありませんが、
その1つであることは事実のようです。

耐性が生じているのに硝酸剤を使用し続けると、
どのようなことが起こるでしょうか?

硝酸剤には長時間作用型の、
飲み薬や貼り薬があります。

心筋梗塞の後などに、
予防的にそうした薬を継続することは、
実際には稀なことではなく、
硝酸剤は心不全にも一定の効果が期待出来るため、
その目的で継続使用される場合もあります。

こうした使用法が有害なものであるかどうかは、
まだ結論が出ていません。

長期間硝酸剤を使用している患者さんで、
心臓死が増え死亡率も高かった、
という論文が1999年に発表されていますが、
データベースを元にしたもので、
コントロールが設定されていないなど、
その結果にはまだ議論の余地があります。

そこで今回の論文ですが、
ネズミを使った実験において、
ニトログリセリンの16時間の継続使用により、
心筋のダメージの増加が認められ、
それがALDH2活性を刺激する薬剤の使用により、
予防されたという結果が得られた、という内容です。

これはつまり、
硝酸剤の継続使用により、
ALDH2活性が低下すると、
そのことにより心臓のダメージが増加し、
それはALDH2活性を回復させることにより改善する、
ということを示唆しています。

ただ、これが事実であるとすると、
お酒を飲めない体質の人は、
それだけで心臓の筋肉にも障害が生じ易い、
ということになります。

勿論そんな事実はないのですから、
ALDH2活性だけが、
硝酸剤長期使用の際の、
心臓のダメージ増加の原因とは言えないのだと思います。

また、今回の結果はあくまで動物実験であることにも、
注意が必要です。
この結果がそのまま人間に適応出来るとは限りません。

硝酸剤の継続的な使用で、
その耐性が生じることは事実です。
ただ、それが本当に心臓にダメージを与えるのかどうかについては、
まだ結論は出ていないのです。

継続的な硝酸剤の使用を、
どう考えれば良いのでしょうか?

耐性予防のためには、
貼り薬は発作のリスクの高い時間を避け、
1日のうち8~12時間ははがしておくのが良いとされています。
長時間型の飲み薬は、
朝と午後3時の使用とし、
夕方から夜は使わないことが推奨されています。
硝酸剤に似た効果の薬として、
ニコランジル(商品名シグマートなど)があり、
耐性を誘導し難いとされているので、
ニコランジルへの変更も1つの選択肢です。

ただ、基本的に硝酸剤の持続的な使用は、
仮にそれが1日以内であっても、
耐性を生じることがある、
という点を心に刻み、
発作時のみの使用が原則で、
それ以外の使用はあくまで例外的なものであることを、
常に頭に置く必要があるのだと思います。

今日はニトログリセリンの耐性についての話でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 6

ちばおハム

ニトロは一般的な薬であるのですが、耐性があるというのは知りませんでした。パッチの貼付なども一般的だったような気がするので、意外です。発作がある場合はニトロの舌下が第一選択になるんでしょうか?それがながくつづくとニトロの舌下が効かない、ということもありうるということでしょうか。
by ちばおハム (2011-11-15 15:04) 

Licca

はじめてコメントさせていただきます。
宜しくお願いします。

私はお酒に弱く、元気な看護師さんにたっぷりのアルコール綿で
ゴシゴシされると、皮膚が真っ赤になります。
不都合はこれぐらいかと思っていましたが、
ニトログリセリンにも注意が必要のようですね。

最近では「アルコール消毒は大丈夫ですか?」と聞かれるのが
あたりまえになっていて、ずいぶん楽になりました。
代替品の準備もできています。
ですから、そうでない医療機関にはちょっとがっかりします。
日本にはアルコールに弱い人、多いと思うんですけど。

by Licca (2011-11-15 17:29) 

fujiki

ちばおハムさんへ
コメントありがとうございます。
これはある程度の血中濃度が、
持続することにより耐性が生じるので、
ニトロの舌下のような場合は、
毎日何回か使用しても、
その間に濃度の下がる時間がありますから、
耐性は生じ難いという考えだと思います。
問題は貼り薬の長期間の使用で、
記事に書きましたように、
1日8時間以上は剥がしておく、
というのが推奨されていますが、
実際には患者さんの混乱を招く面もあり、
そのまま使用されているケースが多いのが、
現状だと思います。
専門の先生の間でも、
この問題についてはかなりの温度差があるようです。
by fujiki (2011-11-16 08:36) 

fujiki

Licca さんへ
コメントありがとうございます。
アルコール消毒の件は、
参考にさせて頂きます。
これからもよろしくお願いします。
by fujiki (2011-11-16 08:37) 

ちばおハム

このはがしておく時間、というのが今までの経験でなかったので、これからは気を付けたいと思います。
(今パッチを貼付しているわけではありませんが)
ありがとうございました。
by ちばおハム (2011-11-16 14:23) 

fujiki

ちばおハムさんへ
どの時間帯にはがすのか、
それとも貼ったままでおくのか、
という点はちょっと微妙な問題で、
症状や病態にも拠りますので、
ご使用の際は必ず主治医とその点は、
よくご相談の上決めて下さい。
by fujiki (2011-11-18 08:18) 

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