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TARCとケモカインの話 [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

昨日は診療時間の変更でご迷惑をお掛けしました。
本日は通常通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はアレルギー疾患、
特にアトピー性皮膚炎の状態を把握する上で、
非常に有用な血液検査である、
血清TARC値とその意味についての話です。

TARCとは何でしょうか?

TARC(thymus and activation regulated chemokine )は、
ケモカインと呼ばれる蛋白質の一種です。
TARC/CCL17 というのが、より正確な表記です。

白血球という細胞があります。

身体の防衛軍の主力部隊で、
細菌などの外敵から、
身体を守る役割を果たしている細胞です。

あなたが怪我をして、
その部分に細菌が繁殖し、
身体に侵入すると、
その部分は赤く腫れ上がって熱を持ち、
痛みが生じます。

これは傷付いた組織への細菌という外敵の侵入に対して、
その患部に白血球が集まり、
炎症を起こす、
ということを意味しています。

白血球は通常は血管の中に存在しているのですが、
いざ外敵が侵入したぞ、
という信号が届けられると、
血管の中から外に出て、
細菌が繁殖した、
その傷付いた組織へと集結するのです。

これを、「白血球の遊走」と呼んでいます。

白血球はどのようにして遊走するのでしょうか?

これは「集合場所はここだぞ」という信号が、
出ている場所に集まるのです。
外敵である細菌やその分泌する毒素に反応して、
集まる訳ではありません。

クヌギの樹液の甘い匂いに、
引き寄せられて集まる甲虫のように、
白血球はある種の物質に吸い寄せられ、
その物質のあるところに集まるのです。

このように、
白血球を呼び寄せる物質が、
炎症物質の一種であるケモカインです。

皮膚の炎症であれば、
皮膚の角質細胞や血管の上皮細胞から、
ケモカインが分泌されます。
気道の炎症であれば、
気道の上皮細胞からケモカインが分泌されます。
そして、腸の炎症であれば、
矢張り腸の上皮細胞から、
ケモカインが分泌されて、
そこに白血球を呼び寄せるのです。

組織にはその組織に特有のケモカインがあります。

大量に分泌されたケモカインは、
血液でも測ることが可能なので、
特定のケモカインが上昇していれば、
身体のどの部位に、
どのような程度の炎症が存在するか、
ということが、
ある程度推測可能なのです。

そして、現時点で最も病気の指標としての有用性が高い、
と考えられているのが、
TARCと呼ばれるケモカインと、
アトピー性皮膚炎との関連性です。

アトピー性皮膚炎は、
アレルギーが要因となった代表的な皮膚炎ですが、
その本態は皮膚に起こるアレルギー性の炎症です。

炎症と言うからには、
その炎症の部位からはケモカインが産生され、
それが特定の白血球を引き寄せるのです。

アトピー性皮膚炎の場合、
産生されるケモカインの代表がTARCで、
これが特定のリンパ球を遊走させ、
それが皮膚炎の炎症の主体になっています。

ここで重要なことは、
このTARCの血液中の数値が、
アトピー性皮膚炎の炎症の強さと、
ほぼ同じ意味合いを持っている、
ということです。

アトピー性皮膚炎の炎症の重症度を、
的確に示すような血液の数値というものは、
これまでには存在しませんでした。

概ね血液のIgEという免疫グロブリンの数値や、
好酸球という白血球の数を参考にするのですが、
こうした数値にはかなりの個人差があって、
炎症の強さを反映することもあれば、
そうでないこともあります。

一方でこのケモカインのTARCは、
炎症が強くなれば上昇し、
炎症が沈静化すれば、
それに合わせて低下します。

通常アトピー性皮膚炎の治療には、
ステロイドを主体とした外用剤を使用し、
ステロイドが無効のケースでは、
免疫抑制剤が使用されますが、
たとえばステロイドの治療が奏効すると、
TARCの数値も低下します。

この数値が500pg/ml 以下であれば、
軽症のレベルで、
700を超えれば中等症の炎症があり、
紅皮症と呼ばれる急性の増悪時には10000を超えます。
たとえば、最初3000の数値であったケースで、
ステロイドの外用剤により、
数値が500以下に低下すれば、
ステロイドの使用量を減量する、
1つの目安となり、
不必要にステロイドを過剰に使用する事態も、
避けられるのです。

また、稀ですが、治療によっても、
TARCの数値が10000以上という高値を持続する時は、
リンパ系の悪性腫瘍が隠れているケースも、
報告がされています。
これは要するにある特性のリンパ球が、
異常に増殖するために、
そのリンパ球に関連するケモカインが、
増加したものと考えられます。

この検査は2008年から健康保険でも、
アトピー性皮膚炎の病勢の判定に限って、
その測定が可能です。

本来はもっと幅広くアレルギー疾患全般で、
その病勢を的確に示すマーカーが存在すれば良いのですが、
現状はTRACとアトピー性皮膚炎との関連性が、
臨床のレベルではほぼ唯一のもののようです。

アトピー性皮膚炎をお持ちの方は、
一度は検査をされることをお勧めします。

今日はアレルギー性疾患の新しい検査法の話でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 4

ごぶりん

2年以上前から保険診療になっていたのに、全然知りませんでした。
ケモカインの値がそんなに役に立つとは…。
ケモカインは薬が阻害する物質というイメージがまずありましたんで・・・。
大変勉強になりました。

by ごぶりん (2011-08-27 23:24) 

fujiki

ごぶりんさんへ
コメントありがとうございます。
こういうマーカーが、
他のアレルギー疾患でも、
存在すれば良いのに、とは思いますが、
現状は難しいようです。
by fujiki (2011-08-29 08:16) 

イッチ

先生の仰られているタークというのを受けてみた者です。

IGEが2350でタークが285でした。

数値としては落ち着いてきているようですが、
その割に三日に一回全身にリドメックスコーワローションをビーソフテンローションでうめて塗らないと赤みがあっちこっちに出て痒くて寝られません。
(顔はプロトピックをうめてぬっています。)
私は悪化して一年くらいなのですが、タークがこれだけ下がっているのになぜ炎症によるかゆみとあかみは定期的に出てき続けるのでしょうか?

コウレンゲドクトウとうい漢方もまったく効きません。
(炎症に良い漢方などあれば教えて頂けませんでしょうか?)
一体どうすれば赤みと炎症をステロイド週一回くらいで出ないようにできるのでしょうか?

また、液体のステロイドや液体でうめた者を使うとステロイドの浸透力が上がり逆に副作用が出やすくなると聞いたのですが、
そのようなこともあるのでしょうか?
それであればロコイドをそのまま塗るか、ワセリンはべたべたして無理なので、乳液などビーソフテンよりは水っぽくないものに、
混ぜたほうが副作用は低いでしょうか?

お急がし中大変申し訳ありませんが教えて頂ければありがたいです。
by イッチ (2015-01-24 11:56) 

翻訳やさん

TARCの説明を探していました!
素晴らしい説明です。ありがとうございます。
またお助け下さい。
by 翻訳やさん (2015-07-29 11:31) 

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