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温故知新(インフルエンザ診断キット篇) [仕事のこと]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は水曜日で外来診療は午前中のみです。
受診予定の方はご注意下さい。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

新聞やネット、テレビなどの医学記事には、
「画期的な発見」とか、
「世界で初めて日本の研究機関が開発」
のような見出しが踊るのが常ですが、
その内容は必ずしもその見出し通りではないことが殆どで、
「画期的な発見」の筈が、
その後何年経っても実際の患者さんの利益には、
何らならない事は日常茶飯事です。

ブログを開設して3年8ヶ月になりますが、
その間に取り上げた話題の中にも、
そうしたものが多くあるように思います。

ちょっとだけ自慢をさせて頂ければ、
当時「これは眉唾だよ」と思ったニュースは、
概ねそのうち自然消滅しています。

そんな中から、
折に触れ幾つかの話題を取り上げたいと思います。
当時大きく取り上げられた話題が、
今どのようになっているのかを、
検証してみたいのです。

そろそろインフルエンザのシーズンですので、
今日はインフルエンザ絡みの、
こんなニュースを取り上げます。

2009年の新型インフルエンザ騒動の時に、
こんなニュースがありました。

野田聖子・科学技術政策担当相は22日の閣議後会見で、冬のインフルエンザ流行シーズンに備え、新型インフルエンザの早期診断法の開発などを目指す緊急研究を開始すると発表した。文部科学省の科学技術振興調整費から1億数千万円を国立感染症研究所や理化学研究所など4研究機関に配分する方向で調整しているという。 内閣府によると、現在は新型インフルエンザウイルスの遺伝子検査に数時間以上かかっているが、市中の医療現場でも1時間程度で診断できる簡便な検査法を確立し、ウイルスのまん延防止に役立てる。過去に流行したウイルスとの関連や発生状況を迅速に把握できるサーベイランス体制についても研究する。
(毎日新聞ニュースより)

これは2009年の5月の話で、
僕はこの新聞記事を元に、
5月23日にブログ記事を書きました。

1億数千万円という税金が、
ドブに捨てられるのではないか、
と直感的に感じたからです。

当時は新型インフルエンザの診断が、
保健所を介して行なわれ、
その遺伝子診断の結果が発表されるまでに、
時に1日以上の時間が掛かることが、
遅すぎると問題になっていました。

それでこの遺伝子診断を、
1時間以内で出来るような技術の開発に、
1億数千万円の税金が、
拠出されることになったのです。

ただ、実際には遺伝子診断の時間を短縮する技術は、
他のウイルス疾患等の遺伝子診断では、
その時点で既に開発済みで、
それを新型インフルエンザウイルスに、
応用すれば良いだけの話でした。

つまり、最初から簡単に出来るようなことを、
わざわざ大袈裟に宣伝し、
研究費が税金から何処かに消えたのです。

当時僕のような末端の医者が、
本当に困っていたことは、
高熱の患者さんが受診され、
簡易検査でA型インフルエンザ陽性と出た時に、
それが新型であるのかそうでないのかが、
判断出来ないというジレンマでした。

遺伝子診断は保健所に依頼しなければやってはもらえず、
それは集団感染の場合に限って行なわれていました。

当時は新型インフルエンザは、
通常のインフルエンザとは異なる、
「特別な病気」であり、
その診断が簡単に実施出来ないということが、
医療者にとっても患者さんにとっても、
一番のストレスだったのです。

そこで僕が欲しかったのは、
診療の現場で簡単に出来る簡易検査で、
新型インフルエンザかそうでないかを、
診断出来るようなキットでした。

上の記事には、
如何にも僕のような診療所でも、
遺伝子検査が出来るような技術が開発されるように、
文章は書かれています。

しかし、実際には当時想定されていたのは、
保健所や衛生研究所での従来の遺伝子検査において、
その診断までの時間を短縮するための技術であって、
市井の医療機関で使用出来るようなものではありませんでした。

そして2年の月日が流れました。

巨額の費用を掛けた診断技術は、
果たして実用化されたのでしょうか?

それはまあ、されたのかも知れませんが、
実際にそうした検査を日常の臨床に採用している病院など、
日本の何処にも存在はしていないと思います。

インフルエンザウイルスの遺伝子診断は、
これまでと同じように、
自治体や国の研究施設で行なわれているだけです。

第一「新型インフルエンザ」自体が、
季節性インフルエンザの中に取り込まれ、
それと同じ意味しか持たなくなったのですから、
特別にその診断を急いで行なう、
という必要性自体が消滅してしまったのです。

ただ、その間にインフルエンザの簡易検査は、
格段の進歩を遂げ、
簡単に1回の検査で、
2009年の新型と季節性のA型インフルエンザ、
そしてB型インフルエンザを、
鑑別するキットが安価に発売されています。
検体もかんだ鼻水でも可能となり、
鼻の奥に綿棒と突っ込む方法を、
激しく嫌う方のニーズにも、
応えられるようになりました。
(ただし、基本的には鼻の奥から取った方が、
その検出感度は良いようです)

つまり、僕の2009年の時の夢は、
今では現実のものになったのです。

しかし、このキットはアメリカ製の輸入品です。
添付文書を読んでも、
その検出の仕組みは良く分かりません。
わざと曖昧に書かれているからで、
どうも企業秘密の部分があるようです。

つまり、本来はこうしたキットの開発にこそ、
税金が投じられる意味もあるのですが、
概ね税金はそういう用途には使用はされないのです。

税金の無駄使いとは、
要するにそうしたことではないか、
と僕は思います。

上の例で言えば、
保健所の検査に掛かる時間を短縮するための技術に、
お金を使うのではなく、
どのような末端の医療機関でも実施可能な簡易検査で、
新型インフルエンザの鑑別が可能となるような、
そうした技術の開発にこそお金を使うべきだったのです。
そうした検査の方が圧倒的にニーズがあるからで、
その事実に気が付けば、
誰も時間短縮の技術に予算を付けよう、
などとは思わないと思います。

しかし、実際には多くの場合、
その表向きの目的は一種の口実であって、
特定の機関にお金を廻すことが目的なのですから、
こうした研究費の無駄使いは、
多分今後も同じように続いてゆくのだと思います。

今日は2009年の記事を元に、
インフルエンザの診断の技術の問題を考えました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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